11月2日 書道の日・習字の日 【SS】遺書・美しい文字
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 書道の日・習字の日
東京都千代田区九段北などに事務局を置く公益財団法人・日本習字教育財団が制定。
日付は「11」と「02」で「いい(11)もじ(02)」(いい文字)と読む語呂合わせから。多くの人に文字を書くことに親しみを持ってもらい、手書きで文字を書くことの大切さを伝えていきたいとの願いが込められている。2013年(平成25年)3月までは9月1日を記念日としていた。「書道の日」「習字の日」はそれぞれ一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】遺書・美しい文字
日本の文字は豊富で、とても美しい。それに幼い頃から「習字」と称して筆で文字を書くことを学習する習慣は素晴らしいものだ。「永」という文字をバランスよく生き生きとした筆捌きで美しく表現できれば、どんな文字でも綺麗な文字として描けると教わった記憶がある。「永」の文字には、点や跳ねなど筆書き表す時の文字の必要な要素が含まれているかららしい。確かに書いてみると難しい字ではある。そんなことを幼い頃に教わり、習字に明け暮れた日々があった。それがいつからか、書道と呼ぶようになり、段位の取得などを目指すようになっていた記憶がある。父親が書道の先生だったということに起因しているのかもしれない。
書道の世界に入るとその奥深さに驚かされることがある。例えば、日本語は、カタカナ、ひらがな、漢字、そして数字で構成されているが、その中の漢字に関して言えば、元が中国から伝来したものということに起因するのかもしれないが、表現の書体が多く存在する。漢字を忠実に表した楷書、文字を連結する時に便利な、楷書を少し崩した行書、そしてほぼ知っている人以外は読めなくなるまで省略された草書という書体があるのだ。しかもそれ以外にも、隷書、篆書と呼ばれる書体も存在する。そして、日本の場合は、漢字と平仮名を混ぜた文章を表すことが普通である。その際は、平仮名と漢字が流れるように繋ぎながら表現するのが常である。実に奥が深いのである。そしてとても美しいのである。まるで、流れる水のように線に鼓動を感じるのである。
日本の良き文化である書道は、最近では高校の部活などで脚光も浴びている。そして、今年を表す漢字一文字などもそうである。メディアの影響を大きく受けていることは事実でもあるが、日本人として少しでも関心を持ち興味を示すことはとても重要だと感じながらニュースを眺めている。
文化の継続を期待すると共に、テクノロジーの進化も止まることなく凄いスピードで進んでいる。それは「筆を使って文字を書く」ということにまで影響を与え始めていた。ロボットの進化だ。人型のロボットの研究も進んでいる一方、人間の動きを完全にコピーしてしまうロボットまで出現している。元々は産業ロボットの制御を細かくすることが目的だったが、その究極は、匠の技を継承するため、人間のアナログ的な動きの再現でもあった。書道家の筆跡をそのまま再現できればその目的も達成できる。研究者は懸命にセンサーの微調整を繰り返し、人の手による筆への力の掛け方や墨の付け方などを学習させ、ほぼ同じ芸術的な文字を再現できるようにまでなった。専門家でさえ、本人が書いたものと間違うほどの筆跡にするところまで進化している。
テクノロジーの進化は、ある男の目に留まった。詐欺師のグループだった。時として遺書の存在に遺産相続詐欺を阻まれていたグループは、最新の遺書を本人の自筆遺言として偽造することに利用するというアイデアを思いついたのである。お年寄りの場合、パソコンを利用して作成された遺書に自筆でサインするケースや、全てを自筆で記入するケースがあり、どちらにも対応できそうだと考えたようである。だが問題があった。現在のテクノロジーでは、書かれた文字だけから完全に複写することは難しく、実際に文字を書いている作業のデータを収集する必要があるのだ。詐欺師のグループは考えた。
「資産家の老人をターゲットにして、介護作業で入り込むことを考えよう。そして、リハビリのために文字を書いた方がいいと提案して、毎日文字を書くことを実施してもらえるようになれば、文字を書く動作のデータを収集できるんじゃないか」
「おお、それはいい考えだな。それなら怪しまれないし、学習させてしまえばこっちのものだ」
こうして、ターゲットを選定した詐欺師グループは、介護要員としてターゲットの家に潜り込むことに成功した。そして、金融資産があることを確認した。不動産に関しては、手続きが面倒なので、金融資産だけを狙った。
難なく介護要員として入り込んだ詐欺師グループが信頼を得るのにそんなに時間はかからなかった。やはり詐欺師の本領発揮である。
「おじいさん。手を動かすことは頭のリハビリにもなりますから、大好きな書道をしましょう。でも、あまり汚れてもいけないので、小筆を使いましょう」
「おお、書道か。だいぶ握っておらんのう、筆なんて。でも楽しそうだな。いいアイデアを出してもらって嬉しいわい」
「そうでしょう。それでは手の動きから健康度合いをみるデータを取っていきますので、練習している時は、このベルトを手首につけてください」
詐欺師グループは、指先の神経に流れる電流を計測するためのベルトを手首にまいた。これを数ヶ月続ければ、どんな文字にでも対応できるデータが蓄積される。詐欺師は、数ヶ月経った時、提案した。
「おじいさん、だいぶ元気になったみたいですが、残される方々のために遺言書は書いておいた方がいいですよ。無用な争いを避けるためにもね。せっかく、書道の練習をされましたから、この小筆で書いてしまってはどうですか? もちろん、私たちは席を外しておきますから。こちらに見本をおいておきますね」
「おお、またまた、いい考えじゃのう。そうしよう」
こうして、老人は遺言書を認め封をして保管し、そのことを弁護士に連絡した。その後、弁護士が来る前に詐欺師グループは、前もって作成しておいた遺言書と取り替えてしまったのだ。その中には、詐欺師グループが所属する架空の財団への寄付をする事という文言が加えられていた。
(明日に続く)
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