治療用レーザーと孤島の城

 ある日、駅から目的地へと雑談を交わしつつ移動していると、不意に友人から次のような問題を出された。
「ガン細胞を身体の外部からレーザーを使って殺してしまいたい。しかし普通にレーザーを使うと途中の正常な細胞も殺してしまう。何か良い方法はないだろうか」

 僕は少し考えたもののピンと来なかったので、素直に「分からんなあ」と答えた。
 すると友人は一呼吸置いてから別の話を始めた。
「じゃあそれは置いといて、例えば君が戦で城に攻め込みたいとする。でもその城には細い橋しか掛かっていない」
「——ああ、なるほどなあ。つまりガン細胞に向けて複数の方向から弱いレーザーを当てるってことか」
「うん、まあそんな感じ」

 細胞をレーザーで殺すという問題の光景が上手くイメージ出来ていれば、ノーヒントでも答えられそうな絶妙な難易度だなあと思った。
 細い橋とまで言われたら、流石に誰だってピンと来るやろ。やっぱ頭悪いなあ。
 僕はたわいもない雑談と分かりつつも、かなり悔しかった。


 同じ日の帰り道、今度は別の子に同じ問題を出していた。僕は気になったので盗み聞き。
 そして城に攻め込む件を、相手の反応を見ながら話し始めた。
「例えば君が戦で城に攻め込みたいとする。でもその城には細い橋しか掛かっていない」
「うん」
「君は引き連れて来た軍勢を城に向かわせたい」
「うん」
「でも一つの橋から全員を渡らせようとすると崩れてしまう」
「うん」
「城の周りに細い橋が沢山あったら、どうやって向かわせる?」
「……。軍勢を少しずつに分けて渡らせると思う」
「そうそう。それでさっきのレーザーの話なんやけどさ。」
「ん?うん」
「ガン細胞っていう敵をレーザーという軍勢で倒したいのよ」
「うーーん……」

 しばらく経った後、恐らく正解に辿り着いていたであろう。
 盗み聞きは上の空であった。


 僕は素直に驚いていた。
 そして、人間の多様性と自分に不足している要素を再確認した。

 自分好みな素晴らしき人が中高の同学年に存在し、彼等と巡り会い親しくなれたことを、改めて感謝するのであった。

イタチ