「黄昏のリーンフェリア ~大人気VRゲームの世界で、私がいるエリアだけ過疎すぎる……。ならば最強の騎士として、この国を救うとしよう!~」第3話【ジャンププラス原作大賞・連載部門】

勇者の村を襲撃してから数日後。

私はフィオナの呼びかけにより、帝国評議会へ招集されていた。

アップデートを打ち切られてしまった、我らのガレンディア帝国を救う方法について、他のプレイヤーも交えた話し合いを行うためだ。

評議会の入り口では、またしても番兵ゴーレムに声をかけらた。

「オハヨウゴザイマス リーンフェリア様」

「名前を覚えてくれて何より。通るぞ」

「ハイ 勇者村ノ石像ミタイニハ ナリタクアリマセンカラ」

「なんで知ってるんだよ。まあ、お前の態度次第だな」

「アア ニンゲン コワイ。ゴーレム アイゴホウ ギカイデ ショウニンシテ」

本当に何なんだこいつは……。

扉を開けて足を踏み入れたのは、すり鉢状に座席が並んだ巨大な会議場。

だが、ほとんどの席は久しく空のままである。

唯一機能しているのは、中央に置かれた5人掛けの円卓。

残念ながら「帝国評議会」の実態とは、ここに座る5人で行われる小規模な会合に過ぎない。

集まるのは、帝国内でも特にゲームをやりこんでいるプレイヤー。

各々のプレイスタイルを極めた結果、国の代表者として役職が付与された者たちだ。

「なんだ、ステラの奴まだ来てないのか」

私は自分の席に着きながら、姿が見えない一名の行方をフィオナに尋ねる。

「さっき遅れるって連絡があったよ」

「まったく。帝国の危機に遅刻とは、呑気なことだ」

「いや、リンも少し遅刻してるけど……」

「え!? まあ数分は誤差だよ、誤差」

遅刻には慣れてると言わんばかりのフィオナは、全員が揃うまでの間、先日の勇者村での顛末を他メンバーに伝えていた。


「――というわけで、リンと僕とで勇者の村に行ってきたんだ」

【フィオナ・エゼルラント 帝国宰相、評議会最高議長】

ジョブ「軍師(スラテジスト)」――直接的な戦闘手段を持たないが、友軍ユニットの指揮能力に長けた戦略級の後衛。


「悪役のつもりで行ったのに、アイドルみたいな扱いになった。今思い返しても意味が分からん」

【リーンフェリア・アルトリウス 帝国騎士団、団長】

ジョブ「黒竜騎士(ドラゴンナイト)」――中距離戦闘とカウンターに特化した超攻撃型の騎士。飛竜を駆使した空中戦も得意。

別名、エルドラ最強プレイヤー・四天王の一人「黄昏のリーンフェリア」


「フッ……愚かなる王国の異教徒共など、滅ぼす以外ありえない!」

【ルチア・アイゼンガルド 帝都黒竜教会、大司教】

ジョブ「上級神官(アークビショップ)」――回復と敵の行動阻害が得意な「奇跡」と呼ばれる特殊スキルを扱う。

ゴスロリのようなデザインの修道服を纏い、背中まで届く黒髪をワンサイドアップにしている。

私とフィオナより少し年下で、常に芝居がかった話し方をする深刻な中二病患者。


「ぐぬぬ……。リンってば、またあたしに断りもなく、お姉ちゃんを独り占めして……」

【フィリス・エゼルラント 東帝都商会、会長】

ジョブ「大商人(ミリオネア)」――アイテムの取引や交渉術に長けた非戦闘ジョブ。緊急の戦闘手段としては「銭投げ」を行う。

フィオナの妹で、重度のシスコン。長い銀色の髪をツインテールにし、スチームパンク風のワンピースを着ている。

髪型以外は姉によく似ているが、傲慢で子供っぽい性格が表情に出ているところが大きな違い。

常識を弁えた年長者2人に、非常識な年少者2人というバランスの取れた円卓だ。

しかし、そんな均衡を乱す非常識な年長者――最後の一人がやってきた。

「遅いぞ、ステラ!」

「なんだよー。私とリンは遅刻仲間だったろ」

彼女は憎まれ口を叩きながら、だらだらとした動きで席に着く。


「眠い……今すぐ帰りたい……」

【ステラグリーズ・ロスランディア 帝国魔法学院、学長】

ジョブ「古代魔導師(エルダーメイジ)」――あらゆる魔法を極めた者のみが到達できる、魔術士系ジョブの終着点。絶大な威力を誇る範囲攻撃「古代魔法」を操る。

別名、エルドラ最強プレイヤー・四天王の一人「薄明のステラグリーズ」

いかにも魔女といった三角帽子とマントを羽織り、その下には学生服風のブラウスとスカートを身に着けている。

腰まである金髪をなびかせ、どことなく気怠げでアンニュイな雰囲気。

二つ名の「薄明」は、日が昇るまで徹夜で魔法の研究をしている姿からつけられたものだ。

以上5名、帝国が誇るトッププレイヤー達。

全員が顔馴染み同士の、久しくもない再会だ。

「みんな揃ったね。では、ただいまより第……第何回目かの帝国評議会を開催するよ!」

議長であるフィオナの頼りない号令と共に、いよいよ評議会が始った。

「今回の議題は、長年過疎化が続く我が国、ガレンディア帝国を救う方法について」

「知っての通り、ついに先日アップデートを打ち切られてしまった」

「これを覆すためには、多くの新規プレイヤーを呼び集め、運営に帝国の価値を見直させる必要がある。そのためのアイデアを募集したいんだ」

