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アニメ『ODD TAXI』は銀杏だ

コイツは何を言っているんだ?

※筆者は4話まで視聴しました。このnoteは随時更新されます

小戸川交通との邂逅

事の始まりは7月下旬。
アークナイツのイーサン推しの人ばかりをフォローしているtwitterアカウントのタイムラインを見ていると、身の回りのフォロワーが次々と

「ODD TAXIしんどい……」

「ヤノはこの界隈のオタクに絶対刺さる」

「ODD TAXIはいいぞ」

などと、同じ作品の話をする人ばかりになったのである。

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ODD TAXI

キャッチーでかわいらしい動物の見た目をしたキャラクターたちを描くのはP.I.C.S.とOLM。

P.I.C.S.のほうはアニメだけでなく様々な作品を制作するマルチな会社で、今までの作品だとNHK版「岸部露伴は動かない」や星野源の「FAMILY SONG」や「恋」のMVなど、本当に多岐にわたるジャンル作品の制作にかかわっている。

一方OLMはテレ東で放送されるいろいろなアニメを制作している有名なプロダクションで、作品例を挙げると……

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平たく言えば子供向けの作品がほとんど(全部とは言ってない)だ。
これらの過去作品と同様、特段神作画だといえるようなカットは少ないが、キャラクターの形状がシンプルなのも相まって常時作画は安定していて、シナリオを楽しむにあたって邪魔しない画面となっている。

まあ同担のフォロワーたちが一斉に消える(?)レベルでは面白いんだろうし、気になる作品ではある。なにより、その「ヤノ」とやらはラップで会話するらしい。言葉遊びが好きで、語調を大切にして文章を書く自分としては到底見逃せない人物であった。
しかし、自分はアマプラも入ってないしまあ何より……人々の反応を見る限り胸糞悪いシナリオの気配がするので、敬遠していた。

しかし、公式サイトを見たことで事態は急変する。
現在進行形で、BSテレ東で放送されている。つまりアマプラがなくても見られるのである。

フォロワーさんたちに「放送済みの回のあらすじを教えてくれ」と呼びかけたところ、心優しいフォロワーさんがなんとかあらすじをまとめてくれたり、コミカライズの試し読みページのリンクを送ったりしてくれた。
もう退路はなくなった。覚悟を決めて、自分はタクシーに乗車した。

1~2話視聴時点の感想-なぜケモノアニメにした?

結局、あらすじだけでは勿体ないと思い、アマプラを契約し、お試し期間中に観切ってやろうと思い立ち、さっそく1話目から観始めた。

作品は予想通り、基本的に夜の東京の街を舞台とし、終始暗くて不穏なシーンが続く。第一印象はずばり、「(本家より)不穏なズートピア」。ちなみにズートピア自体も終始明るい話というわけではないので「(本家より)」という注釈をつけた。

また、線画を用いない切り絵のような背景や、デフォルメされたかわいい見た目とは裏腹にダークな言動をするキャラクターたち、随所で使用されるご機嫌な日本語フォントからは同テレビ局で放送されていた「おそ松さん」を連想させた。

もそもそと喋る、皮肉屋で人(というかケモノ)嫌いなタクシー運転手、小戸川が運転するタクシーに、とにかくバズりたい男だとか、地下アイドル時代からとあるアイドルをひたすら追いかけ続けるオタクだとか、微妙に売れない漫才コンビだとか、どうやら小戸川と微妙に顔見知りらしいカタギじゃなさそうな男だとか、一風変わった客ばかりが乗ってきて、ダウナー気味な漫才のような会話劇を繰り広げる。そして、彼らの会話劇の陰に「練馬で女子高生が失踪した」という事件やら、何か小戸川が昔事件に巻き込まれただとかがちらつく。そうだ、これはダークでアングラなサスペンスドラマだ。

たぶん、自分はこれが実写のドラマだったら、リアルな人間の劇画調のアニメだったら、これを見ていなかったと思う。それぐらい、シナリオは自分から観なさそうだな~という印象を受ける作品であった。製作者たちはなぜ、キャラクター達をデフォルメされたかわいらしいケモノにし、アニメという表現技法を選んだのか。もしかしてそこに何か意図があるのではないか……と思ったのである。

