【SS】26.反対側にいる自分 ※クリエイターフェス
朝目覚めて洗面所に行くとまず自分とご対面する。大抵の人は同じなんじゃないかなと思う。もっとも、洗面所に鏡がない人は違うかもしれないが、稀だろう。鏡の中の自分の顔を見て、元気がないとか老けたなと思うこともしばしば。あなたはどうですか? そんなことを考えながら、もしかしたら鏡の向こうには自分と同じ顔をした別な人がいるのかもしれないと時々思ってしまう。そんなことを考えながら作ったショートショートです。お楽しみください。
反対側にいる自分
「今日もななんだか顔色が冴えないなぁ」
歯ブラシを取り出しながら、鏡に映る自分に対して話しかけた。気のせいか、鏡の中の俺は少しはにかんだように見えた。今日もいつものようにいつもの会社に出勤しなければならない。毎日が憂鬱だ。最近では会社に行くこと自体、意味がないような気がしてきた。仕事も面白くないし、同僚に会うのも鬱陶しい。
それでもなんとか身支度を終え、鏡を見た。鏡の中の自分が何やら話しかけているような気がした。よく見ると、鏡の中の動きが逆転していない。こっちで右手を上げると鏡の中の自分も右手を上げている。ちょっとパニックになった。ありえないと思ったからだ。
その瞬間、鏡の中から声が聞こえてきた。
「自分の人生だろ。自分で決断しないでどうすんだよ」
「えっ、俺が、、、俺に言ってる?」
「お前さ、しょうもない小さなことで落ち込んでんじゃないよ」
「えっ、いや。落ち込んでないし」
一瞬何が起きているのか理解できなかった。しかし、鏡の中の俺が言うことは最もだと思い、踏ん切りをつけて出勤した。オフィスはいつものように騒がしくて忙しそうだ。オフィスに入ると同時に、あちこちから仕事を依頼される。
俺はありったけの声を張り上げてオフィス中に聞こえるように叫んだ。
「自分の仕事は自分でやれー。俺を使うなー。俺には俺の仕事があるんだー」
周りのみんなが呆然としている。なんだか爽快な気分になった。これも鏡の中の俺のおかげだと思っていた矢先、隣に座っている女子社員から指摘された。
「言われたことも満足にできないあなたの仕事って何?」
俺の仕事はみんなの雑用を手伝うことだったと自覚した。
了
期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)
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