会議の方針を示した彼女に合わせるように、私も続けて発言する。

「今やほとんどのプレイヤーは、ストーリー攻略に興味がない。エルドラ本来の面白さを分かってくれる人が少ないのは残念だが……」

「何か他の魅力を示して、誘導するしかないと思う」

最初に応えてくれたのは、大司教のルチアだった。

長い黒髪を揺らしながら、高らかに声を上げる。

「ククク……妙なことを申すな、リーンフェリア卿。奴らは竜神に祝福されし帝国の威光が分からぬ異教徒共。媚びる必要など無い!」

確かに、以前の私ならこんな提案はしなかった。

帝国まで来れないプレイヤーは腑抜けだと切り捨てていたし、正直言って今でもその気持ちが完全に消えたわけじゃない。

しかし、状況が状況だ。

「異教徒かはともかく気持ちはわかる。だが、このままではプレイヤーを全て他国に取られてしまうぞ」

勇者の村での一件を通して、帝国が運営に見捨てられた現実を痛感した。

この危機感は、きっとルチアも分かってくれるはず――

「笑止! 迷える子羊は、ジンギスカンにすればいい!」

いや、駄目だなこいつは。

頭を抱えながら円卓を見渡すと、今度はフィオナの妹で商人をやっているフィリスが話し始めた。

「あたしも別に、今のままでいいかな。帝国のアップデートが止まっても、他の国から新しいアイテムとかは入ってくるし」

「フィリス、お前まさか国外逃亡とか考えてないよな……」

「失礼ね! お姉ちゃんがいる限り、帝国を裏切るなんて絶対ないんだから!」

こいつはこいつで行動原理が違いすぎて、話が噛み合わない。

もはや期待できるのは最後の一人だけ。

私と並ぶエルドラ屈指の実力者である、ステラを横目に見る。

しかし、彼女はスッと手を上げてこう言った。

「はーい。私もルチアとフィリスに賛成。とりあえず現状困ってないし」

意外な回答、というほどでもない。こいつは妙にストイックで達観してるところがある。

孤高の求道者っぽいところは嫌いじゃないが、今回ばかりはそういう態度も困りものだ。

「何を言う。ゲーマーなら常に、未知の楽しさを求めてこそだろう」

「確かにな。けど既に踏破したダンジョンへ何度も潜り、1秒でも早くクリアする。そういう楽しみ方も……まあ無くはないだろ。ええと……RTA(リアルタイムアタック)とか」

んん? ここまでストイックな奴だったか?

この前は「私が考えた最強の魔法コンボを、新しい敵にぶちかましたい!」とか言ってた気もするが……

「というわけで私は帰る。徹夜明けで考え事したくない」

「あっ、お前! 自分が眠いからって適当なこと言ったな!」

一方的に帰宅を宣言したステラを止めようとしたが、時既に遅し。

彼女が指をパチンと鳴らすと、その姿が一瞬で消えた。おそらく転移魔法でも使ったのだろう。

ステラがいなくなったのを見て、続くようにルチアも席を立つ。

「終幕の刻か! 我も祈りの儀に向かわねば……」

解散ムードの伝播は早く、フィリスもほぼ同時に席を離れていた。

「あたしは港に届いた荷物を確認しに行かないと。お姉ちゃん、今日の夕飯はハンバーグだから、早く帰ってきてね!」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

フィオナとフィリス、とても仲の良い姉妹の姿。今日も帝国は平和だった。

――第何回目かの帝国評議会、終了。

「結局、僕たちだけになっちゃったね……」

「なっちゃったね……じゃない! のんきに見送ってないで引き止めろよ議長!」

「ごめんごめん。流れに乗ってつい」

正直、こうなることは予想していた。

あいつら、協調性というものを欠片も持ち合わせていない。

みんな見た目は美少女なのに、性格に問題がありすぎる。

私くらいだよ。健気に戦いを求める、素直で頑張り屋な女の子は……

「ハッ! そうだ”美少女”だ……良い事を思いついたぞ!」

評議会を出た私とフィオナは、帝都の街を往くNPCたちを見やる。

人間、エルフ、獣人、竜人――

種族はもちろん、年齢も性別も違う彼らは、当然それぞれが異なる顔立ちだ。

が、良くない共通点は無数にある。

ゴワゴワの髪、ガサガサの肌、ゴツゴツとした強面、死んだ魚のような目つき、全く愛嬌のない無表情さ。

しかも人数だけは多いから"圧"がすごい。

「これだよ。普段は意識しないけど、改めて見ると物々しすぎないか?」

「確かに。激動の中世ヨーロッパに生きた、荒んだ民衆を再現しすぎてるというか……」

「そんな残酷なリアリティは要らない!」

古今東西、硬派なゲームというのは、なぜか決まってNPCが可愛くない。

レトロゲームの時代はそれでもよかったのだろう。だがVRが現実を凌駕した今、ゲームにおけるNPCの重要性は格段に上がっている。

聞くところによれば、王都ではアプデの度に美男美女のNPCが追加され、多くのプレイヤーがアイテムを貢いでいるらしい。

その流れに、乗ってやろうじゃないか。

「私たちはまず、この光景を変えるぞ! 名付けて、帝都NPC美化計画だ!」

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