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たとえばLobotomy Corporation。シナリオ序盤で、プレイヤーの眼には認識阻害フィルターがかけられており、実際にはリアルで凄惨な血みどろの仕事現場が、カートゥーン調でかわいらしく見えるようにされていることが明かされたりする。

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本作にもそういう意図があるのではないか?と勘繰ったりした。

まあそれ以前に――2話見ただけで疲れてしまったのだが。

嫌悪感-もう観るのやめようかな

この手のシナリオは(たぶん)合わないし疲れる。わざわざ時間を割いて教えてくれたフォロワーさんたちには申し訳ないが、ここで観るのをやめようと思い、結局その日はアマプラを閉じて違うことをして一日を過ごした。

しかし、その日一日中、脳裏にずっとちらちら居つくのであった。出会い系にいそしむ男、タクシー運転手をやたら嫌う警官の兄弟、なぜかセンター以外仮面をつけてデビューさせられたアイドル、そして謎の事件。

好きの反対は無関心という。つまり嫌悪感を抱き続けるということは興味を失ったわけではないということだ。そしてその嫌悪感は、次の日再びアマプラを開かせ、第三話を再生させるには十分な引っ掛かりであった。

3~4話視聴-これは伊吹と志摩と久住がいない弱者の物語だ

実は、これと似た感覚を以前にも味わっていた。

ドラマ『MIU404』……の久住とその周辺を取り巻く人物や事件を見た時の嫌悪感である。詳しくはドラマを観てほしい。

このドラマには、いろいろな社会からこぼれた者――弱者が登場する。親に虐待され、親を怨む男、貧しい外国人技能実習生、廃部させられそうになる陸上部、謎の金を抱え、血を流しながら走る女、そしてそれらの事件の陰にちらつく薬物と謎の男。

決して救済の物語ではない。警察が動くのは事件が起こってからだ。人は傷つくし、死人が出る事件もある。でも、こぼれた人に目を向けてくれる人がいる。

『ODD TAXI』では人はこぼれたまま、悩み、苦しむ。登場人物全員が何か悪いことに手を染めていたり、何かに困っていたりする。しかし、(現時点で)大きな事件は起こらないので警察も来ない。

田中。鬱々とした生活の中、幼いころから救いのような存在であったドードーに執着する男は、とある廃課金しているソシャゲでドードーを引き当てた瞬間小戸川のタクシーに轢かれかけ、ドブにスマホを落とす。バックアップを復旧したが、ドードーを引いたデータは残っておらず、小戸川を怨んで拳銃を手に街を徘徊する。

たった一つ、ここのガバさだけがずっと気になっている。ガチャを引いた瞬間、サーバーにデータは送られないのだろうか?そもそも田中はゲーム会社勤務だ。携帯会社に走る前に/走った後に運営に問い合わせたのか?(問い合わせる気力も残っていなかったか、それとも問い合わせて「いえ、データは残っていません」と返ってきたのだろうな……)そうだとしたらこのゲームは重大な欠陥品だし、人気ゲームだとシナリオ内では語られているから田中以外に同様の不具合に出くわした人もいるだろうし、消費生活センターが動きそうなものである。

しかし、そんな粗も気にならないほど面白いシナリオが待っているのかと思うと、続きを見るのが少しだけ楽しみになってきてしまったのである。

ここまでの総論-銀杏

「銀杏」をご存じだろうか。

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イチョウの木になる実で、煎ったり茶わん蒸しの具にしたりして楽しむ食材である。あと秋、道路がすごく臭いのは地面に落ちたこいつのせいである。実はこの実には毒性があり、一気に食べすぎると嘔吐やけいれんといった諸症状を引き起こす。

自分は最初、『ODD TAXI』は一気見するファストフードだと思っていた。しかし実際には本作は銀杏だと気づいたのだ。
そのままでは臭い。調理(デフォルメされたケモノのアニメに)すれば食える。過剰摂取すると体に悪い。時間をおいて少しずつ味わうことで、美味しいと認識でき、次の一口が楽しみになるのである。

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