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11月29日 イーブックの日 【SS】思い込みからの脱却

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- イーブックの日

東京都千代田区麹町に本社を置き、国内最大級の電子書籍販売サイト「ebookjapan(イーブックジャパン)」を運営する株式会社イーブックイニシアティブジャパンが制定。

日付は「いい(11)、ブック(29)」と読み、いい本をたくさん読んでもらうきっかけの日にとの思いと、「イーブックジャパン」のサイト名の語呂合わせから。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。

本には人生をも変えてしまうような不思議な力があり、子どもの頃に読んだ懐かしい本も電子書籍なら手元で探せる。様々な可能性のある電子書籍を通して本を読む人が増えて欲しいとの願いが込められている。


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【SS】思い込みからの脱却

 電子書籍が当たり前の時代になってきた。週刊誌をタブレットで読む時代だ。電子書籍用のモノクロ端末も登場している。だが「本はやっぱり紙でなくちゃ」という人が多いのも事実である。なぜなら、紙をめくる感触がよかったり、栞を挟んだところからさっと読めたりするのが本を読んでいるという感覚になるからだ。そして、気に入った箇所にマーカーで印をつけたり、ペンでコメントを入れたりと、自分だけのオリジナルの本が出来上がる楽しみもあるだろう。

 良く考えてみると、栞やコメント、マーカーをつけるということは電子書籍でもできることなのである。ということは「紙のページを指でめくる」ということだけが、アドバンテージとして考えられる。でも、実際には違うのではないだろうか。紙の本を持っていて自分の本棚に並んでいると、第三者から見ても「この人はすごいな」ということが一目でわかるが、電子書籍の場合、自分にしかわからないのである。もしかすると「読書家」とか「博識」というのを第三者に認識してもらうために紙の本に執着している人がいるのかもしれないと穿った味方をしてしまったりする。そうならば、そんな人たちのためには、紙の本は有用なのかもしれない。と思ったりもするのではあるのだが。

 いずれにしても、電子書籍が市民権を得た現代では、紙の本同様、電子書籍も抵抗なく読んでみればいいのだと思う。特にお年寄りには、固定観念を取り払ってチャレンジしてもらいたいものである。

 冬にしては暖かい日差しが差し込んでいる家の中で、本についておばあちゃんと孫が話をしているようだ。

「ねぇ、おばあちゃん、何の本読んでるの」

「ああ、美香ちゃん。これはね、伊豆の踊り子という短編小説よ。とっても古い小説なのよ。もう何度も読んでるのよ。川端康成という人が書いたのよ。おばあちゃんの大好きな小説。ほら、紙がだいぶ黄色くなっているでしょう」

「本当だ。だいぶ汚れてるね。書いた人は、美香が知らない人だね。おばあちゃんはタブレットで本は読まないの? 美香はタブレットでばかりだよ」

「え、タブレットは美香ちゃんたちとテレビ電話で使うものだろう。本なんて読めるのかい」

「おばあちゃん、知らないの。電子書籍っていうんだよ。タブレットさえあれば、すっごく沢山の本が読めるんだよ。タダで読めるのもあるし」

「でもねぇ、紙の本を手に持って読むほうが、落ち着くのよ。こうして、読みかけのページにしおりを挟んでおけば、すぐに続きから読めるしね。この方が便利、おばあちゃんには」

「へぇ、そんなもんなんだ〜。タブレットだったら、開いた瞬間に続きのページが表示されるんだけどなぁ」

 こんな会話をしていたおばあちゃんと孫だったが、家族旅行に行くことになり、みんなで電車に乗ってお出かけすることになった。旅館に着いた時、孫達は旅館の周りを探検に行くと言い出し、両親は温泉に入りに行った。おばあちゃんはしばらく一人でお部屋でお留守番。

「ああ、こんな事なら、読みかけの本を持ってくるんだったわね。あら、美香ちゃんはタブレットを持ってきてたのね。ん、メモが付いている」

『おばあちゃん、もし、伊豆の踊り子の小説が読みたくなったらこの手順でやってみて』

 そこには、電子書籍のアイコンの説明と、本の開き方、ページのめくり方が書いてあった。おばあちゃんは、恐る恐る手順に従って、電子書籍を開いてみる。すると確かに、川端康成の伊豆の踊り子が画面に現れた。もう、半分くらいは読み終えていたので、ページを続きのところまでめくった。

「おや、まぁ。読めるねぇ。文字も大きくて読みやすいわね。意外だわ」

 しばらくすると賑やかな声と共に、孫達が部屋に戻ってきた。

「おばあちゃん、旅館の周りを探検してきたよー。虫もいっぱいいたよ。あっ、おばあちゃん、タブレットで本読んでたんだ」

「ええ、美香ちゃんが説明のメモを付けておいてくれたから、ちょっと読んでいたのよ。電子書籍というのもなかなかいいねぇ。こうして旅行先でも読めるし。ちょっと、読みかけのページまでめくるのが面倒だったけど、字も大きいし読みやすいよ」

「でしょ、それにね、一度開いて読めば、次は続きのページを自動的に開いてくれるから、次からは楽だよ。自動で栞を挟んでくれるようなものだから」

「すごいね〜。便利だね。これで美香ちゃんはいつも本を読んでいるんだねぇ」

「うん。まぁ、漫画ばっかりだけどね、読んでいるのは」

「あら、まぁ」

 こうして、楽しい旅行も終わり、家に帰ってきたあと、孫の美香がおばあちゃん用のタブレットに電子書籍のアプリを入れてくれて、いつでも好きな時におばあちゃんが電子書籍を読めるようにしてあげていた。おばあちゃんにとっては、タブレットで本を読むことが嫌なわけじゃなくて、タブレットの操作が苦手だったようだ。これで、操作にも慣れてしまえば、紙の本から電子書籍へと変わっていくのかもしれない。電子書籍が読めるようになったおかげで、好きな小説だけではなく、女性週刊誌なども本屋まで足を運ぶ必要もなく読めるようになり、おばあちゃんの楽しみが少しだけ増えたようだ。

 そして今日も暖かい日差しが当たる場所で、おばあちゃんは「伊豆の踊り子」の本を開いてウトウトしながら読んでいる。タブレットはテレビの側に置きっぱなしだった。



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松浦 照葉 (てりは)
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