第3話【簡単】自分の好感度を上げるたった1つの魔法の言葉とは?
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鬼、壁に刺さっている。
ぶあつい本を読んでいる。
うさぎのミミ子がそのそばで手をたたく。
手を開いて見るが、そこに蚊の死骸はない。
(本を閉じる)
今日は、
めちゃめちゃ簡単に好感度を上げる方法を
ひとつ、教えたるわ。
……(鬼を見る)
ほんまにめっちゃ簡単やから、
聞いたらすぐ、今日からできるで。
……(鬼を見ている)
やのに、
なんでかみんな、
あんまりやってへんねん!
だから
これを知ったおまえは
今日からオスウサギどもの好感度を
独り占めすることになるど!
……!(鬼の目の前で手を叩く)
なんや?!
……(手を開く)ちっ……
(上空をキョロキョロし、ヒザをかく)
おまえ! モテたいんやろが!
……!(鬼を見る)
クラスで一番人気の女学生……
いや、
関西で一番人気のキャバ嬢に
なりたいんやろが!
ハアアア……!(うなずく)
この方法はな……!
キャバ嬢になる前も……!
なりたてでも……!
ベテランになってからも有効や……!
ハアアアン……!(しりもちをつく)
もちろん学校でも
一般的な職場でもや……。
(ポケットからメモ帳とえんぴつを取り出す。)
(慌てすぎて落としてしまう。)
あああ……
ゆっくりでええ。
鬼は待つで。
あああ……
(それをようやく拾う)
ん。
……好感度が上がるめちゃめちゃ簡単な方法、
それは、
《相手の名前を呼ぶ》や。
え?
どや?
想像してたよりも簡単やったやろ?!
しかもこれ、
仕事でお客さんに送るメールとか、
LINEでも使えるで!
……
(ポケットからスマホを取り出す)
おまえ……あの……
LINEのともだち、おるか……?
(鬼の頭をたたく)
ぎゃ! ごめん! そらおるな!
……(スマホを見せる)
おかんだけやないか!
なんで叩いたんや!
蚊が止まってたんや!
蚊が止まってたんか……
……(スマホをしまう)
じゃあ、
今日の話に戻るけど、
《相手の名前を呼ぶ》っていうのは、
《ネームコーリング》
っていうれっきとしたテクニックでな、
ネー、ネー、ネーム、ネームコー、
ネームコーンバター……
ネームコーリングは、
相手に親近感をもってもらったり、
社交的な印象を与えたり、
あなたに関心がありますよ
っていうメッセージを送る
効果があるんや。
そそそそそんなに?
せや。
だから、
「そういえば前に言ってたあの墓場、
行ってみた?」
って言おうとした時には
「ウサ之助(うさのすけ)くん、
そういえば前に言ってたあの墓場、
行ってみた?」
っていう風に最初に
名前をつけて話しはじめたらいいんや。
ええ~? へへ、へへへ……
どないした?
名前呼ぶんなんか……
はずいわぁ……
へへ……へへ……
「なあなあ」とかで通じるからいいやん~。
ウガアアアア!(鬼らしい声)
ひい!(しりもちをつく)
想像してみぃ!
例えば先生から
「きみ、これコピーしてくれへん?」
って言われるのと
「ミミ子さん、コピーお願いしていい?」
ってどっちがコピー取りたくなる?
後輩から、
「すみません。これ、教えてください」
って言われるのと
「ミミ子さん、これ、教えてください」
って言われるんと
どっちがかわいく思える?
「あなたはどう思います?」
って聞かれるのと
「ミミ子さんはどう思います?」
って聞かれるんは
どっちが好感持つんや?!
ああ……!
そやろ!
鬼は我(われ)のこと、
「おまえ」って言うなぁ!
鬼は別に
おまえの好感度あげようと
思ってないからなあ!
な……!?
なな……
(よろめき、鬼に背中を向ける)
……
お、おい……
鬼は我がキライなんか……?
ちゃ、ちゃうんや……
ほら……
鬼が優しく
「ミミ子、どうや? ミミ子、どう思う?」
言うたらさ……
鬼らしくないやん……。
鬼は鬼らしくな……
「おまえ、どうや? おまえ、どう思う?」
この方が鬼が強そうに思ってもらえるやろ?
キャラ作り?
……あ……まあ……
だから、おまえがキライなわけじゃないからさ……
なーんや。
鬼、キャラ作ってたんや。
いや、まあ……
ほんまはそんな鬼ちゃうんや。
おい、おい、おい~。
お、鬼のことはええんや!
とにかく、
名前を呼ぶ技を使って
好感度上げるんや!
でもなぁ~。
名前なんか、
みんな当たり前に持ってるしなぁ~。
別になぁ~。
ウガアアアア!(鬼らしい声)
ひい!
相手の名前を呼んでから会話をした方が、
相手に
「またこの人と話したいなー」
と思ってもらえる確率が上がった
っていう実験結果もあるんやぞ!
な?!
「好き」とか
「愛してる」とか言われるより
《自分の名前》を呼ばれる方が
気持ちよく感じる
っていう実験結果もあるんやぞ!
ななななな!?
こんな話もあるど!
