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10月31日 ハロウィン 【SS】雑踏に紛れて

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- ハロウィン

「ハロウィン」または「ハロウィーン」(Halloween)は、古代ヨーロッパの原住民ケルト族を起源とする祭りである。

もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事であった。現代では特にアメリカで、宗教的な意味合いはほとんどなく子どもの祭りとして定着している。

アイルランドの古代ケルト暦では大晦日にあたり、死者の霊が家に戻ってくる日で、ほうきに乗った魔女が黒猫を連れてやって来て悪さをする日と言われていた。子どもたちが色々な仮装をして戸口で「トリック・オア・トリート」(Trick or treat. 「お菓子をくれなきゃ悪戯するよ」)と脅すのもケルト族の言い伝えからである。


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【SS】雑踏に紛れて

 いつからだろうか、ハロウィンでこんなに大騒ぎするようになったのは。最近のニュースは、ハロウィンでの外飲みが社会問題化しているようで、警察も頭を抱えているようだ。街中にある大きな公園や通りは、外飲み禁止を掲げてはいるが、多すぎる集団行動を抑えることはできないだろう。確かに、日が明けた後のゴミ掃除をさせられる商店街の人たちはやるせ無いだろう。ただ、若い人たちが集まってストレスを発散する場所がなさすぎるというのも課題なのかも知れない。

 ハロウィンの問題は、それ以外にもある。今や街角には至る所に監視カメラが設置され、犯罪の抑止効果に役立ってはいるのだが、集まる人たちが全員仮装をしているため、カメラ画像での判別が困難な日になってしまったのだ。そう、犯罪が増殖してしまいがちな日として警察は街の警備に当たるようになってしまっていた。

 ただでさえ、最近の犯罪は「闇バイト」と言われるメンバーを使っての犯罪が横行している傾向にある。しかも白昼堂々と宝石店を襲撃するような事件も起きている。そんな事件を起こす奴らは、人混みに紛れ込むことができるハロウィンの日を心待ちにしているのかも知れない。警察署内には緊張が走っている。限られた人数でどこを見回るのか、有事の際の駆けつけルートの選定はどうするかなど、課題は山積みだった。結局、人が密集する交差点や広場近辺の宝石店やコンビニを重要監視対象にしようという安易な結論で対策は計画された。

 強盗を計画している集団がハロウィンでの稼ぎ方を話し合っている。その計画次第で闇バイトを募集する予定だ。リーダーが口火を切った。

「みんな、ハロウィンの時、一番怪しまれない格好はなんだと思う?」

「リーダー、そんなことは決まってるでしょ。ハロウィンに関係する魔女とかそんな仮装ですよ。なんでそんなこと、今更聞くんですか」

「うーん。本当にそうかな。もし事件が発覚して最初に疑われるとしたら、その側にいたハロウィンゆかりの格好をしている奴らじゃないのかな」

「あぁ、確かに、言われてみればそうですね。確かに怪しまれそうだ」

「だろ。でもさ、警察官の格好だったらどうだ。パトロールをしている感じを演出できると思わないか。しかも、側にくるとみんな道を空けるだろ」

「確かに。警官の格好が一番いいかも」

「よしよし、みんなの賛同を得られたところで、今年のハロウィンの攻め方は、警官の格好をして宝石店を襲う、という計画にしたいんだが、どうだ」

「賛成。では、早速闇バイトの求人をかけまーす。ターゲットは宝石店ですね」

「ああ、警官のコスチュームを忘れずに準備しておけよ」

 こうして、警官に扮した強盗が宝石強盗をハロウィンのドサクサに紛れて実行するという計画が出来上がった。闇バイトの募集に応募した奴らは「なんか面白そうだな。いつもは目の敵にしている警官に化けるっていうのがたまらないな」などと言っている。

 いよいよ、ハロウィン強盗実施の日がやってきた。闇バイトで採用されたメンバーは、全員が渡された警察官のユニフォームを身にまとい、まさにパトロールをしているという様相を呈していた。誰しもが、これで計画は完璧だと感じていた。そして、ハロウィンの夜が訪れようとしていた。

 夕方の多くの店がシャッターを閉ざそうとしている時間、警官に扮した闇バイトのメンバーは、宝石店の側を見回りしていた。その時、数十メートル先のコンビニから奇声が上がった。

「強盗だー。誰か、捕まえてくれー。売り上げを盗まれたー」

 それを聞いたその場に集まっていた民衆は、少し離れた宝石店の前にいる警官に気づいた。

「お巡りさん、大変だ。あそこのコンビニに強盗が入ったみたいだ。なんとか捕まえて我々を安心させてください」

「わかった。わかった。これから追いかけるから、みなさんはこの場から離れてください」

 そう言うのがやっとだった。彼らは、直ぐそばの宝石店へ押し入る計画をしていたのだが、どうやら先に強盗事件を起こしたグループがいたらしい。仕方なく警官の格好をした強盗チームは、本物の警官さながらコンビニに急行し、対処する方法を考えていた。本来なら、援軍を待って対応するのだろうが、彼らにはそれができない。どちらかといえば、犯罪者の気持ちを考えての行動をとることにした。

 宝石店襲撃チームのニセ警官は、コンビニ強盗を捕まえるため、コンビニの前にやってきた。もう後には引けない。そのまま、コンビニ店内に突入し、なんとか強盗を制圧することに成功した。元々、宝石店を襲撃するつもりだったメンバーは思いもかけず、称賛の言葉を浴びて気分は高揚していた。近くにいた警察官もやっと駆けつけてきた。宝石店襲撃チームはそのままコンビニ強盗を警察へ連行するわけにも行かず、やってきた警官に引き渡すことにした。

「ご苦労様です。本官たちは、緊急時対応として持ち場を離れてきたため、この犯人たちの署までの連行をお願いいたします。我々は、急ぎ持ち場のパトロールに戻ります」

「了解しました。連行いたします。失礼ですが、どちらの署の方々でしょうか」

「いやいや、本官たちは持ち場に戻りますので、あなた方が逮捕に貢献したことで処理してください。誰が逮捕したかは重要ではなく、継続して市民の安全を確保することが大切ですから」

「かしこまりました。教訓、胸に刻んでおきます」

 取り巻いていた人たちからも大きな拍手が巻き起こった。こうなると、宝石店に押し込むことなどできるわけもない。ニセ警官たちは、できるだけカメラに顔が映らないように帽子を深く被り、その場から立ち去るしかなかった。

『正しいことをするのは、気分がいいな。今まではコソコソと逃げ回っていたけど、今回は違う。やはり心を入れ替えた方が気持ちのいい人生を送っていけそうだ。闇バイトからは手を引くことにしよう。きっと免許証を盾にして脅してくるだろうが、その前に警察に駆け込んで全てを精算してしまおう』

 闇バイトに応募して集まった宝石店襲撃チームは、人の役に立つことの素晴らしさと心が晴れやかになることを身をもって知ったことで、正しい道へと方向転換したようだ。裏で計画したメンバーが逮捕されることを期待したい。


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松浦 照葉 (てりは)
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