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[悲報]パワー系鬱病ワイ、精神病院で看護師と殴り合う。

俺は精神科病棟内で首吊り自殺を試みた。
天井に設置された火災報知器にバスタオルをくくり付け、そこに首を通したのだ。

踏み台にしていたベッドから足を離す。首にジリジリと全体重がかかる音が聞こえ、死への確信を感じた……が、死後の世界への恐怖が脳内を巡り出したタイミングで
「バキィッ!!」
という鈍い音と共に火災報知器が壊れた。
地面に落下し尻餅をつき、情けなく痛みでのたうち回る俺の元に騒音を聞きつけた看護師がやってくる……

そこから俺をベッドに縛り付けるまでの流れは、その道のプロの技、狂人を隔離するという技を極めた者たちによる機械的で無機質なまでに効率的なものがあった。

まず俺に
「今からベッドに縛り付ける。一時的に人権を破棄する形になるが、それを認める。」
という誓約書にサインをさせる。

そして流れ作業のように無機質な表情の看護師が俺に精神安定剤リスパダールを服用させる。
表情ひとつ変えず事務的に俺に安定剤を渡す看護師は、まるで狂人を手際よく処理することに慣れきった職人のようだった。

そのままベッドに縛りつければ看護師の仕事はそれで終了したんだろう。
だが、俺をそこらのガイジと一緒にしてもらっちゃ困る。当時13歳ながらに、そこらのガイジとは一線を画した”達人ガイジ”としての自負を持っていた俺は反抗を試みたのだ。

俺をベッドに縛りつけようと部屋まで連行する看護師は4人はいた。
1人は身長180後半、体重は100近くあるであろう恰幅のいい男。この病棟で患者が暴れたら真っ先に駆り出されるんだろうなといった貫禄と、自身の腕力に対する自信が滲み出ているように感じられた。
残りの3人は標準体型の普通の男達だったが、当時13歳の俺にはあまりに怖く感じた。

部屋まで辿り着くと、俺はリスパダールが効き始め酩酊状態にある頭を必死に働かせて脱出計画を考えた。

「隔離病棟と解放病棟を隔てる鍵のついた扉。これをぶん殴り破壊して脱出すれば良いんだ!」

今から縛られるという極度の不安と、リスパダールによる酩酊で俺の思考能力は地に落ちていた。とにかく逃げ出さないと人権を剥奪されると必死だったのだ。

ひとまず部屋から逃げようと試みるが、当然のごとく男性看護師達が俺の行く手を阻む。

俺はシャバにいた頃は陸上をやっていたんだ。

保護室に入ってた頃も記録を少しでも落とさないようにと地面に汗の水溜まりができるほどの過酷なトレーニングをしていた。
子供だからって舐めるんじゃねぇ!

そう意気込み男性看護師達を振り解き部屋から脱出しようと試みるも、成人男性4人に制止されると中々厳しいものがある。特に恰幅のいい男。コイツが
「おお、おおww元気良いなww」
と煽りながら俺を逃してくれない。

俺はシャバにいた頃にネットでみたボクシングの技術を思い出した、右ストレートだ。

パキャ!!

目にヒットした!KOするまでの威力は無かったが、当たりどころが良かった。恰幅ヤロウが一瞬怯む。

標準体型の男3人が俺を制止しようとするが、舐めるんじゃねぇと振り解き閉鎖病棟と解放病棟を隔てる鍵のついたドアまで走る。

ここからは俺の土俵だ。普通の看護師に追いつけるわけがねぇ。室内サンダルを脱ぎ捨て、裸足で駆け抜けた。
この足音、この呼吸、この歩幅、久しぶりに感じる風の味……恋焦がれていた陸上の感覚が一気に戻ってきて、俺は一種のトランス状態に陥った。
今の俺なら確実に鍵のかかった扉をぶち破れる。
助走をつけて全力で扉を殴った!

……………

そこからは、もう話すまでもない。
当然のごとく俺の拳は跳ね返され、そこで俺のトランス状態は終わりを告げた。
増援された看護師10数名に引きずられ拘束具が準備された病室に連れ戻され、ベッドに縛りつけられた。反抗する気力はもう無く、肩に注射を打たれて泥のように意識を失った。


翌日目が覚めると、前日の行動を思い出し、強烈な自己嫌悪に苛まれる。本当に申し訳ないことをした。

体をベッドに縛りつけられているから、本を読んだり音楽を聴いたりして気を紛らわすこともできない。何もすることがなく、ひたすら思考の波に飲まれていると、本当に自分がしたことなのかよくわからなくなってきた。自我があやふやになってくる。

人生が狂ってるから人格が狂うのであって、今狂ってる俺の人格は精神病院の狂った環境によって生み出されたものなんだと、自分がした罪になんとか免罪の余地をつけたがる。

精神病院から退院して、また陸上の世界に戻れば、また仲間と一緒に走れば、普通の人間に戻れるんだ……そう信じたい。

そう信じたかった。

だが、ふと思う。もしかしたら俺は、最初っから狂っていたんじゃないか?

俺が元々狂っているから、人生が狂っていってるんじゃないか?全ての責任は俺にあって、俺は死ぬべきなんじゃないかと。

狂った人格が狂った人生を引き起こし、狂った人生が更に狂った人格を形成する。この地獄のループからどうすれば抜け出せるんだ?

……死ぬしかない。

って、身体縛られてて死ねへんやないかーいwwwwwwwwww

あああああああああああああ

そんなことを考えているとまた精神が錯乱し、口からは自分の意思ではない奇声が放たれていた。
俺の奇声を聞きつけて、無機質な表情の看護師がやってきた。自分が仕事を増やしといてなんだが、精神病棟の看護師ってのも大変な仕事だなぁと思う。

看護師の手にはリスパダール。

俺はそっと目を閉じた。

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