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新世界にて、【途方もない午後】私見まみれメモ
時系列順に浅倉透のコミュを読み返して思考したことを逐一リアルタイムで書き込んでいきたい。
そういった試みのもと今回は筆者の私見まみれで書き込んでいきます。
【10個、光】を読んだ次は【途方もない午後】を読み返します。
【途方もない午後】はアイドルという透にとっての新しい世界を美しい情景と言葉で描いたコミュで、自分が透を好きになった原点と言えるかもしれません。
●午後1 -風のない世界で
夜とは、見えない光の時間である。
午後とは、いずれ訪れる夜を待つ時間である。
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仕事から事務所に戻るため道を急ぐプロデューサー。
道から外れた茂みで涼んでいる透。
「平日の午後だから」
今は夏休み真っ只中だ。
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①木陰で風を感じる透
②プロデューサーが風に導かれてやってくる
③木陰にプロデューサーが入った途端に風が止まる
この場面では風が暗喩的なモチーフとして多用されている。
風とは一体なんなのか。
風とは、”以前の透が身を任せていたもの”であり、”プロデューサーと透を引き合わせたもの”であり、”今は止まっているもの”である。
私が考えるに、風とは「大きな流れ」である。
もっと詳細に言うと、”自分の意思に関わらずやって来る未来のようなもの”だと思う。
「運命」という語が表す意味に近しいものかもしれない。
”努力せずになんとかなってしまう”透の「以前の世界」を決定的に破壊したのは、バス停で運命的な再開をしたプロデューサーである。
そしてコミュ中の現在は、天塵でのやらかしの後である。
端的に言うと、ノクチルは芸能界から進行形で干されている。
このまま何もしないままでは、ノクチルとしての将来は閉ざされたまま。
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「……すまん 俺のせいかな」
プロデューサーがそう言うと、
そんなわけない。と透はそれを否定したうえで、「だったらまた未来を変えられるはず」とフォローする透。
アイドルという世界は得てして”以前の世界での生き方”が通用しない世界である。
黛冬優子流に言うと、「バカバカしい世界」。
透や、幼馴染たちをアイドルに引き込んでしまったことは本当に正しかったのだろうか。
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”過去を無かったことにする”そういう意味を含んだ弱気な返答である。
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しかし透は、「プロデューサーが運んできた世界こそ、自分が望んだものだ」と返す。
そして更に、
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風は待つのではなく起こすものである。
新しい世界でも彼女が彼女らしく生きれるように。
●午後2 -歪んだ像を飲み干して
海で撮影の仕事をする透。
休憩が挟まるやいなや、透はスタッフに取り囲まれコミュニケーションを円滑にこなす。
仕事は順調そうである。
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ここでは弱気なプロデューサーが「午後1」から引き続き描かれている。
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そしてプロデューサーは透を過度に心配している。
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”像の歪み”
天塵でのこともあり、ノクチルの面々にプロデューサーとして無力感を覚えているのだろうか。
ともかく、プロデューサーは透に対していつも通りの感じを出せていない。
水の入ったペットボトル越しに見た彼は逆さまだ。
そして、それを飲み干した透はまっすぐプロデューサーをみつめている。
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このコミュでは、浅倉透の「ありのままを捉える目」がこうして表現されている。
●所感 : 頑張ろうな -水のこころ
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再び撮影の仕事である。
場所はスタジオ。
仕事をこなす透はやはりいつもの調子で、順調そうである。
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雑誌でのインタビュー。
ただいつもやっている”皿洗い”は、親孝行のエピソードとして編集される。
カメラや雑誌、浅倉透を伝達する手段は山ほどあれど、そこには”作為”がある。
ナチュラルな情報がそのまま届くわけではない。
レンズを通した像は、ペットボトルのように歪んでいる。
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”見せ方”
透がしたい努力とは誰かに見せるものでも、ましてや業界や消費者へのアピールのためでもない。
努力とは、汗をかきながらジャングルジムをのぼっていく達成感である。
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ここまで、透が順調に仕事をこなす場面が多く描かれてきた。
そこでの透のラフな振る舞いは、アイドルになる以前のそれと変わっていない。
つまり、大した努力をせずとも”なんとかなってしまっている”状態なのである。
透の望んだ世界とはそんなものなのだろうか。
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透は、自分に対する評価は過大だと認識して、
