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eコマースの新潮流がダイナミックプライシングに向かうとするなら何を考えていくべきか

SXSW2019にて、Style & Retail カテゴリーで「The Future of eCommerce」(eコマースの未来)というセッションを聴きました。スピーカーは「StockX」のファウンダー兼CEOのJosh Luberです。
StockXはいわゆるストックマーケット型で証券取引所の仕組みと同じ"時価の売買市場"として運営されているeコマースです。Amazonのようなストア型、eBayのようなオークション型に加え、米国では次世代のeコマースの潮流としてこのような価格変動するストックマーケット型が進んでいるようです。これまでに、Uber、エアチケット、ホテル、スポーツ観戦などでは導入されているのでまったく馴染みがないわけではありませんね。
今年に入り、日経クロストレンドで「ダイナミックプライシングは万能か」という特集が組まれましたが、日経ビジネスの先週号(3/18付)でもメイン特集が「ダイナミックプライシングー買わせる時価/買いたい時価」ということで、これまで実装されてきた価格変動の仕組みがさまざまな業種にも受け入れられるのか否かの議論が始まり、2019年はさしずめダイナミックプライシング元年になるような気がします。


次に、StockXについておさらいしておきましょう。スニーカー好きの方ならご存知かと思いますが、2016年に"時価"で売買するストックマーケット型スニーカーeコマースサイトとしてスタートしました。後に掲載するインタビュー記事に概略が掲載されているので興味がある方はお読みいただければと思いますが、現在では日々300万ドル以上の商いが行われているようです(年1,200億円くらいの商いになってるということですね)。
商品ページを見ると、アイテムが登録されてからの値動きがチャートとして見られるようになっていて、買いて売り手双方の入札価格も評されています。まさに株の売買と同じフォーマットと言えます。

このStockX、下記文中にも書かれていますが、3つの軸となる考えを大切にしています。
1. ANONYMOUS(匿名性)
2. TRANSPARENT(透明性)
3. AUTHENTIC(本物志向)
この3つが担保できなくなったら市場価値を失うということでしょう。
彼はStockX立ち上げの前にスニーカーの売買データを集めに集め、それを機にスニーカーのResellを始め、やがてRetailビジネスとなり、現在のStock Marketに発展しています。そしてスニーカーでの経験を応用し、バッグ、時計、アパレルにこの形式のコマースを拡大しています。種々の課題はあるでしょうけど、この販売方法が大きく成長していっているのは間違いないと感じます。

さて、ダイナミックプライシングに話を戻すと、日経ビジネスやクロストレンドの特集を読む限り、すでに導入されているエアチケットやライブ、スポーツ観戦、ホテルなどは、今後も進行していくものと思われます。よしもとの興行なんかでも、日によって演者のラインナップが異なるので、観る人によって観たい芸人がたくさん出る日は多めに払ってでも行きたいということになるでしょうから価格変動は受け入れられると思います。
ただ、この変動する価格という仕組み、果たして身の回り品や一般消費財ではどうでしょう。受け入れられるかどうかは振れ幅が大きいのではないかと思います。どう説明しても心理的に受け入れられない人もいるだろうし、受け入れられる値幅や環境というものもあります。
すでに野菜や魚、果物など、豊作か不作によって値段が変わることを消費者は理解していますが、午前中に100円だったキャベツ、あとで買おうと夕方行くと、150円になっていたというとき、どう反応しますかね。また、クロストレンドにもありましたが、企業が消費者の弱みに付け込んでプライシングを変えていると思われたりしたらどうでしょう。
私が思うに最大の課題はそうした変動する価格がもし今後増えてくるとなれば、消費者がどう買い物をしていいかわからなくなるのではないかという懸念です。今以上に買い物が面倒くさいと思われるとなると消費経済の停滞なども懸念されます。
希少性のあるスニーカーやバッグのような嗜好品は、ストックマーケット型でダイナミックプライシングが採用されても消費者は順応していくかもしれませんが、マスプロダクトのアパレルではどうでしょう。プロパー(定価)から販売スタートし(この時点で消費者には基準価格が刷り込まれる)、季節終盤にマークダウン、セールが始まり、最終処分まで少しずつ値下げ幅が広がるという一連の動きで販売方法が確立しているが、そういう世界にダイナミックプライシングは合うのでしょうか。定価という考えは必要なのか、不要なのか、追加生産がないアイテムで人気が出るアイテムなら需給バランスから在庫が少なくなってきたときに価格が上がるというのは受け入れられるのでしょうか、そもそも一物一価じゃなく、一物複価って管理上無理じゃないでしょうか、アパレルに限らず一物一価で単品管理しているとこんな売り方無理なんじゃないかということ等本当に様々な疑問が浮かびます。
独サイモン・クチャーアンドパートナーズ名誉会長ハーマン・サイモン氏の言葉を引用しますと、

「原価の積み上げでもなければ、競合他社の動向でもない。提供する商品やサービスに対し、顧客がどれだけ"お金を出してもいい"と価値を感じてくれるかの見極めだ。センサーやITの進化により、値決めは複雑になっている。ダイナミックプライシングが普及すれば、値決めにおけるAI活用の重要性は増す。しかし、顧客にとっての価値を理解するのが大切なのは変わらないだろう」

と、つまりは Willingness to pay とでも言いましょうか、支払う意思かあるプライス価値への理解がなければ成立しない世界なのでしょう。

ここまで浅い理解の中で書いてきましたが、ダイナミックプライシングというのは進むのでしょうね。すでに二次流通の世界(メルカリなど)で私たちは定価がない世界で買いたい時価や買わせる時価を向き合ってしまっているわけですから。
次なるeコマースが本当にこうした仕組みを持って進んでいくのかはわかりませんが、価格の主導権が消費者に移っている今、何かしら注視していく必要はありそうです。誰か一緒にこのあたりを考えていってくれる人いないですかね。

Photo by Markus Spiske on Unsplash