HSPのわたしがキャバ嬢でNo.2になったお話。[前編]


日本の繁華街代表みたいな大きな街の、
地下にある小さな薄暗い場所に、
わたしは居た。


きっかけは友達の付き添い。
可愛くて明るい友達が
体験入店に着いてきてほしいって言うから。
確か、その日のランチを奢ってもらう約束をして
わたしは緊張しながら、
友達はワクワクしながら、
営業前のそこに行った。

代表との簡易的な面接。
わたしは自分を守るために、
「付き添いなので」って顔しながら隣に座ってた。

次々出勤してくる女の子達がとってもキラキラしてて
今まで見たことのなかった世界に目眩がした。

でも、代表はそんなわたしに、
「アオちゃんも、やってみない?」って言った。

ほんとは少しやってみたかった。
ほんとは、少しなってみたかった。

別人に。

その日から、そこで過ごした1年半の間、

会いに来てくれる人がいることが
わたしの生きる理由になってた。


女の私でも見とれてしまうくらい綺麗な女の子、
その場に居るだけでスポットライトが当たるような
盛り上げ上手な女の子、
甘え上手で、思わず支えたいと感じさせる女の子、
落ち着いていて、一緒にいると安心すると思わせる女の子、
そこにはいろんな魅力的な女の子がいた。

街の中にはそういう女の子が
もっともっと沢山いた。

わたしはどれでもなかった。


本名をもじった源氏名をもらって、
ロッカーに並んでいたレンタル用のドレスを着て、
派手な見た目からは想像できない優しい女の子が
髪を巻いて、つけまつげを付けてくれたのを覚えてる。

ただ笑って、頷いて、質問に答えて。
勧められるがまま、よく分からないお酒を飲んで。

そんな初日だったのに、みんなは歓迎してくれた。

その頃、わたしはまだハタチになったばかりで、
どこにでもいる、普通の女の子だった。

特別可愛くもないし、
スタイルがいいわけでもないし、
盛り上げるのも得意じゃない。
お酒もそんなに飲めない。

大人になりたい。大人にはなれない。
大人になんてなりたくない。

矛盾に溢れた普通の女の子だった。

ある日、電車の中で
一緒に働く女の子を見かけた。
とってもラフな、でもおしゃれな格好で、
隣には同世代の男の子がいた。
男の子はその子を、私の知らない名前で呼んだ。

ある日代表が、先輩の女の人と話してた。
昼間の仕事に就くことになったって聞かされた。
「お母さんの介護、大変みたいで。
これから昼間はヘルパーさんに来てもらえるから」
って言ってた。

ほんとはみんなが、普通の子だった。


毎晩、会いに来てくれるいろんな人とは、
難しそうなお仕事の愚痴を聞いて、
幸せそうな家族のお話を聞いて、
可愛い彼女の相談をされたりして。

キラキラしたガヤガヤした非日常の空間で、
昼間の世界のどこかで生きている人の
どこにでもありふれた日常のお話をした。

相手もみんな、ほんとは普通だった。

でも、みんなのそういう普通が、
人として、うっすら素敵だった。


この人も辛いことがある。
この人も我慢してる。
この人も守るものがある。

会いたい人がいる。

会えない人がいる。

いろんなことがあるよね、
でも楽しいね、楽しもうね、ってお酒を飲む。

みんないろいろなことを抱えて、
一生懸命立ってる。
生きてる。


みんなのそういうところが、
うっすら好きだった。


普通であることを少し隠して、
みんながここにいた。

そんな温度差が、
どうしようもなく愛おしかった。


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