12月5日 アルバムの日 【SS】思い出は、
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- アルバムの日
東京都板橋区東坂下に本社を置き、フエルアルバムをはじめとして、製本・シュレッダーなど情報整理製品の総合企業であるナカバヤシ株式会社が制定。
日付は一年最後の月の12月はその年の思い出をアルバムにまとめる月。そして「いつか時間が出来たら」「いつか子どもが大きくなったら」「いつか、いつか…」と後回しにされることなくアルバムづくりをしてもらいたいとの願いを込めて、その5日(いつか)を記念日としたもの。この日をきっかけに今年のアルバムを作ろう。
記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。この日を記念して、家族スナップ撮影会・講演会・アルバム編集ワークショップなどのイベントが開催される。
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【SS】思い出は、
僕は、ページをめくると映像が浮かび上がって動き出す不思議なアルバムを持っている。これは今では、僕だけの秘密となっている。おじいちゃんから貰ったアルバムに写真を貼り付けると、その写真を撮った時の映像が写真の上にホログラムのように現れるのだ。おじいちゃんは亡くなる前にこのアルバムをそっと僕にくれた。僕の小さい時の写真が貼り付けられた状態で。その時、おじいちゃんは僕に強く言った。
「幸助、このアルバムのことはお母さんとお父さんに絶対に言ってはダメだよ。幸助とおじいちゃんの二人だけの秘密だからな」
おじいちゃんは、そう言って七十八歳で死んでしまった。僕はおじいちゃんが大好きだった。だから、おじいちゃんとの約束は、頑なに守り続けた。あることに気づくまでは。その時高校生だった僕は、おじいちゃんが死んでしまったことのショックが大きくてアルバムのことをすっかり忘れ去っていた。月日は流れた。
僕は結婚し、子供もできて何とか念願のマイホームである一軒家を購入。引越しをすることになったある日。四十歳になる直前だ。何とか四十までにはマイホームを持ちたいと夫婦で話をしていたので、ギリギリセーフというタイミングだった。そんな嬉しさを抱えながら、新居への引越しの荷物を整理している時、しまっていたアルバムが物置から出てきて、懐かしくなってしまった。
「そういえば、このアルバムはおじいちゃんが亡くなる時に僕にくれたものだったな。すっかり忘れていたよ。写真を印刷して貼ることがなくなったから、物置に入れっぱなしだったんだな。ちょっと見てみようかな」
おじいちゃんが貼ってくれた僕の小さい頃の写真のページをめくってみた。僕が幼稚園に通っていた頃の運動会の写真が貼ってある。しばらく眺めていると、その時の映像が浮かび上がってきた。ちょうどかけっこの映像だった。
「よーい、ドン」
合図とともに走り出す幼稚園児。その中に僕もいる。十メートルほど走ると僕はベチャっと前のめりに転んだ。何と僕は起き上がらない。怪我でもしたんだろうかと思いながら、映像を見続けていると、先生が駆け寄って助けてくれたようだ。ゴールした後、先生と僕が話をしている。
「幸助くん、どうして起き上がって走らなかったの」
「だって、起き上がってもビリだもん。僕、ビリはいやだ」
「そうか〜。ビリになるのが嫌だから起きなかったのか〜、幸助くんは」
「うん、だって負けるの、悔しいから」
なんてわがままな自己中の子供だったんだろうと僕は笑いながら映像を楽しんだ。不思議なアルバムは、違う写真に僕が目を移すとその写真の動画が浮かび上がるのだ。どうなっているんだろうとは思ってみるものの、懐かしい動画に見入ってしまい、そのカラクリはどうでも良くなっていた。ちょっとコーヒーが飲みたくなったなと思い、アルバムを開いたまま、コーヒーを取りに行った。ちょうどアルバムの反対側に回った感じだ。アルバムを逆さまに見るような位置に僕は立っていた。すると不思議な現象が起こったのだ。何と、ホログラムのようになって映像が浮かび上がるのは同じなのだが、喋っている内容が、どうやら「心の声」が追加されているようだった。ちょっと前に見たかけっこの映像が映し出されてはいるが、心の声まで聞こえる。