ひらがなの「あ」から「ん」まで
50音が書いてある表を出してな、
その一文字一文字に、
点数をつけてもらう実験があったんや。
ほんなら、
だいたいの人が
自分の名前で使われてるひらがなにだけ、
高得点をつけたんや!
そそそそそんな……!
《名前》は、
潜在意識レベルで好感を持ってる、
魔法の言葉なんや。
(人差し指の先を鬼に見せて)
こんなとこ食われた!
かゆい!
(人差し指の先をかく)
まだ蚊おんぞ!
話聞いて!
名前!
名前は魔法の言葉やの!
鬼。
なんや?
鬼の名前は、鬼なんか?
そうや。
他の鬼も、名前は鬼なんか?
そうや。
ややこしない?
お、鬼は、
鬼同士で呼び合えへんから大丈夫なんや
なんで呼び合えへんの?
……
他の鬼はどこにおんの?
……
なんで鬼刺さってんの?
なんで?
なんでなんで?
なんでなんでなんで?
なんでなんでなんでなんで……
うるさい!
鬼の頭を叩く。
ぐわ!
……ご、ごめん。
うるさいとか言うて……
……(手のひらを開いて見せる)
逃がした!
蚊が止まっとったんやな!
蚊取り線香、要るなぁ?
カクテルパーティー効果っていう心理現象もあるど!
わあ……!
お!
おまえ、カクテルパーティ効果知ってんのか。
(スマホを操作して、画面を鬼に見せる)
これ、
『バチェラー』で
ローズセレモニーの直前にある、
女たちがバチェラーに最終アピールするための
「カクテルパーティー」やな!
……!(うなずく)
せや。こういう、
大勢集まって、
クラッカーとかオードブル食べながら
カクテル片手におしゃべりするパーティーは、
『バチェラー』の世界だけやなく、
この世の中にもあるんや!
……なな?!
(驚いてしりもちをつき、スマホを落とす)
……ファンタジーちゃうねん。
カクテルパーティーは。
あわ……あわわ……
カクテルパーティー知ってるんやったら
想像しやすいやろ。
こういうパーティーって
あちこちで会話が盛り上がってて、
騒がしいんや。
でもな、そんな中でも、
自分の名前がどっかで言われたら、
パッと耳に入ってくるねん!
休み時間の教室で騒がしくても、
自分の名前がどっかで呼ばれたら、
そっち見てまうこと、
おまえもあるやろ?
ええ?
……(考えて、首を横に振る)
……教室で、
誰もおまえの話題をしてない
ってことか。
……(うつむく)
これから教室中で
おまえの話題が繰り広げられるように
がんばろ!
……(涙をふく)
とにかく、
自分の名前っていうのは、
人生で一番聞いてる言葉やからな、
聞こえたら、
脳がめちゃめちゃ反応してまうように
なってもうてんねや……。
名前を呼ぶんが効果的なこと、わかったか?
わかった。
(スマホを取り出し、なにやら入力する。)
どないしたんや?
ハア!ハア!ハア!ハア!
(ミミ子すごい勢いで入力する)
ど、どないした?!
おい! おい! おい!
(ミミ子の手からスマホを叩き落とす。)
ハア、ハア……
見せてみ。
(鬼にスマホの画面を見せる。)
「和子(かずこ)、
今日の夜ご飯なに作ってんの、和子?
和子の好きな、
和子が小さいときによく食べてたっていう、
和子が育てたキャベツか? 和子。
和子、我はキャベツよりも
和子のピーマンがいい。
和子。和子。和子。」
怖い怖い怖い! 和子って誰?
おかん。
おかんか!
なんでおかんの好感度
そんな上げようとしてるんや?
……(うつむく)
……
他にLINE送るヤツおらんもんな。
……いや、あかん!
おまえ!
こんなLINE、オスに送ったらあかんど!
え?
こんなしつこく名前言いすぎたら、
キモがられるから!
え!
LINEの着信音。
ミミ子と鬼、画面を見る。
「今日はカレーですよ」
カレーか……
よかったな、送ったんがおかんで……。
とにかく、
名前呼ぶときは、
調整してしつこくならんようにしいや。
……(うなずく)
あと、さっき
おかんの好感度上げようとして
「和子」言うてたけど、
ふだん呼んでる呼び名でやりや!
ずっと苗字で読んでる人のこと
いきなり下の名前で呼んだら
びっくりされるから!
あだ名で呼んでんねんやったら、
あだ名でもいいし!
「おかん」てふだん呼んでんねんやったら、
「おかん」でいいから!
っていうか
おかんの好感度上げるってなんや?
おかんは子供のことをすでに愛してるんや。
……(メモを閉じて)
鬼、ありがとう。
お、おお。
ミミ子、走り去る。
……鬼の名前……か……
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今日のまとめ
★確実に好感度が上がる会話の始めかた
=必ず相手の名前をつけて話をはじめる!!
【理由】
人は自分の名前に好意を持ってるから、
自分の名前の単語を聞くだけでも気分が良くなる!
だから、名前を呼んでくれる相手に好感度を持つ!
※注意※
あんまり名前を連呼しすぎたら怖がられる!
しつこくならないように調整する!
★下の名前じゃなくても効果がある!
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