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10月28日 透明美肌の日 【SS】あこがれ

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 透明美肌の日

「美白の女神(ミューズ)」として知られる株式会社クリスタルジェミーの中島香里社長が制定。英語表記は「Clear Skin Day」。

日付は「10」と「28」で「透明美肌」と読む語呂合わせから。美しい素肌を「透明美肌」と表現して、その大切さを再確認してもらうことが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】あこがれ

 太陽の下で思いっきり走り回って遊ぶことが大好きな日向という女の子がいた。大抵、遊ぶ時は男の子の中に混ざって遊んでいる。しかも中心的な存在である。周りの男の子は、日向の従順なしもべにさえ見えてしまう。それもそのはずで、日向は男の子よりも数センチ背が高く、体格も良かったので、喧嘩しても誰も勝てない存在だったのだ。まさに男勝りで育っていたのである。小学生までは、そんな生活を満喫していた日向だったが、中学生になり、他の小学校からも生徒が集まってくると日向を取り巻く環境が一変していった。

 それまでの日向は化粧は大人がするもので、自分たちには関係ないと思っていたのだ。ところが、中学生になってみると、大半の女の子が薄い化粧をしているし、まつ毛はカールし、眉毛は綺麗に整えられている子が多かったのである。それに加え、ポニーテールで過ごしてきた日向とは違い、髪の毛をカールしている女の子も多かった。そしてさらに驚いたのは、男の子の方が日向より色が白いことだった。日向はなんとなく居心地が悪かったし、男の子の視線も気になり始めていた。見られているというよりも、その逆で見られていないことに無性に腹が立っていた。幼馴染の男の子でさえも、色の白い女の子ばかりを見ている。

 クラスの中を見回しても、日向より黒い子は男女問わず、いないかもしれないと感じた時、日向は「このままではまずい」と直感的に感じていた。なんだかんだ言っても、見た目は大切なのである。しかも第一印象は特に大切だと感じていた。

「うーん。今のままだとまずいわ。私は、これでも女の子なの。透き通るような肌になって、綺麗になりたいわ。でも今まで男の子のように遊んできてしまったのよねぇ」

 こんな日向の心の声を窓の外でカラスが聞いていた。日向の願いを聞くと、カラスは「カーッ」と一回だけ鳴いてどこかへ飛び去ってしまった。もちろん、日向は窓の外なんて見ていないのでカラスにも気が付かなかった。飛び去ったカラスは、古びた洋館の二階の窓に止まった。何と、その洋館に住んでいたのは、年老いた魔法使いだった。カラスは魔法使いのしもべだったのだ。カラスは町中を飛び回り、不満を持っていたり、過去を後悔したり、高い望みを持っている若い子を見つけては、その内容を魔法使いに伝えていたのだ。カラスから日向の願いを聞いて魔法使いは、望みを叶えてやりに会いに行くことを決めた。実は、魔法使いには下心があった。自分の衰えた体を、新しい体に変えなければ生きながらえることができない時期に差し掛かっている。そのため、望みを叶える代わりに二十歳になったら肉体を貰う契約を交わそうという魂胆だったのだ。もちろん、契約書などはない。魔法使いの言葉に「はい」と答えることが契約なのだ。これまでも探し続けてはいたのだが、健康を絵に描いたような子に巡り合うことができていなかったので、少し焦りもあった。

 魔法使いは、優しそうなお婆さんに化けて日向に会いに行った。日向はすでに高校生になっていた。そして学校帰りの日向の前で突然うずくまる芝居をした。

「ううう、痛い痛い、あー、急に足が痛くなってしまったわ」

 それを目の前で見ていた日向はたまらずに声をかけた。

「お婆さん、どうされました。具合でも悪いのですか」

「おや、優しいお嬢さん、ありがとう。実はね、もう足が弱って思うように歩けなくなってしまったのよ。私の家は、ここから歩いて十五分くらいの所にあるのだけれど、ちょっと休まないと帰れそうにないわね。どこか、休めるところは無いかしら」

「お婆さん、目の前が私の家なの。休んで行ってください。お父さんもお母さんも仕事だから、誰もいないけど、お茶ぐらいなら出せるから休んで行って」

「ありがとう。優しいお嬢さんだね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますよ」

 こうして、日向は魔女の悪巧みだとは知らずに魔女を自宅に招き入れてしまった。魔女はしてやったりという顔をして、後ろからついてきていたカラスに目配りしてなにやら合図を送っていた。家の中に入った魔女は日向がいれてくれた紅茶を美味しそうに飲んだ。

「はぁ、温かい紅茶で身体中の血液が元気になり始めたようだわ。これでまた歩けそう。何かお礼をしなくちゃね。お嬢さんの望みはある? 聞いてあげられることはお礼にしてあげるわよ」

「いえ、お礼だなんて。当たり前のことを私だけですから、気にしないでください」

「まぁ、本当にいい子だね、お嬢さんは。それにしても健康的に日焼けしてるようだけど何か運動をしてるの」

「あ、やっぱり、私、色黒いですよね。日焼けしちゃってるから。まぁ、それが悩みなんです。周りの女の子はみんな色白で可愛いから羨ましくって」

「まぁ、そうだったのかい。お嬢さんは色白になりたいんだね。だったら、この婆さんが力になれるかも知れないよ。いいものを持っているからね」

「え、もしかして美白クリームとかをおばあさんが持ってるの?」

「そうそう、私の家の庭で取れたハーブを練り込んだお肌に優しいクリームで、毎日つけると一ヶ月で白く透き通るような肌になれるわよ。そのクリーム、ちょうど今日はバッグの中に入れてあるから、今日のお礼に貴方にあげましょう。じゃあ、今から私が美しくなる呪文を唱えるから、貴方は『はい』と言ってちょうだい。いい、じゃあ、呪文を唱えますよ」

「%□#△&◯$?¥▽□#△@&◯、これに同意しますか?」

「はい」

 日向は、何を言っているのかわからない呪文を気にすることはなく返事をしてしまった。魔法使いは「クリームを使い始めて二十歳になったら肉体を私に譲ること」と言ったのだが解るはずはなかった。だが、奇跡は起こった。日向は、せっかく貰ったクリームだから、まだ使うのはもったいないと思い、二十歳になったら使おうと決めて大事に仕舞い込んでしまったのだ。魔法使いが提示した条件は「クリームを使い始めて二十歳になったら」だったので、二十歳を過ぎてから使っても条件に当てはまらない。日向は二十歳を過ぎて透き通るような白い肌を手に入れ、一生羨ましがられる生活を送ることができたのだ。

 その様子をカラスから聞かされた魔法使いは、地団駄を踏んで悔しがったそうだ。きっと、今でも健康そうな若い女性を探し続けているに違いない。


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松浦 照葉 (てりは)
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