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【SS】 新天地を求めて #シロクマ文芸部

流れ星に乗って少年がやって来た。長い間小さな星で生活をしていて、綺麗な地球に憧れていた。そんな時、少年が住んでいた星が分裂して一部流れ星になると知り、少年は流れ星に乗って地球に行くことを決心した。そしてその計画は見事に成功した。流れ星が地表に衝突する前に、少年は鳥のように羽を広げ大空に飛び出した。もちろん羽は少年の手作り。うまく上昇気流を捉え、流れ星が落ちる反対の方向へフワリと飛び出していた。

地上では久しぶりの流れ星に手を合わせ願い事に思いを乗せる人々が続出。みんな目を瞑って願い事をしていた。ちょうどその時少年は流れ星から飛び立っていたため、誰も少年を見てはいなかった。ただ一人を除いて。

 少年は、九州北部の小さな街に来ていた。とある中学校の夏休み明け。朝のホームルーム時間、先生が生徒に話していた。

「今日からこの学校に通うことになった転校生を紹介する。みんな仲良くしてやってくれよ。東京から来た転校生だぞ。じゃあ、自己紹介して」

「皆さん、おはようございます。東京の学校から転校して来ました白鳥流星です。これからよろしくお願いします」

「はい。じゃあ、席は山田の隣だな」

 こうして何事もなく転校第一日目が始まると少年は喜んでいた。席に座り隣から教科書を見せてもらうため机をつけた瞬間。小さな声で話しかけられた。

「私は山田遙。あなた宇宙人じゃないの。私見たのよ。あなたが流れ星から飛び降りるのを。羽みたいなものを広げて流れ星から飛んだでしょう。そしたら今日ここに現れた。びっくりしたわよ。何しに来たの」

 少年は驚きを隠せず黙っていた。

「いいわ。放課後、私に付き合いなさいよ。逃げたらみんなに言っちゃうからね」

「わかったよ」

 少年は地球での生活を楽しみにしていたのに、初日からとんでもないことになったとちょっぴり後悔し始めていたが、帰る手段を考えていなかったので、何とかしてやり過ごさなければならないと考え始めていた。放課後になり、遥の追求が始まった。

「流星。あなたもしかして人間に変身してるの?」

「そんなことはないよ。これが僕の本当の姿だよ。君たちと同じだろう」

「うん、同じだね。ちょっと安心した。じゃあ、なぜここに来たの」

「うん、学校でね、習ったんだ。地球という星のこと。青くて綺麗な大きな星だって。僕の住んでいた星は小さくて引力も強くないから、時々表面が剥がれて隕石になるんだ。大抵の隕石は流れ星となってこの地球に吸い寄せられるんだって。だから、流れ星に乗ればいけるって思ったんだよ」

「ねぇ。基本的なこと聞いていい?」

「何?」

「流れ星の上って空気ないよね。何で平気だったの」

「ああ、僕たちは呼吸しないから。だから体も酸化しないんだ。君たちと違って病気もしないよ」

「えっ、マジすご。羨ましい。でもこれからどうするつもりなの」

「取り敢えず希望通り地球に来たんだけど、後の計画はない。どうしようかな」

「えっ、そんなノリで宇宙空間を移動してきたの。信じられない。流星ってただのバカかよほどノーテンキだね」

「ノーテンキ?」

「あー、分かんなくていいよ。じゃあさ、うちのアパートで生活しなよ。確か一部屋空いてたはずだから」

「えっ、いいの。助かるなぁ」

 こうして流星の奇妙な地球生活が始まろうとしていた。その頃、流星の故郷の星では騒ぎになっていた。

「あなた、これ見て。あの子ったら勝手に地球を目指したみたいよ」

「何、あれほど無茶だけはするなよって言ったのに。やっぱり飛び出していったか。仕方ないな。じゃあ我々も予定を早めて地球に行くか」

「そうね。あの子だけだと心配だわ」

 少年の置き手紙を読んだ両親が焦り始めていた。少年の体からは微弱ながらも信号が出ているので見つけることは何とかなる。両親はそう思い、小さな宇宙船を準備して出発した。元々、少年が住んでいた星は壊滅する運命を辿っていた。それで住んでいた人々は家族単位で移住する星を選定し計画的に脱出している最中だったのだ。

 地球に到着した流星の両親は迷わずに流星の元にやって来た。アパートのドアをノックする。

「あっ、お父さん、お母さん。よくわかったね、ここが」

「全くお前は。勝手なことをするなって言ったのに。本当に仕方のないやつだ」

「取り敢えず入ってよ。地球では白鳥流星って名乗ってるんだ。だから父さんたちも名前を合わせて」

 その時アパートのドアがノックされた。遥がやって来たのだ。流星は唯一事情を知っている同級生だと言ってドアを開けた。

「遥。僕の両親も来ちゃった」

「えっ、うわー。凄っ。どうやって来たんですか。まさか流れ星ですか」

「いやいやまさか。宇宙船です」

「ですよね。侵略とかじゃないですよね」

「私たちはひっそりと暮らせればそれで十分です」

「でもどうして地球に」

「私たち一家が住んでいた星は間も無く消える運命なのです。それで行き先を検討して地球にしようって決めていたんですが、この子が先走って一人で来ちゃったみたいなんですよ。本当にご迷惑をかけましたね」

「いえいえ、私は興味津々だっただけです」

 こうして白鳥一家は山田家が保有するアパートで生活を始めることになった。不思議なことに白鳥家は定期的に収入を得られるようになり、家賃も滞りなく入れるようになっている。老朽化したアパートを建て直しましょうとその資金まで山田家に提供したほどだ。住まいも立派になり、白鳥家の秘密も遥が知るだけで漏れることなく一年が過ぎようとしている。流星の父親が遥に話しかけた。

「遥さん、今夜あたりものすごい流れ星が見えると思いますよ。私たちと一緒に眺めませんか」

「ええ、是非。では暗くなったら伺います」

 その日の夜。空を覆い尽くすかと思われるほどの流れ星が頭上に広がった。

「遥。これが僕たちの故郷の最後なんだ」

 ぼそっと呟いた流星の目から涙が溢れそうになるのを遙は感じていた。


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