雑誌『庭NIWA』のコラム『2100年の日本庭園へ』。vol.256では日本の歴史にも重要な2つの城下町「平戸」と「萩」のオープンガーデンを特集。
■コラム『2100年の日本庭園へ』が掲載されている雑誌『庭NIWA』vol.256が発売中
創刊40周年を迎えた日本の「庭」の専門誌『庭NIWA』。2023年から続いている庭園情報サイト《おにわさん》編集者:イトウによるコラム『2100年の日本庭園へ』。2100年=次の次の世代に伝えるために、「今の自分が次の世代になにができるか」みたいな意味を込めています。
その前段に関しては以下のnoteをお読みください。
前回のvol.255、新潟県で「伝える」「残す」活動をしている方へのインタビューに関するnoteはこちら。
■7月発売 vol.256でフォーカスしたのは山口県萩市と長崎県平戸市の「オープンガーデン」
いつものごとくすでに発売から2ヶ月経ってしまい紹介が遅くなり恐縮ですが、、、、、、vol.256では日本の歴史においても重要な城下町「長崎県・平戸」と「山口県・萩」で開催されていた、武家屋敷ルーツの日本庭園が中心のオープンガーデンを特集。
この2つの城下町、日本の歴史的なことが好きな方であれば知っている地名/街に間違いない(日本史ファンでなくても義務教育の授業レベルで登場する街たち)。しかし、「足を運んだことがある」という人になるとガクッと減るのではないでしょうか。
平戸も萩も歴史的な城下町だけあって、(日本三名園ほどの有名な庭園は存在しなくとも)国の文化財の建造物(お屋敷や城跡などの史跡)が数多く存在します。
そしてそんな歴史的資源を活用した、この二つの街での「オープンガーデン」は、いわゆる一般的な「オープンガーデン」とまたイメージが違い、100年以上前から残るお屋敷の庭園が主役。
…しかしその両者とも、コロナ禍を経て「中止」「終了」という最中にある。
そして両自治体とも、民間の有識者でつくる「人口戦略会議」が2024年4月に発表した自治体の持続可能性の中で『消滅可能性自治体』に含まれています。
「後継者不足」は庭師、造園側だけの問題ではない。そんな、日本の歴史的な街のローカル庭園の現在を紹介します。
①:長崎県平戸市『平戸庭を守る会』内野茂樹さん
日本の本土と橋で繋がった範囲では「日本最西端の城下町」であり、キリスト教の伝来/南蛮貿易など日本の歴史においても欠かせない港町・平戸。
平安時代から水軍として名を馳せた松浦氏が戦国大名となり、そして江戸時代を通して平戸藩を治めました。松浦家の別邸に作庭された庭園『棲霞園及び梅ヶ谷津偕楽園』は国指定名勝となっています(棲霞園は非公開、偕楽園も近年非公開に?)。
そんな文化財の庭園とは別に、平戸藩の城下に残る武家屋敷などの旧家を残し伝えるために設立されたのが「平戸庭を守る会」。2019年までは約20回ほど『平戸お庭めぐり』というイベントで庭園の特別公開が行われていました。全国に広がる「ヒラドツツジ」を中心とした、つつじなどの花々を愛でるお庭が各邸宅に残されています。
しかしコロナ禍を経て現在は一斉公開イベントは休止中…。所有者の高齢化も進んでいる現状と代表の内野さんにお聞きしました(また併せてご案内いただいた各庭園の紹介も!)。
②:山口県萩市『ホトリテイ/HAGIオープンガーデン』吉井貞夫さん
幕末の志士や明治維新後に政府の要職を務めた人材を多数輩出し、2015年にユネスコ世界遺産『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』にも登録された萩の城下町。
そんな歴史ある街には先人の旧宅/武家屋敷や町家に多数の庭園が残ります。萩出身の偉人のひとり、山縣有朋が東京『椿山荘』、京都『無鄰菴』など“山県三名園”を作り上げたバックグラウンドとして、萩の城下町では“庭園”が身近な存在だったことが影響している(のだと思う)。
山縣有朋の残した京都・東京の庭園が注目され、語られる一方で、山縣有朋のバックグラウンドである「萩」の庭園について、あまり語られていない(そもそも目に触れていない)という気がしている。素晴らしい庭園、たくさんあります!!
そんな萩の武家屋敷・商家など旧家を中心とした庭園の回遊企画『HAGIオープンガーデン』が2024年まで約20年間行われていました。
過去形なのは、この2024年春の開催をもって終了となるため。これまでこのオープンガーデンを引っ張ってきた代表・吉井さんにHAGIオープンガーデンのこと、そして終了となる理由についてお聞きしました。
なお、吉井さんが脱サラし東京から萩で移住し開いた『畔亭(ホトリテイ)』は観光客にも地元の方にも大人気の古民家カフェ。こちらはオープンガーデン終了後も営業しておりますので、今後行かれる方は要チェック!!
■4割の自治体が「消滅可能性自治体」とされた日本で、どう各地の“庭園文化”を伝え・守れるのか
↑「消滅可能性自治体」についてはこういった大手メディアを見ていただくとして。
前提として、今あるものを全て残すことは不可能です。
なるようにしかならないし、「選択と集中」とも言われますが、やはり淘汰されていくものはある。少子化、過疎化には抗えない。「もうどうせ守れないでしょう」と言葉にする方も居るし、それは否定できるものではなく「その方が現実的な」捉え方だと思うのです。
けれどーー前回の締めの見出しは『何度でも言いたい:47都道府県、それぞれに素晴らしい「庭園文化」がある』なのですが、それはやっぱ改めて何度でも言いたいし。日本の各地でグッと来る庭園に出会うのです。
「救う」みたいなおおそれたことは言えないけれど(実際そんなことは不可能だ)、『その存在を知らないまま、見えないまま』よりは『そういうことが起こっている』ことを少しでも伝えられたらよいし、少しでも『日本各地の庭園文化を見るなら「もう、今しかない」』と思ってもらえると幸いです。人口減少によって社会的な変化が起こっていくのは『20年・30年後』の未来というよりは、もう少し近く、5年後・10年後とか目の前に訪れつつある「未来」。だからこそ、見られるうちに、たくさんの庭園を伝えたい。