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[悲報]17歳で断酒会に乱入した結果……

若年層の気持ち悪いイキリ方の一つに
「私はもうそんなものとっくの昔に卒業しましたが?」
と“一歩先を進んでいる感”をアピールするというものがある。
私はもうそんなの卒業しました……みんな、まだまだガキね……と周囲を見下す姿というのは、周囲から見れば滑稽に映るが、本人からすれば最高にクールなものなんだろう。

17歳の私は、アルコールでそのイキリ方をしたくて堪らなかった。周囲の同年代がガバガバ安酒を煽ってはゲロを吐く中、俺は退廃の極みに達していたかった。
未成年飲酒?ダセェw

俺は「もう酒とは決別した男」になりたかった。
傷んだ肝臓と壊れた精神を抱えて、うっすら笑みを浮かべながら断酒会に通う17歳。
その絵面に、俺は酔っていた。


断酒会に行くことを決意した私はさっそく情報収集を始めた……
アルコール依存症者の自助グループには二種類の主要団体がある。

・全日本断酒連盟(全断連)
・アルコホーリクス・アノニマス(AA)

どちらもアルコール依存症者が集まり、ミーティング等を行う過程で依存症を克服しようというものだが、細かい違いが多々ある。

①匿名性
全断連は会員制であり、姓名を名乗ることを原則としているが、AAは「Anonymous(匿名)」とある通り、匿名性。

②会費
全断連は入会費や月会費がかかる場合が多く、AAは基本無料。メンバーの任意募金で運営されている場合が多い。

他にも家族同伴が許可されているのか。社会活動を行っているのか等様々な違いがあるが、私は匿名性かつ会費がかからないというのに惹かれてAAに参加することに決めた。

髪の毛を適度にボサつかせ、ボロボロのモッズコートを羽織り、いかにも「何かを抱えている」という風貌を装い指定された小さな病院に向かう。

消毒液のツンとした香りが充満する病院の一室に通されると、中央に大きなテーブルがあり主要メンバーらしき中年の男女が数名と車椅子に座った老婆。
微笑みながら私をテーブルに座るよう促してくれた。
古株と思わしき中年主要メンバーは楽しげに談笑していたが、その他の雰囲気はどこか精神科の待合室を彷彿とさせる……

一枚の冊子が私に渡された。
かなりの昔の出来事なので正確な内容は記憶していないが、キリスト教の教義を元に断酒の心得が書かれていたものだったと思う。

私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていたことを認めた。

下記リンクより引用

こちらの内容が
「いっぱいだけ……と思い酒に口をつけたら潰れるまで飲んでしまったことが今まで何度あったことか」
といった風に、宗教色を薄め噛み砕かれたものが記載されていたように記憶している。

皆に冊子が行き渡ると、主要メンバー達が過去のアルコール依存症エピソードを順番に語り始める。彼らの吐き出す言葉には、私が想像する以上の重さを持っていた。
暴力、犯罪、家庭崩壊、死……
アル中になり娘を虐待してしまっていた。その娘もアル中になり一緒にきている。なんてお母さんもいた。
詳細な内容は記憶していないが、赤茶色の顔で涙を流しながら自分の半生を語っていたおじさんの顔だけは鮮明に覚えている。

それらの話は、私がぼんやりと思い浮かべていた「クールな退廃」ではなく、飾り気のない真実。そして再生に向かう為に必死に足掻くような泥臭いものがあった。
私の「躁鬱の奇行欲」を満たしたいが為に踏み込んでいい場所じゃなかった。ここは本気で生きる為に必死な人達の集まりで、ちょっと躁鬱で、たまに飲みすぎちゃう程度の10代が足を踏み入れるような場所ではなかった。

私が話す番がやってきた。
AAという場所では、自分の過去を話すことが一種の義務のようになっている。
酒に溺れ、失敗し、何かを失い、それでも生きようともがく姿を打ち明けなければいけない。
勿論任意で断ることはできるし、最初は何も喋るつもりもなかったが、参加者達の泥臭い生き様を包み隠さずに曝け出す姿を見ていると、何も話さず観光者みたく座っていることが倫理に反しているように感じられたのだ。

私は13歳で鬱になり入院したこと。精神病薬漬けの廃人になっていたこと。薬に蝕まれている自分が怖くて独断で薬を絶ったが、シラフに耐えきれず酒を飲み出したこと。
それを、現在28歳くらいの設定で要所要所に作り話を交えながら語った。

赤茶色の顔をしたおじさんは、涙を流しながら身を乗り出し
「うんうん……うんうん……」
と聞いてくれた。
高校からの話は殆ど作り話で、おかしな点も多く、私が未成年だということを勘付いていた人も多くいただろうが、私を責める人は1人もいなかった。そこには、苦しみを背負った人間特有の、諦めに似た寛容、心地のいい優しさがあった。
一緒に行った友人は
「高校時代くらいから一気に話薄くなったなw」
と後から笑っていた。

ミーティングを終えて、病院を出る。
………彼らの目に私がどう映っていたのかは分からない。ただの未成年の冷やかしだったのか、それとも何かしらの痛みを抱えた仲間の一人と見なされたのか。

俺は無言でコンビニに入り、缶ビールを買った。友人は笑っていた。
人は制限からの解放に一番快楽を感じると思っている。厳しいダイエットをするから、何でもないコンビニのサンドイッチが非常に美味く感じる。ギリギリまでサウナに篭るから、普段であれば何も感じない外気が気持ちいいものに変わる。

断酒会終わりに酒を飲む。これで一種の快楽を得られるんじゃないかと思っていた。

喉に流し込む。刺激が走る。
でも、何の感慨もない。何も変わらない。ただの炭酸飲料。
「どう?ww」
ニヤつく友人に、俺はただ「クソまずい」と吐き捨てた。
赤茶色の顔をしたおじさんのグシャグシャの顔が脳裏をよぎる。

自分のやってることが、死ぬほどダサいことに気づいた。

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