12月30日 サワーの日 【SS】忘年会
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。余すところ今年もあと一日となってしまいました。このSSシリーズもいよいよ明日が最終話となります。
今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- サワーの日
京都府京都市伏見区に本社を置き、焼酎・清酒・ソフトアルコール飲料・調味料など様々な商品の製造・販売を手がける宝酒造株式会社が制定。
日付は一年を通じて月末に同僚や友人、家族と一緒に「サワー」を飲んで絆を深めてほしいとの想いと、「サ(3)ワ(輪=0)ー」と読む語呂合わせから毎月30日に。
甲類焼酎を炭酸で割って飲む「サワー」をもっと多くの人に楽しんでもらい、サワー市場全体を盛り上げることが目的。記念日は2019年(令和元年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次
【SS】忘年会
忘年会の季節である。今年はマスクも取れ、仲間と集まっての忘年会も大盛況だろう。いつの頃からか、ビールに取って代わる勢いでサワーが登場してきた。発祥の地は東京の中目黒にある「もつ焼きばん」という居酒屋だとされているらしい。当時の居酒屋といえば日本酒が主流だったようだが、サワーの登場で、女性客が増加していった。今でも、居酒屋、焼肉屋などサワーを扱っていない店の方が少ないのではないだろうか。
最近の忘年会のみならず宴会では「とりあえずビール」が姿を消しつつあるようだ。幹事は大変なのだが、最初に「ビールの人」と聞いてくる。いまだに最初はビールというのが多いという前提に立っているのではないだろうか。たいてい女性などが多い場合は、カシスオレンジとかワインとかサワーなどビール以外が多いことも珍しくはない。なかなか乾杯までの時間が長くなりそうである。大抵は飲み物が揃うまで偉い人の最初の挨拶となるのが通例だが、あまりにも飲み物が揃わないと話す内容も無くなり困ってしまう上司もいるとかいないとか。
さて、都内のハズレの居酒屋に忘年会の二次会組と思しきグループが入ってきたようである。当然、上司はいないし、一次会で飲み食いしたあとのようで、つまみは少なめの注文である。それでも一人一品は注文しなければならないようで、無難にチーズの盛り合わせなどを頼んでいるようである。それにしても、腹はいっぱいでもアルコールは入るようで、焼酎、サワー、生ビールなどの注文が飛び交った。
「いやぁ、今年もいよいよ終わりだなぁ。ほんと早かったよな、一年が。仕事もきつかったしさ、梅木もそう思うだろ」
「ええ、思います。本当ですよね。来年になったらまた新人が入ってくるんですよね。全く出世はしないけど後輩はどんどん増えますよ。そのうち、後輩が上司になってしまうのかなぁ。高村さんはもう課長が目の前なんでしょう。いいなぁ」
「はっはっは、そんなことはないさ。梅木も頑張れば昇進できると思うぞ。なぁ、山田、そうだろ」
「いやぁ、どうかな。梅木の場合は僕と同じで要領悪いから、後輩から抜かされる可能性はあるかも。そういってる僕もですけど」
仲間内で集まって飲む時は、大抵が上司の悪口だったり、昇進の話だったりするものである。今回集まっているのは、三十代の中堅のサラリーマン。話は盛り上がりながら、一次会の話になっていった。
「高村さん、今日の一次会、どう思いましたか。なんか、上田部長へのゴマスリ忘年会みたいに感じてしまいましたよ、僕は」
「なんだ梅木、そんなこと思ってたのか。あれでも部長は気を使っていたんだと思うぞ。上田部長は俺と一つしか違わないからな、年齢は。あっ、俺より一つ下っていう意味だぞ。悔しいけど」
「えっ、そうだったんですか。高村さん、出世早いのかと思ってましたけど違うんですね」
「そうじゃないよ。上田が早すぎるんだよ。あいつの同期で管理職になってる社員はまだいないし」
「そういえば、僕も思い出しましたよ。一次会のこと。真田さんも来てたじゃないですか、女性でまだ結婚されてない方。あの人怖いですよね」
「なんだ、山田。急に話を変えるなよ。あー、真田さんね。あの人は不幸な人生を歩いてるんだよ。婚約者はいたんだけど結婚間近な時に婚約者は交通事故で亡くなったんだよ。それから結婚は怖くなったみたいだよ」
「ああ、そうだったんですね。さすが次期課長候補にもなると、いろんなことを知ってるんですね」
「ははは、そうじゃなくて、俺は真田さんに声をかけたことがあったんだよ。ちょっと素敵な女性だろ、彼女。そしたら、さっきの話をされて頭を下げられたんだよ、ごめんなさいって」
「うわっ、それは辛いですね。それって高村さんが年いくつの時の話ですか」
「ん、年? 俺の年、あれ、年が思い出せないな。おい、梅本、お前今何歳だ」
「え、僕ですか。僕はまだ高村さんより若いですよ。えっと、あれ、思い出せない。えっ、えっ」
「そんな二人とも冗談はやめてくださいよ。自分の年、忘れる人なんていないでしょ、全く」
「じゃあ、山田、お前何歳だ、今」
「俺は、えっ、あれっ、俺何歳ですか」
「馬鹿野郎、こっちが聞いてるんだよ。なんか変だな、三人とも自分の年が思い出せないのか、どういうことだ」
「そういえば、一次会で部長がボソッといってましたよね」
三人は、一次会での部長の話を思い出していた。
『みなさん、一年もそろそろ終わりです。今日の忘年会でみなさんに私からプレゼントをします。この居酒屋から出たら一日だけ自分の年齢を完全に忘れてしまう魔法をかけておいてあげます。なので、今日は年を忘れて無礼講で飲みましょう』
「え、あれってジョークじゃなかったのかな。つまんないこと言ってると思って聞いてたんだけど」
「でも確かに、自分の年齢を思い出せない。うわー、部長の魔法って本物だったんだー」
忘年会だけに、自分の年までも忘れさせてくれたのかとみんな思った。実際には部長は催眠術を趣味としていたようで、忘年会の席で集団催眠をかけてしまったのだった。参加者は全員が自分の年齢を忘れ、次の日の朝方になってやっと思い出したということだった。催眠術が解けるきっかけが業務開始のチャイムだったので翌日会社で仕事を始める時に全員の催眠術が溶けたようだった。どうやら、年の話題に触れられたくなかった部長がとった苦肉の策だったようだ。
了
🙇🏻♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。
🌿 記念日SSの電子書籍&ペーパーバック (Amazon kindleへのリンク集)
🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集 ← 記念日からの創作SSマガジン
↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓
一日前の記念日SS
いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉
#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート