11月11日 恋人たちの日 【SS】いつまでも
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 恋人たちの日
静岡県土肥町(といちょう、現:伊豆市)の土肥観光協会が、同町にある「恋人岬」にちなんで制定。
恋人岬は、土肥町下田の700m程ある富士見遊歩道の先端にある海に突き出た岬で、風景がよい場所である。ここで恋人の名前を口にしながら「愛の鐘」(ラブコールベル)を3回鳴らすと恋が実ると言われている。愛の鐘が響く恋人岬事務局では「恋人宣言証明書」の発行もしてくれる。恋人岬は、伊豆の恋愛スポットとして、恋人たちや観光客に人気がある。
書籍にも記されている記念日であるが、日付の由来については定かではない。11を「こい(1)び(1)と」(恋人)と読む語呂合わせや、土肥町の「とい」と読む語呂合わせ、恋人と一緒に2人が立っている姿に見えることに由来するなどが考えられる。
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【SS】いつまでも
幼なじみだった二人が、やっと恋人として共に時間を過ごせるようになっていた。そうなるまでに、二人はすれ違いの時間を過ごしてきたのである。そして掴んだ幸せ、決して離すことの無い幸せな時間をやっと二人はつかんだのだった。
・二十五年前
「おお、よく太った男の子だ。健康な子で良かった。おやっ、隣の子は同じ誕生日の女の子だなぁ。近所ならいいな」
「お隣の女の子は三軒隣の石田さん家の赤ちゃんよ。あなたも知ってるでしょう。結構、出産は大変だったけど、こうしてみるとやっぱり可愛いわ。早く退院してお家に連れて帰りたい」
「ああ、石田さん家の赤ちゃんか。偶然にも同じ誕生日なんだな。来週には退院できるみたいだよ」
生まれたばかりの子が並んで眠っている。足にタグをつけられているのをみるとまるで陳列されている人形みたいだと父親は思っていたが、母親にいうことはなかった。言ってしまうと怒られそうだったからである。翌週になり、母子ともに問題はなく退院できた。石田さんも同日に退院らしく手続きの場所で出会った。
「石田さん、おめでとうございます。もう、赤ちゃんの名前は決まってるんですか」
「あら、高崎さん。同じ誕生日の赤ちゃんになりましたね。これからもよろしくお願いします。うちの子は、友梨奈という名前にしました。あなたは?」
「友梨奈ちゃんかぁ、可愛いですねぇ。私たちの子は元気に育って欲しいので、健太郎にしました。ちょっと古風な名前ですけどね」
・十八年前
二人の幼なじみは、当たり前のように同じ小学校に通った。残念ながらクラスは一緒にならなかったが、家が近いので登下校はいつも一緒だった。安全のために集団で登下校していたのだ。そして最後には、学校から遠い二人だけになり、手を繋いで帰っていた。なぜか健太郎は友梨奈の家に寄り道して、おやつを食べてから自分の家に帰るというのが日課になっていた。二人で遊ぶ時間を当たり前のように過ごしていたのである。その時、石田家に起きている不幸な出来事に幼い二人が気づくはずはなかった。友梨奈の両親は夫の会社経営が上手くいかなくなり、夫婦の関係はかなりギクシャクし始めていた。そして、友梨奈が中学生になった頃、遂に離婚してしまったのである。友梨奈にとっての父親はいなくなった。その頃になると、友梨奈は口数が少なくなり、塞ぎ込むことが多くなってしまった。当然のように、健太郎が友梨奈の家に寄って帰ることも無くなってしまった。
・十年前
それまでの生活を維持することが難しくなった友梨奈の母親は、遂に友梨奈を連れてもっと家賃の安いところを探して引っ越してしまったのである。この時、友梨奈は中学三年生だったが、引っ越しが決まっていたので新しい学区での高校受験をして、いよいよ健太郎とは違う学校へ進むことになっていた。健太郎はメールを送ったりしていたのだが、いつの間にか友梨奈はアカウントを閉じ、携帯も変更して電話番号も変えてしまった。
『私はママと一緒に逃げるようにして街を出ちゃったから、これから新しい人生にしなくちゃね。健太郎にはもっといい子が絶対見つかると思うから、私とは連絡が取れない方がいいんだ』
そんなことを勝手に思い、連絡がつかないように自分から携帯を変更してしまったのだった。心のどこかでは健太郎に会って悩みをぶつけたいと思っていたのだが、懸命に我慢した。その後、母親にばかり頼ってはいけないと考え、アルバイトと奨学金でなんとか大学を卒業し、就職先も見つけたのだった。
健太郎は高校の成績も上位の方だったので、推薦枠をもらって大学に進学することができた。両親も無事大学まで進み安心していた。特に問題もなく無事四年間で大学を卒業し就職先も決まった。健太郎にとっては友梨奈のいない大学生活は退屈だった。結局彼女ができることもなく大学生活を過ごしてしまった。
・三年前
友梨奈は東京の独立系のIT企業に入社が決まり、セキュリティ担当SEとして働き始めていた。新入社員が集まる入社式は中止され、社長や役員の挨拶だけをリモートから接続して見ていた。同様に、健太郎も東京のIT企業に就職していた。コンサルティング部門の新人として活動を開始していた。
ヨーロッパでウィルスが発見され、友梨奈は呼び出しを受け監視ルームに向かい会社の廊下を駆け足で急いでいた。オフィスに入る場所は少し奥まっている。その時、セキュリティに関して初めて社内で相談しに来ていた健太郎がセキュリティルームから飛び出してきた。見事に二人は出会い頭の衝突となった。二人とも勢い余ってぶつかったので、あまりの痛さにその場にうずくまってしまった。
「いってー、何走ってんだよ、社内なのに」
「そっちこそどこ見てんのよ。セキュリティ部門は忙しいのよ。って、えっ、何、えっ、あれ、健太郎」
「うー、気安く下の名前で呼ぶなよ。誰だよ。川田って知らない、、えっ、川田友梨奈。まさか、友梨奈」
「そうだよ、友梨奈だよ。すっごい久しぶりー。で、なんで、健太郎がここにいるの」
「なんでって、ここに入社してコンサルタントやってるからだよ。友梨奈とは突然連絡取れなくなったから死んだかと思ってたんだぞ。なんだよ、結婚してたのかよ。心配し続けて損した」
「結婚なんてしてないよ。あっ、苗字か。これママの旧姓。離婚しちゃったから」
こんな再会を果たした二人だった。その後、急接近しないはずがない。しかも同じ会社という偶然まで重なったのだから。この後は、毎日デートを重ねるようになり、晴れてわだかまりもなくなり、二人は恋人同士となった。健太郎の一人暮らしのマンションに友梨奈が来た時、健太郎は正式に申し込んだ。
「友梨奈、もう離れたくない。一緒に住もう。そして少し貯金が増えたら、結婚しよう」
了
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