受験生活とメロンパン

 受験生活は総じて楽しく仕上がることはない。浪人生活ならば尚の事である。
 勿論、友人と会話したり目標に向かって共に勉強したりする日々は悪くないし楽しい。また遊ぶと決めた日はシッカリ遊ぶ。部分的に楽しい瞬間は、用意すれば訪れる。
 だがそれでは釣り合わないのである。時間とお金を自ら進んで費やして受験勉強しておいて何だが、楽しさよりも大変さが総ずると勝つのである。
 刹那的な楽しさを常に追い求め、休憩スペースで時間も区切らずにダラダラと駄弁ってばかり奴もいた。講義をサボってまでショウモナイ奴と生産性の低い時間を過ごしている場合さえあった。
 しかし大体が悲惨な道を辿っているので、当時から敬遠していたし今もオススメはしない。結局受験においては過酷な道を歩むことなく望む物を勝ち取ることは出来ないのである。例外の存在は否定しないが。



 アニメを雑食視聴していたのに、受験生活で心が擦り減り日常系ギャグアニメ中心になった僕にも、日々に溶け込む小さな楽しみの持ち合わせが幾つかあった。
 その一つが、予備校の最寄り駅にあるパン屋のセールであった。
 僕の記憶が正確ならば、隔週の金曜日にメロンパンが108円になるセールが存在し、タイミング良く巡り会えた時だけメロンパンを堪能していた。
 たかが菓子パンと思われる方もいるかもしれないが、非常に貧乏なので定価だと食指が動かない。

 ある日、メロンパンセールに巡り合えた僕は、いつもよりストレスが溜まっていたのか何なのか、凄まじく欲望が込み上げてきた。
『どうせ食べたいんだろう?だったら抱えるぐらい買ってみないかい?』
 込み上げた欲望が何かを決壊させ溢れてしまった僕は、棚に残っていた五つを買い占めてしまった。540円は中々の出費である。

 メロンパンの確かな重みを感じつつ過ごすホクホク気分の僕は、正にメロンパンモンスターと呼ぶに相応しかった。
 休み時間の度に袋からメロンパンを出し食す。いつ見ても彼奴はメロンパンを食べている。お昼にはお弁当を別に食べているにも関わらず。オオサカストリート。
 その光景に友人の一人が我慢出来なくなったのかツッコミに来た。
「パンあと何買っとるん?」
「メロンパンとメロンパン」
「袋の中全部メロンパンなんかい。折角なら色んなの買いーや」
「……。バイキングに行って無意識に同じ物ばかり食べてしまうぐらい、僕の心は擦り減ってしまったのか」
「いや、元から変なだけやろ」
「なんてこったい」

 ヨリドリミドリのパン祭状態の方が心躍り楽しめるし普通である、と主張する友人にバッサリである。貴重な存在である。
 何かと辛めな受験生活の最中に浴びるザクザクなツッコミのおかげで、フワフワさがより際立った甘いメロンパンを、流れゆく一時も全部込み込みで楽しんでいたのであった。
 メロンパンは一つも上げなかったけれども。

イタチ