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Newsletter【旅先案内人 vol.3】"実りの島×天才料理人"が叶える唯一無二の味わい
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こんにちは。ホテルや旅館を運営する、温故知新です。
昨年より、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたストーリーをお届けするニュースレター「旅先案内人」を発行致しました。
普段、私たちの運営施設にご宿泊くださったお客さまなどを対象に、ニュースレターをお届けしております。
noteではバックナンバーを掲載しています。ここからは【11月26日 配信 旅先案内人 vol.3】の内容をご覧ください。
個性あふれる旅先案内人たちのエピソードで、みなさまをまだ見ぬ旅へとお連れできれば幸いです。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f 等)
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【11月26日 配信】
※下記に登場する海里村上は、2020年1月6日~3月中旬まで客室のリニューアル工事を行い、新たにリブランドオープンいたします。そのため、現在全館営業を休止とさせていただいています。
旅先案内人 vol.3
"実りの島×天才料理人"が叶える唯一無二の味わい
博多からジェットフォイルで1時間。
『古事記』や『魏志倭人伝』にもその名が記され、古くは日本と大陸の架け橋として栄えた壱岐島。大小1000もの神社が位置することから、別名「神々の島」とも呼ばれています。
第3回となる今回は、この壱岐島に位置する旅館 海里村上 で包丁を握る大田料理長の様々な取り組みと、その背景にある想いをご紹介します。
食は旅の醍醐味とも称されるほど、その土地でしか味わえない逸品は多くの旅行者を魅了してきましたが、壱岐出身・壱岐を知り尽くした男だからこそ成し得たおもてなしが存在するのです。
至高の一皿を生む、仕入れの秘密
朝5時半。競りの仲買資格を保有している大田が向かったのは、海里村上から車で約10分の勝本漁港。早朝に引き上げられる魚を、毎朝自らの目で見て、狙った魚を競り落として仕入れるためです。
競りが始まる前の数十分で、市場にずらりと並べられた魚を素早く品定めしていきます。
「こうやって見て、だいたい何が いくらくらいか検討をつけておくんです。
でないと、競りはスピード勝負だから、うかうかしてると他に取られちゃうんでね」
そう説明する大田の言葉通り、素人にはまるで聞き取れない威勢の良い掛け声とともに、競り落とされた魚が次から次へと場外へ運び出されていきました。
良い魚の見極め方を尋ねると、箱に書かれた船名が鍵なのだとか。
「同じ魚でも、釣った船によって値段も違う。あの船は釣ってすぐにちゃんと活け締めするとか、いろいろ違いがあるんですよ」
長年の経験から、どの船の魚を購入するのか、自ずと仕入れ先は絞られてくるようです。
※取材日は祭事により勝本漁港での漁が行われなかったため、郷ノ浦の競りへ同行しました。
日々変化する、繊細な食材との対話
海里村上の地下には、仕入れた魚(もしくは釣った魚)を泳がせておく いけすがあります。中には、魚屋から捌いた状態の魚を仕入れる宿やレストランもありますが、大田は絶対にこれをしません。なぜなら、細かい捌き方一つで魚の新鮮さや味が大きく左右されてしまうから。
「魚屋さんに頼んでしまうと、やっぱり商売だから数をこなすこと重視でこだわりがなくなってしまって」
特にお刺身で提供する魚は、いかに素早く血抜きをして生臭さを出さないかが肝となります。そう言いながらその日目の前で捌いてくれたのは、朝仕入れたばかりのクエ。身厚で脂の乗った8kgものクエがみるみるうちに捌かれていく様は、まさに圧巻の一言でした。
「今日のクエは特に背中の脂がいいから、中骨にわざと多めに身をつけておいて、夕食で焼いて出しましょう」
その日仕入れた魚の状態に合わせて献立が書き上げられるのも、特別感あふれる魅力の一つです。
譲りたくない!五感で壱岐を堪能する、とっておきの特等席
海里村上の和食レストラン「玄」では、カウンター席で料理をお召し上がりいただきます。お子様連れや人数によってはテーブル席へ案内することもありますが、可能な限り、対馬へと続く広大な海を背景に料理長の丁寧な手さばきを眺めることのできるカウンターへとお通しします。
この土地で生まれ育った大田から唱えられる幅広い豆知識は、板場の前に座った者だけが得ることのできる特権。壱岐を知り尽くした案内人が、食を通じて壱岐島巡りへと連れていってくれます。
壱岐は麦焼酎発祥の地としてWTO協定の産地保護も受けており、多くの酒好きが訪れます。そのため、会席料理の前菜にはお酒の進むメニューがいくつも盛り込まれています。
また、壱岐には7つの酒蔵がありますが、それぞれ味や香りが異なるため、どれにしようか迷うこともしばしば。そんなときは、「僕が一番好きなのは、これなんです」と料理長のお気に入りを注文しておけば間違いない、絶大な信頼感が存在します。
壱岐産ひのひかり="料理長米"
