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%俺とホストクラブ

エクセルが叩き出した350万円という金額を見て、安いと思った。


人生で、といってもその中の何分のいくつかの期間ではあるが、人生の中の4年間でわたしがホストクラブで溶かした金額である。

350万なんていえばまあ車が買えるし、10年ちょっと前くらいのわたしの年収だし、そういえばその頃って300万もあれば投資用のワンルームも買えたよね、そんな金額。

付言するとわたしは350万を鼻で笑えるような富裕層でもないし、どちらかといえば明日には貧困に喘ぐ身である。
それでも350万を安いと思うのは、ただ単に記憶に残る青い春は切なくて幸せで苦しくて浮世離れしていたから。


4年で350万、単純計算で1年で100万使わないくらい。
当時も今もしがない会社員である身として、年間50万円だって大金である。おまけにその4年間のうち1年は人生でもっとも年収が低い年だった。

別で書くが、当時貯金にも手をつけ一時期は10万円を切った。それでも安かった。350万円は安かった。

安かった。安かったけれど、得たものは何もない。残ったものもない。だけど失ったものは?



「仕事も辞めなかったし体も売らなかったし借金もしなかったから後悔してないなんて笑ってられるんだよ」
幼馴染のなっちゃんの言葉は"メカラウロコ"という、聞き飽きたあの慣用句にぴったりだった。まあそうだろうね。
たまたま仕事も辞めなかったしたまたま体も売らなかったしたまたま借金もしなかった。だからこんな風に能天気に今日も胡座をかいて笑えているんだよ。


ホストクラブにはある種、定価がない。いくら使ったらこうしてもらえるとか、こんなリターンがあるとか、そんなのはない。言ってしまえば担当の匙加減だし角度を変えれば女の子のポテンシャルだしそもそもリターン求めてる時点で!



一晩で100万使って誕生日プレゼントも貰えないような女もいれば、かつての諭吉1人で休みの日に独占できる女もいる。わたしは後者だった。

ご存知の通り特別可愛いわけでもなくアツい客でもなく博識なわけでもない。客としては不十分だし趣味になれるほどの器量もない。
だけどホストからすると「昼職の女」は特別感があったのだろう。


「わかりやすいお世辞を信じて」
その通り。本当にわかりやすくて、バカで、たとえればできすぎたドラマのようで、それでもそんな一抹の言葉が欲しくてお金を溶かした。
笑っちゃうような「可愛いね」「スタイルいいね」「いい子だね」口をつく空虚が欲しくて毎日嘘ものの光を仰いだ。


ディズニーもお台場も東京ドームシティも六本木も連れて行ってくれた。時計も香水もアクセサリーもくれた。
将来のなんの糧にもならないバカみたいなことをたくさん経験させてもらった。

泣きながら帰った日もあるし泣きながら電話したこともあったし、思い返せばなんで金払ってんのにそんな苦行強いられてんの?みたいなことも多々あるけれど。そのバカみたいな事由こそホストクラブの醍醐味である。



もう2度と戻りたくないしバカだったなあって思うし金ドブだったなあとすら思う。だけど後悔もしていないのは、まだあの粗悪でベニヤ板に打ち付けられた甘美な夢を見続けているからかもしれない

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