あの日潰えた夢の先の話
さて、何から語ろうか。
始まりは、2019年にまで遡る……らしい。アニメ映画「アナスタシア」を大好きな尊敬する先輩がTwitterで嬉しそうにしていた。ついにその作品のミュージカルをやるのだという。
「(先輩の一番好きな俳優)が主演ですか!?」と皆口々に戯けていたっけ。
2020年の3月、仲のいい三人でチケットを取った。みんなで会おうって約束した。待ちに待った公演の7日前に、流行病でそのチケットは無に帰した。
悔しかった。苦しかった。でも、その先輩のほうがずっとずっと悲しかっただろう。
いつかまた。そう願って諦めた四ヶ月後の2020年7月。
先輩の一番好きな俳優が、死を選んだ。あの時ほど彼女が心配だったことはない。知る限りの方々に話を回して、柔らかく彼女を包んだ。それしか、やれることがわからなかった。
それからさらに、半年後の2021年2月。宝塚の方でアナスタシアのライブビューイングで我々は『座標の違うオフ会』をした。同じものを見て、感想を語って。嬉しくてワンピースを買ったんだっけ。それがもう、そんな前か。
そして流行病がひと段落したと思われるようになった昨年9月。また幕が上がるという告知があった。もう一度!そう夢を見て、足掻いて。
今年の6月に、先輩から声をかけられた。チケット取れたよ、一緒にどう?って。とってもうれしかった!平日だから少しだけ悩んで、行くことを選んだ。
その間に転居した私は、街を出るための移動だけで車酔いして体調を崩すような僻地にいたけれど。そんなことは全部どうでも良かった。
夏季休暇が10月末まで使えたのをいいことにえいや!と休みをもぎ取って、大阪に引っ越した大切な友人とも会えるように画策して。
そして、今日に至った。
朝8時に出て、大阪に着いたのは12時半くらいだった。酔いまくって体調を崩した結果、逆に新幹線でたくさん寝れたからだいぶマシだった。いいのか悪いのか。
あの日買った、ワンピースを纏った。とっても可愛くてお気に入りだ。
先輩と合流して、人生初のアフタヌーンティーを嗜んだ。偶然にももう1人の友人もこちらを食しており感想を語り合えたのもまた、嬉しかった。彼女は宗教行事(別ジャンル)の関係で今回の参戦ができなかったのだ。しかしまあ、リベンジするぞという気概になったのでよしとする。
タクシーで初めて向かった梅芸は、とっても綺麗だった!
アフタヌーンティーを嗜み過ぎてお手洗いが近く不安だったのだが、席に着いたら若干左側とはいえ前から二列目だった。
前から二列目!!?!
見れば先輩はセンターブロックの前から三列目であった。近すぎ。見上げてたから逆に首が痛い。
アナスタシアという物語自体や楽曲は宝塚版と変わらない。だからこそ細やかな違いを味わうことができた。
衣装はどちらもため息が出るほど美しい!軍服はどちらもかっこいいなあ……うっとりする。
演出はやはり大掛かりなミュージカルに惹かれるが、細やかな動きは宝塚の方が繊細だと感じた。ミュージカルは背景のモニターをうまく使っていてすごかった。列車も良かったな……
一幕のロシアの褪せた風景(マイペテルブルクを除く!)から二幕では華やかすぎて下品に感じるほどの色に溢れたパリへの移り変わりはやはり見事。
そしてどちらもバレエのシーンで息を呑むのだが、ミュージカル版の滑らかさと力強さが圧倒的で一番惹き込まれた。
ソビエト軍が出てくる時の背景が真っ赤で「おおう……」と思ったのだが、よくよく考えると最後にグレブと向かい合う時のドレスも真っ赤だと気付いて悶えた。
先輩にその話をしたら、「最初はロマノフの白、次に見定められるときは青、そして認められてからは赤いドレスを纏うね」と言われた。
つまりは、ロシア国旗の色であり、トリコロールであるわけだ。なんて美しいんだろう!
キャストさんに関しては主演のお二方が本当に歌が上手い…!
相葉さんはデビュー作から存じ上げていたがあんなに生き生きと演じる方なのかと魅入られたし、
木下さんの声量は凄まじく表情が愛らしく演技がとっっても好きだった。推します。
石川さんは歌がうますぎる。コミカルな場面とたっぷりな色気をたくさん浴びさせてもらった。
リリーのマルシアさんは言うまでもないくらいに最高!そもそもリリーは二幕のみの出演だのに「優秀でひたむきな秘書」「虚しくも華やかな女」という二つの面を描かれるが一貫して強さがある存在である。お見事だった!ドスの利かせ方が何よりも好きだ!
ところで私は、そもそもグレブという男が好きである。あけすけに言えば性癖だ。
・親がロマノフ王朝を滅ぼした兵士の1人
・しかしそれを苦に自殺したものの「父は使命を全うした!」と思っている兵士
↑が銃弾らしきものを聞いて怯える少女に恋に落ちる
・しかし少女が詐欺行為を働こうとしている1人だと情報が入り呼び出す 打ち解けようとするも意見はすれ違い決別
・上層部から「父の仕事を全うしろ」と少女を殺すように命じられる
・銃を突きつけるも撃てなくて崩れ落ちる
・最後に上層部に「彼女は居なかった」と伝える(おそらくこの後処刑される)
全部好き。コミカルな場面を挟まされるのも好き。それをさあ!!!田代さんとかいう人はさ!!!理想完璧すぎたんですけど!!?!歌も最高だし所作もかっこいいが最後の撃てないと崩れ落ちるところが、もう!!
と呻いていたら別のミュージカルを勧められている。なんでや。
皇女アナスタシアは夢と消えた。されど我々の友情やら縁やらこれからは消させやしない。生きている限りこの先も続く諸々を抱きしめていきたい。
最後になったが、この体験をさせてくださった先輩とたくさん話してくれて諸連絡を受け取ってくれたもう1人の友人に多大な感謝と敬愛を捧げたい。
ジャンルが変わっても、あなたたちの友人としてくれてありがとう。これからもよろしく。