見出し画像

11月16日 国際寛容デー 【SS】人柄

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 国際寛容デー

1996年(平成8年)12月の国連総会で制定。国際デーの一つ。英語表記は「International Day for Tolerance」。

1995年(平成7年)のこの日、ユネスコ総会で「寛容原則宣言」と「国連寛容年のためのフォローアップ計画」が採択された。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】人柄

 啓太と慎二は、同じ会社に勤める同期同士だった。二人とも営業部なのだが、部門は違っていた。それぞれ異なる部長の下で懸命に働いていた。二人の会社独立系のシステム開発会社で、お客様の業種ごとに組織が構成されていた。啓太は、製造業のお客様を担当する第一営業部、慎二は、金融業のお客様を担当する第二営業部に属していた。ある日、第二営業部の慎二は久しぶりに同期の啓太を居酒屋に誘い出した。どうやら、仕事上のストレスがかなり溜まっているようだ。

「おう、久しぶりだな。慎二。お前の方から飲みに誘うなんて結構溜まってんのか。半年くらい前の同期会の時以来かな」

「ああ、啓太。そうなんだよ。愚痴を言える奴なんてお前くらいしかいないんだよな。第二の中で先輩を誘うわけにもいかないしさぁ」

「俺で良ければいつでも付き合ってやるよ。お安いご用だ。で、どうした」

「どうしたもこうしたもないんだよ。うちの部長さ〜。いっつもギスギスしてて、特に下っ端の俺たちにはキツく当たってくるんだよなぁ。先週もさ、俺が営業から戻ったら、早速嫌味だよ。『今日は何件契約とって帰ってきたんだ。オフィスに戻ってきたということはいい知らせを持って帰ってきたんだろうな』だってさ。俯いて帰ってきたんだから、もう少しましな言葉かけれないもんかな、全く。何かにつけて、いじめられるんだよな。性格悪いよなぁ。啓太のところの部長は寛大なんだろ」

「そうだなぁ。俺んとこの部長は、そう言われてみれば寛大というか、全く怒らないな。怒ってるとこ見たことないし、誰かをいじめてるのを見たこともないな」

「すげーな、それも。よく、部長にまでなれたな、この会社で」

「確かにそうなんだよ。メンバーがミスしてお客様から怒られても、メンバーを怒ることはないんだよな。逆に慰めてるくらいだよ。部長はストレスたまらないのかなぁって時々思ったりするんだよなぁ」

 ひとしきり、お互いの部長の話で盛り上がっていると、その二人の部長が啓太と慎二が飲んでいる居酒屋に入ってきた。啓太と慎二は目を合わせて反対側を向いた。部長たちは全く気づく様子もなく、少し離れた席について注文していた。

「とりあえず、生二つ。いいよな、島田。あと、焼き鳥を適当に見繕って盛り合わせで持ってきて」

「相変わらずだな、羽鳥は。まぁ、そのくらいじゃないと金融の仕事は引っ張れないのかもしれないけどな」

「全くそうなんだよ。一分一秒が勝負だからな。ついつい部下にも辛く当たってしまうんだよ。特に、将来を期待できる若手には特に厳しくしてるかなぁ。精神的に強くなってほしいからな。頑張って、悪役になりきってるよ。島田の方はどうなんだ。お前は社内じゃ、結構評判になってるぞ。仏様みたいな存在で、逆に怖いって」

「本当かよ。まぁ、そうかもな。やっぱり優秀な社員は第二に集まっているからな。第一は精神的に弱い社員ばかりだから、怒れないんだよ。引きこもりになったりしたら大変だしな。こっちの方がどうかなりそうなくらいさ」

「やっぱりな。俺なんかとは、比べものにならないくらい短気だったあの島田が、変われば変わるもんだなぁ」

「そりゃあな、結婚して管理職になって部下を育てなければならないミッションになったしな。昔みたいにはいかないさ」

「ははは、そりゃそうだな。俺でさえも怖かったお前が今では仏様だもんな」

 まさかお互いの部下が同じ店の中で聞いているとは思いもせず、久しぶりのアルコールで饒舌になってしまった部長同士だった。近くで話を聞いていた啓太と慎二は少しバツが悪くなった。羨ましいと思っていた啓太は寛大だから怒られなかったのではなく、精神的に弱いと思われていたということに加えて、慎二は部長から期待されているから怒られていたのだと分かってしまったから。慎二が小さな声でボソッと呟いた。

「表面上だけで人を判断しちゃいけないんだな。やっぱり、まだまだだな。明日からは、めげない様にもう少し頑張ろうと思ったよ」

「慎二はいいじゃないか。期待されているんだって分かったから。俺なんかどうすればいいんだよ。部長からは弱い社員だと思われてんだぞ」

「いや、啓太は弱くないよ、きっと真面目すぎるんじゃないか。仕事の指示なんか、きちんとやろうとするタイプだから。あっ、お前んとこの部長が、また何か話し始めたぞ」

 第一営業部長の島田が、少し反省した様な顔つきで第二営業部長の羽鳥に話し始めた。

「ちょっと気になっている若手はいるんだけどな。芯はありそうなんだが、怖くて怒れてないんだよな。明日から、ちょっと方針変えてみるかなぁ。それで部門全体の空気が変わればいいしな」

「おっ、ついにエンジンがかかるかな。島田部長。しかし、いきなり変わったら変に思われるから徐々にやった方がいいと思うぞ。で、誰だその若者ってのは」

「ああ、藤原慎二っていう若手だ。とても真面目でまっすぐな社員なんだよ。彼が部門内の空気を変える起爆剤になるかもしれないな。そういえば、お前が買ってる若手の上村啓太と同期入社のはずだよ」

「おお、そうか。じゃあ四年目の社員じゃないか。お互いに頑張ろう。若手育成」

 慎二はこの話を聞いてなんだか嬉しくなっていた。啓太同様期待されているんだという理解をしたからだ。啓太と慎二は部長たちに気づかれないように会計をして店を出た。いい気分だった。働く気力も湧いてきていた。そのまま二人は別れて帰っていった。部長たちはまだ店の中に残っていた。

「おっ、やっと帰ったみたいだな。必死にこっちの話を聞いていたから、よっぽど気になったんだろうな。明日から、あの二人はいい動きをするようになりそうだな」

「全くだ。明日からは俺も寛大な部長とちょっと厳しい部長を使い分けることにしよう。なんにしても有意義な時間になってよかった」

 こうして、部長同士による若手社員の背中を押すための知らんふりしながらの居酒屋会話は終了した。明日から変化する空気を期待して。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは)
よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。