11月18日 防犯の日 【SS】まぬけな泥棒
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 防犯の日
東京都渋谷区神宮前に本社を置き、日本で初めての警備保障会社として1962年(昭和37年)に創業したセコム株式会社が制定。
日付は「18」の「1」を棒に見立てて「防」、「8」を「犯」と読む語呂合わせから毎月18日とした。
セキュリティのトップカンパニーとして社会の安全化に努めてきた同社の、企業や家庭、個人の防犯対策を毎月この日に見直して「安全・安心」に暮らしてもらいたいとの願いが込められている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】まぬけな泥棒
最近は闇バイトとやらの窃盗が増加している。怖い世の中になったものだ。けれどもそのおかげで、ニュース番組は賑わっている。なんとも不謹慎なのだが、無関係だと勝手に思っている人たちは、ニュースを楽しんでいるようだ。今日も、お昼のニュースで窃盗事件が取り上げられていた。ただ、いつもの事件のニュースとちょっと違い、笑ってしまうような窃盗事件だった。窃盗犯が狙った店は、裏通りに面しているチケット店。一部始終が写っている監視カメラの映像が、ニュースで流されている。最も顔はモザイクがかかっている。監視カメラは、店の前の道路と店内の二箇所に設置されていた。
道路に設置されている監視カメラは通行している人や車をしっかり捉えている。日が沈み夜の裏通りには人影がいない。当然、チケット店も店内の照明を落とし、閉店となった。表のガラス扉は施錠され、店員は裏口から帰宅した。時計の針は夜八時を回っていた。監視カメラには、黒い服を着た男性が犬を散歩させているのが写っている。犬は秋田犬のようだ。それなりに大きい。店の前を左から右に横切っていった。すると、Uターンするかのように、店の前を通り過ぎたと思ったら、また左側へと戻っている。五分もしないうちに、また左から右へ店の前を横切り、再度Uターンしている。散歩にしては奇妙な動きとしか言いようがない。何度か同じ動作を繰り返して、男は店の玄関の前で店の中を伺うようにガラス戸越しに店内を覗いている。玄関のガラス戸は自動ドアではなく、取手が付いていて外側に引いて開ける扉だ。男が呟いている声が店内の監視カメラに録音されていた。かなり大きな声で呟いている。
「よし、店員はみんな帰ったようだ。以前から目をつけていた店だ。今日はチケットを仕入れた日のはずだから、新幹線とか航空機のチケットが沢山あるはずだな。フフフ、みんな頂だいちまおう」
男は、犬のリードを玄関のガラス戸の取手に結んだ。大人しい犬なので吠えることはないが、念の為に犬用のおもちゃのぬいぐるみをそばに置き、玄関の鍵のピッキングを開始。鍵は二箇所に付けられてはいたが、なんの変哲もない普通の鍵なので、男の手にかかれば、五分とかからず開錠できた。男は、そーっとドアを引っ張って開けた。防犯ベルがけたたましく鳴り響かないかという心配をしていたが、取り越し苦労だった。すんなりと店内に忍び込んだ男は、ポケットからライトを取り出して、ショーケースの中を物色していた。高額チケットを探しているようだ。店内をウロウロする際に、何度かつまづいて転びそうになっている。その姿がまた滑稽だった。
「おおっと、危ない。危うく転びそうになったじゃないか。床の上の配線は危ないからやめてもらいたいものだな」
転びそうになるたびに、呟きながらウロウロしている。数分程度物色して、お目当てのチケットを探し当てたらしい。ショーケースの扉の前で、また呟いていた。
「うーん、ガラスを割ってしまえば簡単なんだけど、ショーケースって結構高価だからなぁ。店主に負担がかかるのは可哀想だよなぁ。ちょっと、ピッキングで試してみるか」
変なことを心配している泥棒だった。しかし、ピッキングの腕は相当なもので、ショーケースの鍵もすんなりと開けてしまった。その時、表に繋いでいる犬が突然吠え出してしまった。男は本能的にライトを消し、ショーケースの後ろに身を隠し、そっと伺うように玄関のほうを確認した。すると、玄関ドアの下の方に向かって犬が吠えている。特に人が来たわけではなかった。男は、ショーケースを回って、玄関ドアを押して開けようとした。しかし、開かない。鍵は開いている。
「アレ、鍵を開けて入ってきたのに開かない。なんで? あー、おい、お前、ぬいぐるみがドアの下に挟まってるじゃないかー。最悪ー」
なんと、犬のおもちゃのぬいぐるみが玄関ドアの下にしっかりと食い込んでしまい、ドアをロックした状態になってしまっていたのだ。男の顔に焦りが見えた。
「うー、どうしよう。どうすればいいんだ。あっ、そうだ。裏口だ」
男は裏口に向かった。しかし、鍵穴がない。この店舗の裏口は二重扉になっていて、内側の扉は外側からしか開けられない電子錠になっていたのだ。男は完全にパニックになり、店内をウロウロしまくるだけだった。その度に、床の配線につまずいている。学習能力に欠けているのかも知れない。表では、犬がしきりに吠えている。そのうちに泣き止まない犬の声に気づいた人が警察に通報してしまった。監視カメラにパトカーが到着したのが写った。警官が犬に近づき、様子を伺っている。店内は暗い。玄関ドアの下にぬいぐるみが食い込んでいるのを見て、警官はぬいぐるみを引っ張って取り出した。犬は尻尾を振って喜んでいる。
「これはお前のぬいぐるみなのか。ご主人様はどこにいるんだ。お前をこんなところに繋いで」
そう言いながら警官が何気なく玄関ドアに手をかけた。警官はドアが開くことに気づき、警戒体制を取った。静かに店内に入り声をかけた。
「誰かいますか? 通報を受けて様子を見に伺いました」
ショーケースの後ろに隠れていた男は、一芝居打つことにした。
「あ、お巡りさん、ご苦労様です。何かありましたか。そろそろ帰ろうとしていたところなんです」
「こちらのお店の方ですか。表に繋がれている犬がうるさいと通報があったもので様子を伺いに来てみた次第です」
「それはそれは、ご苦労様です。あの犬は私のペットです。ちょっと暗くなって私の顔が見えなくなったので吠えたんでしょう」
「そうですか。念の為、店内の照明を付けていただけますか」
「えーっと、照明ですか。ちょっとスイッチはどこかなぁ。これかなぁ、あれ違うなぁ」
この時点で、警官は男を取り押さえた。男の上着の内ポケットにはピッキング用の道具などが入っており、窃盗の現行犯逮捕となったが、容疑はまだ盗む前だったので窃盗未遂となった。この男は、元々は鍵の専門家だった。借金が増えてなんとかしなければと思い、チケットを盗んで、別の店で換金しようと考えていたようだった。犯行の一部始終は音声付きで残っており、男は言い訳もできなかった。警官の追及に対し、男は申し訳なさそうに答えた。
「どうしても犬との生活が長いので、独り言を言う癖がついてしまいました。それに、顔を出したままだったと言うことも忘れてました」
男のポケットには目出し帽が入ったままだった。この一部始終がニュースやワイドショーで放送され、あまりにも素人っぽい泥棒に、視聴者はなぜかほっこりさせられた。
了
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