プロデューサーは、透は順調にのぼっていっていると認識している。
ここでは、透の自己認識のずれが、プロデューサーの認識との対比で描写されている。
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今はとにかく”いい”と言ってくれるプロデューサーに身を任せることに決めた。
するとまた風が吹き始める。
どんどんのぼっていくことを決心したのだ。
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今”なんとかなってしまっている”のは、正しい意味で今の仕事は役不足だからなのだ。
クジラは、窮屈な檻に入れられて初めて自分の大きさを自覚する。
透にはもっと大きな仕事が相応しい。
このコミュは、透の捕食者としての自覚の出発点とも言えるかもしれない。
透の自己認識の低さをゆっくりとほどいていくプロデューサーの関わり方が好きだ。
●午後3 -そういうところがすき
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カフェで軽食を摂る透とプロデューサー。
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ナスタチウムは蓮のような葉が特徴の花で、食べるとカラシのように辛いらしい。
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聞いたこともない珍しい花が料理としてテーブルに並ぶ光景を前に、2人の微笑ましいやり取りが描かれる。
食べれるかどうかわからない花を、男らしく食べてみる。
とは言ったものなかなか簡単に踏ん切りがつかず結局食べるかどうかはプレイヤーの選択肢に委ねられる。
そして、”男らしい”と称したことにさえ、プロデューサーは優柔不断である。
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ナスタチウムを食べるという行為は、未知に向かっていくという簡単なモチーフで、
ここでのプロデューサーの態度は、未知に進んでいくアイドルの意思を尊重したいという想いの現れである。
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前の「所感 : 頑張ろうな」では、透の「誰かのいいね!に流されていくことへの不満」が描写されていたが、
プロデューサーは誰かとは違い、まず透が”いい”かを確認してくれる。
そうした部分を透は「プロデューサーらしさ」と呼び、そういうところが
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なのである。
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躊躇する透の背中を押したのはプロデューサーだが、決して強要したわけではないのだ。
プロデューサーが吹かせる新しい風は、透の意思も一緒に乗ったものだ。
●所感 -懐かしい音
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「とおるくーん……!」
通りがかった知らない男の子が呼ばれたのを勘違いして振り向く透。
まだ幼かった頃、透はそう呼ばれることが時々あったようだ。
プロデューサーも当時の透を男の子だと勘違いしているくらいだ。
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透はそれについて、イヤだと感じていなかった。
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それは言葉というよりは、音のようで、当時はそれに心地よく聴き入っていたのだという。
言葉は、意味が定義された音である。
まだ「とおる」という音が意味を定義される前、
まだ透が何にでもなかった時間。
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それが「以前の世界」。
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コミュタイトルが「所感 : 」のように日誌風に括られているのは、アイドルという新しい世界に入り、伝える手段としての言葉に悩むようになったからだ。
wingでも述べたが、アイドルというのは自分を届ける職業である。
「透」というアイドルの名前は届けるための意味を持ち、音ではなくなったのだ。
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wingでのプロデューサーとの不和や、「所感 : 頑張れよ」にて、自身の像が歪められて伝わること(自分が伝わってないこと)に対して透はよく思っていない、いやだと感じていることが示された。
プロデューサーのいいところ。
それは「透の意思を尊重してくれるところ」
プロデューサーはそういった彼女の意思を感じ取り、浅倉透をアイドルとして売り出したことに対する葛藤を見せる。
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「以前の世界」の美しさを「新しい世界」でも無くしたくない。
浅倉透、ひいては、
ノクチルというユニットは、幼馴染という”以前の世界”を持ち込んだままアイドルという新世界を泳ぎ切ろうとする異彩の存在だ。
クジラでありながらミジンコを望むアンビバレントな意思がここでは示されている。
「なんて呼べばいい?」と透に問うプロデューサーに対し、透はこう返す。
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新しい世界で貰った言葉を、懐かしい音で響かせる。
それは、そんな偉大な矛盾の始まりなのかもしれない。
彼女たちの美しさは、そういった矛盾した願望を叶えようとする意思にあると私は思う。