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【SS】31.創作の器  ※クリエイターフェス

毎日ショートショートを書き続けて31日目がやってきた。そう、フェス最終日である。思えばアイデアを捻り出して、指先に伝えキーボードを叩く。それが画面には文章となって表示されていく。書いては消し、消しては書き直しの繰り返し。しかしそのことが、次に綴る文章の原動力になっているなぁと感じながら、「ありがとう」と自分に言っている私がいた。そんなことを思い描きながらクリエイターフェス最後のショートショートを綴りました。お楽しみください。


創作の器

 小説を考える作業というのはとても面白い。文章を媒体として文字が整列しそこに感情が注入される。怒りだったり、笑いだったり。そしてそれらを次の未来の時間につなげるための文字が続けられ文章が紡ぎ出される。そして一つのストーリーが完結していく。ミステリーの場合、完結したかと思った後に逆転のストーリーが展開されたりもする。それも、次々にキーボードから入力される変換された文字達によって織り成されていく。

 考えながら、画面を見ながら、キーボードを叩きながら、脳からの指令が指先に伝わった後、無機質のキーボードを経由して画面に文字が現れ、そこに感情を含んだ文章が見えてくる。なんとも不思議な作業である。もちろん、現れた文章は目から入った情報で脳が拒否すれば、バックスペースでせっかく感情をもらった文章もあっけなく跡形もなく消されていく。そして、また新しい感情を持った文章が画面に現れてくる。その時点で、ひとつ前の文章は世の中から抹殺されている。二度と目にすることはないのである。

 こんな作業をしながらも私の脳は遊んでいる。口は乾き始め、そろそろ潤いが欲しくなる。その指令が脳から足に伝わり、座っていた椅子から立ち上がり、グラスをとり、冷蔵庫を開け丸い氷を取り出してグラスに入れる。「カラン」という音と共に丸い氷はグラスにきちんと収まる。そのまま琥珀色の液体を注ぐ。丸い氷が急に温められパチンと音を立て、一部溶けてバランスが崩れた丸い氷がくるりと半回転する。同時に琥珀色の液体は煙のような動きを見せてグラスを満たしてくれる。この瞬間が一番刺激的である。脳はその液体を口に運ぶように指令を出す。右手はゆっくりとグラスをつかみ、静かにグラスを燻らせながらそっと琥珀色の液体を口の中に流し込む。ゴクリという音と共に体の中に入った液体は、体温を上げるかのようにカッとなる感じを与えてくれる。

 そして、画面に表示されている続きの文字を入力して感情のある文章を紡ぐために、私の脳と体は創作活動の作業に戻る。こうして、いつもの創作活動は続いていく。画面の横にあるアレクサからは秋らしい曲が流れ始め、窓の外は反射した夕日が眩しくなってきた。夕日の光はグラスにあたり、一層美しい琥珀色になり私の右手を誘っている。

「ありがとう私の体、私の考えに忠実に動いてくれて。また明日からもよろしく」



期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)

#クリエイターフェス #ショートショート #創作 #小説 #ショートショート書いてみた


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松浦 照葉 (てりは)
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