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12月6日 音の日 【SS】撹乱

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 音の日

東京都港区高輪に事務局を置き、豊かなオーディオ文化を広め、楽しさと人間性にあふれた社会を創造する一般社団法人・日本オーディオ協会(Japan Audio Society:JAS)が1994年(平成6年)に制定。

1877年(明治10年)のこの日、アメリカの発明家トーマス・エジソン(Thomas Edison、1847~1931年)が自ら発明した蓄音機「フォノグラフ(Phonograph)」で「メリーさんの羊…」の音を録音・再生することに成功した。蓄音機は、白熱電球・映写機と合わせてエジソンの三大発明と言われている。


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【SS】撹乱

 人はその身に危険が迫った時、視覚と聴覚に頼る場面が多い。勿論、ガス漏れなどの時には、嗅覚に頼ることがあるが、大抵の場合、目で見ている情報と耳から聞こえてくる情報を一瞬で処理して危機に備えようとするだろう。目で見ている情報は、危険なものがどこにあるのかを見つけるために利用されるが、危険なものが視界に入っていない場合は、音の方向を頼ることになる。右から聞こえれば左に逃げるという行動につながるわけだ。

 テクノロジーは日々進歩し続けている。各国の諜報部員として働いているその道のエキスパートは、常に最新の武器を身につけ、敵国のエキスパートの追跡を逃れ、先手を打つことで、必要な情報を得る努力をしている。

「ロバート。また一つ新しい武器が完成したぞ。音を制御する超小型のドローンだ。大きさはミツバチ程度で、下から見上げる分には、昼でも夜でも見えないようにステルス塗装を実施してあるんだ。どんな機能か、気になるかい」

「おい、ボブ。また変なもの作ったんじゃないだろうな。前回のブーメランになるハンカチは使い物にならなかったぞ。あまりにも軽量すぎて風に煽られ、コントロールできたもんじゃなかった。危うく、やられるところだったんだからな。運よくクリスタル・シールドで存在を誤魔化せたから、逃げられたからよかったけど、あんな思いは二度と嫌だからな」

「ああ、確かにブーメラン・ハンカチは失敗作だったよ。時間が無くて捻り出したアイデアだったからな。反省してるよ。でも、クリスタル・シールドはよかっただろう。あれは、僕の自信作だったからな。光の反射を利用して一瞬で相手から見えないようにできただろう。使った後は、自動的に溶けてしまうようになっているからテクノロジーも盗まれないしね。あっ、今度の発明は、結構自信作なんだ」

「ほぅ。一体今度は何を作ったんだ。音を制御するドローンってどんな場面で役に立つんだ?」

「ふふふ。これはメガネとセットなんだが、敵を撹乱させるための道具なんだ。メガネの縁に埋め込んだドローンが左右合わせて六機あるから、最大で六人の敵を一度に撹乱させることが可能なんだ。いいかい。まずメガネをかける。そして、相手に焦点を合わせてドローンをタップ。すると勝手にドローンがターゲットの上空まで音もなく飛んでいくんだ。ターゲットが見上げてもドローンは見えないから安心さ。それで、飛び出したドローンの後の部分をタップすると、ターゲットの耳に対し超指向性の超小型スピーカーから超リアルな音を届けることができるんだ。ターゲットは音のする方向を気にするだろ、それで移動し始めるとドローンは正確に頭上で追跡していくんだよ。相手が一人ならロバートが背後に回って、ズドンでおしまい。背後に回る足音は、ターゲットには正面から近づいているように聞こえるから、振り向かれる心配もほとんどないんだ。どうだい、素晴らしいだろう」

「なかなか、良さそうな武器だ。どうせならドローンに睡眠スプレーを仕込んでおいてくれるともっといいな」

「ああ、それは気が付かなかった。実装しておこう」

 こうして、諜報部員ロバートはまた一つ新しい武器を手に入れた。かけるメガネはオートフォーカス機能付きなので、かなりの距離も双眼鏡なしで確認できて便利だった。今回の仕事は、社会主義国家に密輸されそうになっている最先端AIがプログラミングされたチップの回収だ。国境近くの廃墟となった工場で取引が実施されるとの情報を得て、張り込んでいた。

 取引は陽が沈んだあとだった。黒塗りのベンツがやってきて待機している。おそらくチップを盗んだグループだろう。車を降りると数人が工場内に隠れ、銃を構えている。数えると三人が隠れ、二人が客を待っているようだ。しばらくすると黒いアウディが二台やってきた。ヘッドライトを照らしたまま停車し、五人が降りてきた。屈強そうな男たちだ。一人の男がアタッシュケースを持っている。おそらくキャッシュが入っているのだろう。ロバートは天井の隙間から取引の状況を見ていた。

「ブツは持ってきたか」

「ここにある。金は?」

 それぞれアタッシュケースを持った男が近づき、お互いのアタッシュケースを交換した。チップを手に入れた男たちのボスが話し始めた。

「まだ、帰らないでもらおうか。どうせ何人かはこの中に隠れているんだろ。我々の持っているマシンガンは破壊力が違うぞ。撃ち合いは避けたいものだな。まずはチップは本物かどうか確認させてもらおう」

「ああ、いいとも。こっちも金を数えさせてもらうさ」

 ロバートは、今がドローンを飛ばすタイミングだとばかりに、四機のドローンを飛ばした。それぞれのボスの頭上とそれぞれのボスを警護している男の頭上をセットした。ドローンがターゲットの上空に着いた時、ちょうどお互いの確認作業が終わろうとしている時だった。ロバートは拳銃の引き金の音をドローンから流した。その音は確実にターゲットの耳に届いた。四人の男は反射的に拳銃を取り出し、引き金の音が聞こえた方に銃口を向けてトリガーを引いたのだ。焦ったのは、周りにいるそれぞれの子分たちだった。一体何故発砲したのかわからないでいる。しかし、自分たちのボスが撃たれ始めているのを見て、またまた引き金を引き、銃を乱射し始めたのだ。お互いの銃弾は相手に命中し、全員がその場に倒れていた。ただ、周到なボスだけは防弾チョッキを身につけており、一命を取り留めている。しかし、足に命中した銃弾のせいで、お互いに足を引きずっている。

 ロバートは、睡眠スプレーの発射ボタンを押した。見事にドローンは頭上から鼻先に移動し睡眠スプレーを鼻から口にかけて噴射したのだ。二人のボスは、ウッと短い呻き声と共にその場に崩れ落ちた。それを確認したロバートは、颯爽と近づき、チップと現金を回収し、地元の警察に通報して姿を消した。

「いやー、今回は秘密兵器のおかげで、めっちゃ楽な仕事だったなぁ。現金というおまけまでもらえたし」

 安心しているところに、本部からロバートに連絡が入ってきた。

「メガネを通して一部始終を見させてもらったよ。現金はきちんとこちらに持ってくるように。まさか、ネコババなんて考えてはいないと思うけど。ミスター・ロバート、よろしくな」


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松浦 照葉 (てりは)
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