「幸助くん、どうして起き上がって走らなかったの」
『この子は本当に面倒な子ね。きっと、もうビリになるのが確定しているから起きないんだろうな、全く。手間がかかる子』
「だって、起き上がってもビリだもん。僕、ビリはいやだ」
「そうか〜。ビリになるのが嫌だから起きなかったのか〜、幸助くんは」
『やっぱりそうなんだ。本当に面倒臭い子。もう、放り出したいくらいね』
「うん、だって負けるの、悔しいから」
僕の言葉に対しては心の声は無かったけれど、先生の言葉には、心の声があった。僕は嫌われていたんだということを理解した。僕は思わずアルバムを閉じた。おじいちゃんがお父さんじゃなくて僕に譲ってくれた理由がわかった気がした。僕は独り言を呟いた。
「子供ではなく孫に対しては、口にする言葉は大抵が心の声と同じだから、逆さにして聞かれても問題なしとおじいちゃんは判断したんだろうな。もしお父さんに渡して、おじいちゃんと一緒に写っている写真をアルバムに貼ってしまったら、おじいちゃんの心の声が聞かれてしまうことになったかもしれない。それが怖かったのだろうな。まだ、高校生だった孫の僕なら、そんなことはないと考えて、アルバムを僕にくれたんだ、きっと」
懐かしい思いに浸りながら、おじいちゃんのことを思い出していたけれど、引越しの荷物整理の途中だったことに気付き、アルバムを段ボール箱に入れようとした。ふと、昔のおじいちゃんと一緒に写っている写真をスキャンしてパソコンに取り込んでおきたいと思いたち、アルバムをもう一度開いて、写真の上を覆っているビニールシートを剥がして、貼ってある写真をペリペリっと剥がしとった。プリンターでスキャンするために。剥がし終わった後の写真の裏を見て驚いた。何とおじいちゃんが写っている真裏には「七十八歳没」と書いてある。そして隣に写っている僕が写っている真裏には何と「四十歳没」と書いてある。背筋が凍りつく思いがした。この写真は、おじいちゃんが亡くなるより、はるかに前にアルバムに貼られていたはずだった。その瞬間、僕は運命を悟った。
僕は、急いで僕の子供が二歳くらいの頃、妻と一緒に三人で写って笑っている写真をアルバムの新しいページに貼り付けた。今、子供は小学三年生になっている。僕は迷ったが、息子を呼び寄せた。
「幸一。これはお父さんのおじいちゃんから譲ってもらったアルバムなんだ。お前に譲るから、大切に持っておいてくれるか」
「何だが、汚いアルバムだね。それに今時印刷した写真って持ってないから、貼る写真がないよ。だからいらない」
「光一。これはな、不思議なアルバムなんだよ。いいか見てろよ」
そう言って、幸助はアルバムをめくった。現れた映像に幸一は驚き、興奮した。
「すごいね、これ。わかった、僕大切にする」
僕には、新しく貼った三人で写っている写真の裏に書かれた数字を確認する勇気はなかった。僕に残された時間をできるだけ楽しく過ごしたいと思ったからだ。そして引越し当日、トラックに荷物を全て積み込んで、やっと実現したマイホームへと引越しする日がやってきた。家族三人は、自家用車で新居に向かう。高速を使えば、たかだか三十分程度の距離だ。
高速に乗った瞬間、僕が運転する車は、後ろから来た居眠り運転の大型トラックに追突され、家族と一緒に乗っていた車は見るも無惨な状態になった。当然のように全員即死だったようだ。僕たち家族は手を繋いで天に昇っていった。
不思議なアルバムは引越しの荷物を乗せたトラックの中で、新しい持ち主の手に渡るのを待っているだろう。もしかしたら、そのうちに、あなたの手元に届くのかもしれない。
了
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