我が家にある6畳博物館の展示物
ガガガ、ががんっ。
実家で使っているわたしの衣装タンスは、今日も絶好調だ。大きさは、150cmのわたしと同じくらいの背丈で、横幅は両手を広げたくらいある。
この桐ダンスは、とにかくとても開けづらい。埼玉で一番、使い勝手の悪いタンスだと自負している。
服を出し入れするだけなのに、全身に力をいれる必要がある。出し入れする途中で、必ず引っかかり、それを3回繰り返してようやく服を取り出すことができる。無印良品などで売っているプラスチックケースが恋しい。
それと比べると使いにくさが著しくて、わたしはついに痺れを切らしてこう言った。
「これ捨てていい?新しいの買おうよ」
そう問いかけるわたしに、母からの返事はなかった。耳が遠いから、聞こえなかったのかもしれない。
何日かあとに、母はこのタンスは父とはじめて一緒に住み始めたときに買ったものだと教えてくれた。ああ、聞こえなかったからのではなくて、そういうことだったのか。急に後ろめたい気持ちになった。
それからはもう、タンスへの悪口は言っていない。ただし、それを使うこともやめてしまった。わたしの心の健康のためでもある。
こうして母の思い出がこもった、使い勝手の悪いタンスは、オブジェになった。
衣装部屋という名の、6畳の博物館に展示されている。
この展示物の近くには、「撮影禁止」のラベルの代わりに「捨てると言うな」と太字で書かれたものが貼ってある。見えないけれど。