夕朝食ともに出される一粒一粒が際立ったつやつやのお米。これもなんと、大田料理長のお手製です。実家の田んぼで稲作を行い、今年も10月に稲刈りをしたそう。約1年分が収穫できたので、それ以降はこの新米を提供しています。
「もともと稲作農家なのでそこまで難しくは考えていない」と言いますが、お米まで自作してしまう料理人がいるとは驚きです。美味しさに加えて安心安全にもこだわる情熱が垣間見えます。
和食で活かす、仏・伊の経験
今では和食の料理人として腕をふるう大田ですが、実は初めに門をくぐったのはフレンチでありました。当時料理界の東大とも言われた大阪の某調理師専門学校へ通い、料理の基礎を学んだのち、レストランで修行。慣れないフランス語のレシピやオーダーに苦労しながらも、なんとか食らいつき、料理長を任されるまでになったといいます。
その後、32歳で壱岐に戻り、当時営業していた海里村上のイタリアンで調理を担当。その時の料理長が退職するタイミングで、大田が料理長に就任します。
ところが、5~6年経った頃から、今度は和食を兼任するように。和包丁を握ったことすらないところからのスタートでした。そんなことが可能なのかと耳を疑う私に、大田はこう続けます。
「和食の経験はなかったですが、壱岐島で生まれ育ったというアドバンテージと、料理はセンスですからね」
なるほど、そう聞いて納得なのが、会席で出された焼きアワビのタレにアンチョビが入っていたりと、和食の経験だけでは思いつかないセンスの良さが随所に光ります。
また、現在も最大のこだわりを持っている仕入れについて、
「仕入れは非常に重要で、自分で見て、触って料理して、食材を見極めるのが料理人の腕を上げることだと思います」とも。
料理のジャンルを問わず一番の要である仕入れで培われた経験が、どんな料理へも対応出来る万能な大田へと導いたのでしょう。
「買う」でも「釣る」でもなく、「競り落とす」体験
前述の、勝本漁港で行われる朝競り。料理長の日課でもあるこの競りで、自らこだわりを持って魚を仕入れている様子を見てもらい、また普段はできないような貴重な体験をしてもらいたいという想いから、ご宿泊の方に参加していただけるアクティビティが誕生しました。
名付けて、「勝本せりツアー」。
競りに参加するには資格が必要なため、なかなか間近で見ることのできない光景です。ご自身で競り落とした魚は、海里村上で捌いてその日のランチやディナーとして食べることもできるほか、ご自宅までの郵送も可能です。
海里村上では、「壱岐でしかできない」「特別な体験」をお客様にお届けしたいと願い、こうした従業員の独自の取り組みに参加してもらう機会を多く提供しています。
美味しいお宝、一般初公開
もう一つ、料理長の取り組みを体験できる、嬉しいアクティビティがあります。
「幻の壱岐牛ジャーキーづくり」です。
壱岐牛は、弥生時代から飼育されている、松坂牛や神戸牛とも並ぶブランド牛。会席料理や鉄板料理でも、思わず脂の旨みに感嘆のため息を漏らしてしまうほどの至極の食材です。
大田は、この壱岐牛を使ったビーフジャーキーを手作りしています。もともとは趣味で作っていたそうですが、酒の肴として常連さんにだけ提供する裏メニューにしていたところ、「こんなお宝、隠していたらもったいない!」という従業員の一声でアクティビティとなりました。
特製のマリネ液に半日漬け込み、3日間風乾燥。その後さらに5時間 60度で乾燥させ、最後に1時間 これまた大田特製の器具を使って燻製にします。体験では、この一連の流れを30分ほどに凝縮させ、燻したてのジャーキーをご覧いただきます。
ここでしか手に入らない、壱岐牛ジャーキーのお土産付きです。
<幻のビーフジャーキーづくり>
宝の島へ導かれた人しか食べられない『美味しいお宝』を食す。ブランド牛「壱岐牛」の燻製を作る体験です。お子様までもお気軽にお楽しみいただけるプログラムです。
2020年以降あらかじめ下ごしらえをしておきますので、事前にご予約をお願いしております。
■ジャーキー作り体験
■会場:海里村上
■料金:大人1名様(中学生以上)3,000円(税別)
お子様(4歳以上〜小学生)1,500円(税別)
※リニューアルオープンにつき、ただいま受付を休止しております。
開始となり次第、公式HPでお知らせ致します。
ここまでありとあらゆることを自分の手でやってのける料理長の姿に、その活力は一体どこから湧いてくるのか、実は3人くらい分身がいるのでは!?と疑問を抱いてしまうほど。
そんな心配をよそ目に大田は、「今やれることを精一杯やる、それだけです」と至って冷静に答えます。
地元壱岐に関する豊富な知識と、最良のものを提供するためには決して努力を惜しまないひたむきな姿勢。常に上を目指し続ける大田に、壱岐島の神様は多くの人を体の中から幸せにする魔法を授けたのかもしれません。
編集後記
恥ずかしながら、今回の取材で初めて壱岐を訪れた。
着いて早々、"離島"というだけで行きづらい遠いイメージを持っていた自分を叱責。
壱岐島の神聖な空気と豊かでゆったり流れる時間の中にいると、体の内側から”気"が満たされていくかのよう。体が生き返った心地がした。
文・編集担当:Aoi y.
(普段は事務所で数字と戯れている、隠れアウトドア人間。この冬は自家製味噌を仕込みたい。)
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