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知的基礎体力は高まるか

会長 亀田慎也 (第19期・高崎市・有花園代表)

先日新聞を読んでいると、京都大学の出口康夫教授のインタビュー記事が目に留まった。

緊急事態宣言が出された4月初めから、京都大学が「立ち止まって、考える—パンデミック状況下での人文社会学からの発信」と題し、対談やオンライン講座を次々とネットで公開している。(中略)--手応えはどうでしたか。「全体で約30万回のアクセスがありました。男女ほぼ半々で、20~40代の現役・子育て世代が6割を超えています。従来の公開講座の聴衆は定年後の男性が中心でした。今まで届かなかった人たちにも届いていたようです。」
(朝日新聞2020年10月15日朝刊:「できない」から始めよう 新型コロナ)

記事の本旨とは些かズレるので恐縮なのだが、この部分に大きな可能性を感じた。

私は現在高崎市の人権擁護委員を務めている。「人権」と一口に言っても幅が広く、偏見・ハラスメント・DV・いじめなどなど、その範囲は多岐にわたっている。そのため、年間で何度か講演会などに足を運ぶのだが、その聴衆はやはり定年後と見受けられる方々が多いと感じられる。
人権問題は、あらゆる年齢層に関係するものであり、講演会や講座で学ぶ場は世代を越えて開かれて欲しいと思っている。しかし、従来型の開催方法では、時間的・距離的な制約が多く、本来聞いてもらいたい世代になかなか届かないのが実情であった。

新型コロナを機に、ZOOMを初めとする様々なオンラインアプリが利用されるようになった。オンライン会議システムは以前からあったが、次々と使いやすく改良され、人の移動をかなりの部分で代替できるようになった。
それは前出の出口教授の言葉にも表れるように、オンライン講座の内容が、しっかりと伝えたい世代に届いていることであり、少なからぬ嬉しささえ感じられた。

とかく「活字離れ」などと言われ、現代社会は社会課題を薄く捉えているのではないか、と私は考えていた。しかし、こうしたツールが進化するにつれ、また発信側が届けたい層にしっかりとリーチするように努めることで、時間的・距離的な制約を取り払い、当事者意識を喚起するのではないだろうか。
オンラインでの講座やセミナーは、講師の熱量を感じられないなどと、マイナスイメージを持つ方も少なくないが、後に見返すこともできるなど、プラスの効用も多く含んでいる。

コロナウイルスによる社会の分断が危惧され、そうした側面からも目を反らしてはならないが、次々に出現する、社会課題を克服するためのツールや、人々の意識変化で乗り越えられることも少なくないであろう。
社会課題に限らず、文学・芸術・音楽・天文学・数学・語学・歴史…、あらゆる分野の学び直しの機会を創出していく。そして、多様な世代間での意見交換も行いやすくなる。

思えばこの「オピニオン ネクストぐんま」もそうした向上心・向学心・好奇心をいくばくかでも満たすことができないかとの試みであって、それは民主主義の鍛え直しにも繋がるのではないだろうか。
ITツールが社会を劇的に変えていることは周知の事実だが、さらに使い勝手が良くなることで、知的基礎体力の向上に大きな役割を果たすものと期待したい。
不要不急の外出を避けることで生み出される時間を、知を高める時間に充てることで、社会がより一層熟していくのではないかと、私は密かに期待しているのである。

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