あなたの文章の改善点がわかる本(書評)
辰濃和男『文章のみがき方』(岩波新書)
本書はタイトルの通り、文章をより良くするために気をつけると良いことが書かれた本であり、夏目漱石・太宰治・三島由紀夫など、数十名に及ぶ名だたる文豪の名文が引用されていることが大きな特長です。
Ⅰ 基本的なことをいくつか
Ⅱ さあ、書こう
Ⅲ 推敲する
Ⅳ 文章修行のために
と4章に分けて文章論が展開されています。
悪文は何が悪く名文はどこがどうすごいのか。分かっているようで分かっていなかった大事なことを知りました。全ページにわたって内容が濃く、読後はまるで書棚がひとつ頭に入ったような満足感。
どこを取っても文章を書く人にとって有益な解説が名文と共に書かれていますが、ここでは私自身、強く印象に残った「具体性」に関する話をします。
具体的であるということは、映像の細密さといった情景描写に限らず比喩、感情、起こった出来事など何についても、効果的です。以下は本文100頁、アメリカの絵本画家ターシャ・テューダーの言葉について筆者が解説した一節です。
これの何がすごいのか。
例えば、多くの人は「座ってゆっくり過ごす時間は大切だ」を具体的にしようとしても「椅子に座って紅茶を飲みながら鳥の声を聞く」にする程度ではないでしょうか。ターシャはというと「椅子」を「ロッキングチェア」、「紅茶」を「カモミールティー」、「鳥」を「ツグミ」の「澄んだ声」としています。
この文から絵を描くとしましょう。細部の描写の細密さや正確さは、歴然です。
具体的な描写は説得力が増し、実感を伴って読者の印象に強く残ります。画家であるターシャは身近なものを日頃から、「見る」だけでなく「観察」しているのです。「正確に書く」ことは、どれだけ「正確に描く」ことができるかであると気付かされました。
本書では他にも「ゆとり」「抑える」「流れを大切にする」など、文章をより良くするためのたくさんの手がかりがあります。文章への向き合い方を見直すことで、より良いものにする策が次々浮かぶようになる、文章を書くすべての人に読んで頂きたいと感じた本です。
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