大学受験界の闇

　大学受験の仕組みには、日々様々な意見が飛び交っている。
　有意か無意かを問わなければ、内容や結果に関する問い合わせや苦情に始まり、運営方法や交通網や所持物や浪人制度自体の検討や言及に至るまで、その数は文字通り膨大な数であろう。
　その甲斐もあって、大学受験は常に変容している。

　現在の受験システムに不満を抱く受験生や親や教師は、少なからず存在していると思う。
　勿論意見を言う権利はある。しかし文句を言った所で結局受験者側はその試験を受けるしかない。嫌なら受けるなと突っ撥ねても、試験市場を独占している提供側は困らない。
　
　とは書いたものの、受験生の時にどうしても納得出来ずにやらなかったことがある。
　今回はそんな、大学受験の闇の一つと受験生の選択に関する雑談。

　受験界隈には「滑り止め」という概念がある。
　忌憚なく記すと、自分が本当に通いたいと思っているわけではない学校を、希望校が不合格だった場合に備えて受験しておくことである。
　一発勝負の中高受験は勿論、大学受験においても当たり前と言って語弊が無い程多くの受験生が、国公立の滑り止めとして練習も兼ねて私立を受験する。そして指導者側も様々な理由から推進しているように思う。
　しかし滑り止め受験には、受験生側にとって見過ごせない大きな問題がある。
　それは「滑り止め大学入学金問題」である。

　私立には前期日程の国公立よりも受験日が早い所がある。その大学に受験料を支払い試験を受けに行く。
　しかしその結果合格しても、事前に入学金を支払っておかないと前期国公立の結果を見る時には入学の権利を失っているのである。
　受験料も決して安くないが、入学金はその比ではない。恐ろしい。

　しかし蛇足とは思いつつも念の為補足しておくと、この仕組み自体を闇と言いたいわけではない。
　入学権利の保持がノーリスクであると、キープ受験生だらけになってしまい適切な数の受験生に合格通知を出すことが難しくなる。その大学が本命の方まで余計ないざこざに巻き込まれるのは解せない。
　全てを承知した上で入学金を払っている者には、大小はともかく入学する気持ちはあることを意味する。それに仮にキャンセルされても損失はマシにはなる。
　細部は各々で異なるとは思うが、この類の仕組みを採用している私立大学側の思考と感情は十分に理解出来た。

　しかしこの仕組みとそれに伴う周囲の者の言動に影響を受けて、合理的な判断が出来ていない受験生が相当数存在している。
　これが「大学受験界の闇」である。

　因みに自分が受験生の時はというと、私立は一切受験していない。
　学費も高いし入りたい理由も特に無い。通う気が微塵も無い大学に受験料を払うぐらいならば、お寿司やハンバーグやラーメンを食べに行きたい。
　それに滑り止め私立と本命国公立では難易度も感覚も違う。
　試験の傾向が全く異なる為、合格したいならば一応過去問等で軽く対策することになり手間がかかる。
　更に受験本番の雰囲気が何となく分かった所で、滑り止め受験日の自分なんて自身にその気がなくてもどこかお遊び気分なのである。本命を受験する時の自分の状態は結局分からない。
　試験の傾向と対策の練習にもなる冠模試は受けたが、私立大学の受験では僕が欲しい情報は何も得られないと思った。

　実際各所から批難はされたが、支払うコストに対して得られるリターンが見合わない行為はしない。
　自分が納得出来ないことはやらない。これは至極当然のことである。

　個人的には『私立大学お試し受験の一日を本命大学の対策に割く方が有意義である』と断言しておく。

　本問題に限った話ではないが、全受験生共通の正解なんて都合の良い物はそうそう存在しない。

　環境や道筋や関係者によって、人間種の価値観など如何様にも変容する。
　滑り止め受験という行為のメリットデメリットを計算した上で足を運ぶ方や、滑り止めではあるがその大学にも興味が有って入学する気持ちがある方は別に良いと思う。
　しかし事前に想定していた行動と、いざその瞬間を迎えた時の行動が、チグハグになってしまうのは流石に避けるべきである。
　だが、陥ってしまう受験生が実際に存在している。
　酷い場合は、入学金まで支払っておきながらその大学に一日たりとも通うことなく予備校にお金を払って浪人するなんてことさえある。
　正常な判断が下せなくなってしまっている。果たして受験生の思慮不足だけが原因と言い切ってしまって良いのだろうか。
　だから闇なのである。

　最後に。
　君の受験は君自身のもの。
　他者の折角の意見やアドバイスを刹那的感情で突っ撥ねるのは良くない。
　しかし考えた上で普段の自分ならばしない選択は勿論しなくて良い。

　周囲に流されて、安易な模倣はしないように。
　自身で思考して、後悔しないように！