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「復讐的対処療法」 2024.07.22の日記


Fallout: New Vegasをやっている。
気になってるやつがいる。

コイツはブーン。
簡単にどんなやつか説明すると、Novacという町を警護する、元軍属のスナイパーである。でっかい恐竜の口に中にいる。
彼の頼みをプレイヤーが手伝ってやることでコンパニオンとして自由に連れ出すことができる。

 その頼みというのが、彼の妻を奴隷商人に売った人物に対する復讐なのだが、コイツは数あるフィクションの中に登場する復讐者と比べてもかなり妙な人物なのである。

 まず奇妙な点としてあげられるのが、初対面である見ず知らずの人間であるはずの主人公に、「この町に住む人間じゃないから」という理由で、上記の依頼をしてくるということである。
抱える秘密や想いを明かす行為というのは普通、開示する相手との信頼や利害関係が重視される。
ましてや復讐という後ろ暗いものであるならなおさらのはずで、初対面の相手に取引する内容ではなさすぎるのである。
 
 第二に、その復讐方法である。
彼は、主人公に目印となる帽子を渡し、帽子を被った主人公と夜間一緒に連れ添っている人物を犯人と断定し、高所からスナイパーの経験を生かした一撃で撃ち殺すことで復讐とする。
そう、誰が犯人であるの決定はすべて主人公に委ねられているのだ。依頼する時の会話を察するに、彼は誰が妻を売ったかの人物に関する目星すら付いていない。

 そして、一撃で仕留めるという点もまた奇妙だ。彼の妻は奴隷の身分としてどこかへ売られ、肉体的にも精神的にも衰弱し、じわじわと絶望の中非業の死を遂げたのだろう。
そこで、よくある復讐の姿としては、「犯人を拘束し妻と同じく奴隷商人に売り飛ばす」であったり、「犯人を痛めつけたあと殺す」というような、”犯人に行いに対する因果を自覚させる”手法が主として取られるのではないだろうか。なぜなら、復讐者というのはたいてい、殺された人間の想いを汲んで行動しているからである。
 しかし彼は、自分が死んだことを自覚させないような、正確で素早い一撃で犯人を殺すのである。これでは罪を認識するどころか謝罪の言葉すら引き出すことはできない。

 ここまでさんざん奇妙であると書いてきたが、私は彼について、情報を整理していくうちに、かなり合理的な描写だと思った。
 彼の復讐のあり方は、歯痛と似ている。
歯が痛い。ドリルでもロキソニンでもいい早く止めてくれ。
彼の復讐は、余計な手続きを可能な限り省くことに焦点が置かれている。
彼の復讐は、「妻の非業を晴らしてくれ」という要求ではなく、医者に対するそれのように、「妻を失った痛みに対処してくれ」という要求なのだ。
これは、主体となる対象が違うという点で決定的な違いがある、前者の復讐の主体は妻で後者はブーンである。

思うに、彼は極度のリアリストだ。
彼は元軍人である。
彼は死者に肩入れすることの虚しさ、無意味さを知っているだろう。
人を殺すことで、生を紡ぐ過酷な生き方を積み重ねてきたからだ。
故に彼は妻の喪失という事実に対して、”悲しい”や”哀れ”という死者に肩入れした解釈ではなく、自身の半身としての”痛み”のような感情を抱いたのではないだろうか。

彼が取った最終的な殺害方法は、「決して見えない存在」のスローガンを掲げる第一偵察隊の流儀に倣ったものだ。
それはブーンが未だ、彼が見出したリアリズム的な戦場哲学を信条としているからなのではないのだろうか。

New Vegas、おもろいな。


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