日経平均の「大相場」が始まったのかもしれない

日本株は9月に入ってから予想外の急騰で景色が一変した。投資家の多くが今考えていることは、当然ながら「この相場は続くのか。上がるとすればどこまで上がるのか」だろう。

そこで、最もシンプルなテクニカル目標値である「倍返し」で考えてみよう。下落から反転した相場は、まず下落幅の半値戻しが目標値となる。そして半値戻しを達成した場合は、「半値戻しは全値戻し」の相場格言のごとく、全値、つまり「下げる前の水準」まで戻す可能性が高い。

では、全値を戻すとどうなるか。その全値戻しの位置から下げ幅の分だけ、さらに上昇する可能性に期待するのが「倍返し」だ。これは昔からある相場理論であり、近年のドラマからとってきた流行語ではない。

今回のコロナ相場を日経平均株価のチャートで見ると、2つの大きな下げが見えるはずだ。1つは、世界が震撼した2020年3月のいわゆる「コロナショック」である。もう1つは、新型コロナウイルスのデルタ株感染が予想外に拡大し、今年2月高値を起点にした8月までの下げ相場だ。

前者は、2020年1月20日の2万4083円が3月19日の1万6552円まで7531円下げたので、倍返しは3万1614円となる(いずれも終値ベース)。一方の後者は、今2021年2月16日の高値3万0467円が8月20日の2万7013円までの下げ幅3454円の倍返しで、3万3921円となる。

つまり、今の9月相場を「昨年のコロナショックから立ち直る相場の最中」という大きな波動で見ると、目先の日経平均の目標値は3万1614円となる。一方、「倍返し相場は2021年2月16日の3万0467円で未達のまま終わった」と考えると、今度は後者の倍返し相場の目標値3万3921円が今回の上値目標値となる。

どちらの目標値に進むにせよ、その期待が高まったのは、9月に入って調整ぎみの米欧の株価に対して、日本株が突出して強さを示していることによる。今まで日本株をスルーしていた海外投資家も目の色が変わった。

8月31日のNYダウは3万5360ドル、日経平均は2万8089円だったが、9月17日現在、前者が3万4584ドル(8月31日比で約2.2%のマイナス)、後者が3万0500円(同8.6%のプラス)となっている姿を見て、日本株の組み入れ比率を上げたファンドも多いと聞く。

しかし、国内投資家の一部では、倍返しからさらなる大相場を期待する見方も増えている。その理由の1つが「12陽連」の出現だ。

基本に立ち返ると、ローソク足チャートは、寄り付きより引け値(終値)が高い場合は白か赤で記入する。これを「陽線」と呼ぶ。その連続するさまを「陽連」という。3日続けば「3陽連」、5日続けば「5陽連」となる。

テクニカル分析の世界では5陽連が最も有名で、もし下落相場の底値圏において5陽連が出ると、「買いシグナル」として注目される。とくに株価水準が下値から大きく動いていないとき(下値モミ合い中)に出ると、「買いの有望なタイミング」として今も密かに珍重されている。

直近の日経平均の上昇局面では、8月31日以降、9月6日の終値2万9659円までで5陽連となった。ただ、このときはすでに直近の安値である2万6954円(8月20日、取引時間中)から3000円以上も急騰していたため、せっかくの5陽連になってもあまり意味をなさなかった。しかし、今回は5陽連で終わらず、9月15日まで12陽連となったのだ。

12陽連となると、これは大きな意味を持ってくる。今回の12陽連は、1988年2月10日の寄り値2万3678円・終値2万3771円の陽線から、同月27日の寄り値2万5148円・終値2万5284円の陽線まで続いた13陽連以来、実に33年7カ月ぶりの出現であるからだ。

この時の13陽連は、1987年のブラックマンデーを起因とする約5000円の下げのあとに出た買いシグナルだった。これは、1989年末の日経平均の史上最高値となった終値3万8915円への大相場のスタート地点でもあった。

大抵のことは、年表を見て振り返ると、その時の風景がありありと浮かんで来るものだ。しかし、極めて重要なシグナルだったはずの13陽連だが、正直なところ、一部のチャーチストの話題でしかなかったと記憶する。むしろ、13陽連直前のブラックマンデーの急落で、困惑した現場の景色のほうを鮮烈に覚えている。

もちろん、ブラックマンデー前の高値1987年10月の2万6646円をつける前のこともよく覚えているし、何よりも1984年に日経平均が史上初めて1万円をつけたときは興奮したものだ。

今から考えると「ここは通過点だ」と言えば済むことだが、いかにも株の神様のご託宣のようで、素直に感激した。事実、1985年に5カ月間、1986年に3カ月ほどのモミ合い合いを入れて、前述の1987年ブラックマンデー前の2万6000円台の高値につながっていったのだった。

今回の12陽連を、決して忘れてはいけない。33年前のように、大相場のスタートかもしれないからだ。前述の倍返しなど、目先のことかもしれないのだ。

なお、33年前の13陽連のきっかけは「特金・ファントラの評価方法の弾力化」によって、海運・鉄鋼株が賑わっていたことを思い出した。この時代、特金・ファントラとも簿価計上が可能で、企業にとっては格好の「財テク」手段だった。

今回は何を原因としたのか。新政権への期待か、ウィズコロナの新しい時代へのスタートか、あるいは隠れた理由があるのか。とにかく面白いことになって来た。

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