見出し画像

機械安全に対する提言:危険情報のフィードバックと制度の改善

 日本労働安全衛生コンサルタント会の機関誌「安全衛生コンサルタント」に寄稿した私のレポートに対し、柳川行雄様がnoteに記事を掲載してくださったことに深く感謝申し上げます。また、その記事に対する私のコメントへのご返信から、機械安全に対する貴重な示唆をいただきました。

 本稿では、柳川様とのやり取りを踏まえ、日本の機械安全に関する課題と、それに対する私の提言をまとめます。


1. 機械の危険情報は十分に活用されているのか?

 機械を原因とする労働災害が発生した場合、その情報を製造メーカーにフィードバックし、機械の設計や安全対策に反映させる仕組みが重要になります。しかし、現状ではこの仕組みが十分に機能していません。

 私が関与したフォークリフトのフォーク脱落災害では、過去に同種の事故が発生し、国際規格(ISO)も改訂されていたにもかかわらず、日本国内のJIS規格や関連法令の改訂は8年も遅れました。結果として、改訂前に発生した事故に対し、メーカーが迅速に対応することなく、同種災害が繰り返されました。

 柳川様のご経験にもあるように、災害の発生を受け、メーカーに安全対策を求めることは容易ではありません。メーカー側が法的な責任追及を恐れ、あるいは業務負担を理由に消極的な態度を示すこともあります。しかし、事故が繰り返されるたびに被災者が生まれ、労働者の命が奪われていくのは許されることではありません。


2. 日本の安全規格改定の遅れとその影響

 ISO規格の改訂は、多くの場合、世界のどこかで同種の災害が発生し、その防止策が求められた結果として行われるものと推察します。しかし、日本ではISO規格の改訂を即座にJIS規格に反映させる仕組みが十分でなく、実際の改訂までに長い時間がかかっています。

 安全規格が改訂されない間にも、現場では同じ機械が使われ続け、同じ危険を抱えたまま労働者が作業をしています。この遅れがどれほどのリスクを生むのか、私たちはもっと深刻に受け止める必要があります。

 柳川様も指摘されているように、災害時の「4つの責任(刑事、民事、行政、社会)」がメーカーに対して一定のプレッシャーを与えます。しかし、民事訴訟や社会的責任の追及が進む一方で、行政の対応が後手に回っている現状は否めません。日本の安全行政がより積極的に機械安全の向上に取り組むためには、災害情報の迅速なフィードバックと、それを基にした規格改訂のスピードアップが不可欠です。


3. 提言:機械安全の向上に向けた具体的な施策

(1)危険情報のフィードバック制度の強化
・ 労働災害の発生時に、メーカーが速やかに情報を受け取り、対策を講じるための「強制力のある」フィードバックシステムを構築する。
・ 現在は「努力義務」となっている機械に関する危険情報の通知を、義務化する法改正を検討する。
・ 労働局や厚生労働省が、災害情報の収集と共有をより積極的に行い、メーカーに対して具体的な対策を求める。

労働災害情報は、国民の貴重な財産であるとの認識の共有が重要です。

(2)JIS規格とISO規格の整合性を向上
・ ISO改訂が行われた際、日本国内でのJIS改訂を迅速に進めるための仕組みを確立する。
・ 現行の規格改訂プロセスの見直しを行い、行政主導での迅速な対応を可能にする。

(3)メーカーの安全対策義務の明確化
・ 製造後の機械に対しても、メーカーが危険情報を通知し、安全対策を講じる責務を負うことを明文化する。
・ ユーザー企業が安全対策を講じるためのガイドラインを、メーカーと行政が共同で策定し、周知徹底を図る。


4. 企業の管理監督者の役割

 企業の管理監督者や安全衛生担当者は、メーカーが提供する情報を待つだけでなく、積極的に機械のリスクを評価し、必要に応じてメーカーに改善を求めることが重要です。

 フォークリフトの事例でも、ユーザー企業がリスクアセスメントの段階で危険情報の不足に気づき、メーカーに改善を求めて、事故を防ぐことができる仕組みが機能していれば、と考える次第です。

 また、メーカーの取扱説明書やマニュアルに記載された情報が本当に現場の実態に即したものかを確認し、必要であれば行政や業界団体を通じて改善を促すことも、管理監督者の重要な役割です。


5. 終わりに:機械安全の意識改革を

 柳川様の経験と私の事例から共通して言えることは、機械の危険情報は現場に伝わらなければ意味がないということです。メーカー、ユーザー、行政のそれぞれが役割を果たし、危険情報の伝達と安全対策の強化を進めることが、機械災害の防止につながります。

 日本の機械安全の取り組みが遅れている現状を変えるためには、法規制の強化だけでなく、安全に対する意識改革も必要です。管理監督者の皆様には、「待ちの姿勢」ではなく、「攻めの安全管理」を意識し、危険情報の共有と安全対策の推進に取り組んでいただきたいと願います。

            ご安全に!     2025.2.9


いいなと思ったら応援しよう!