見出し画像

12月16日 いい色髪の日 【SS】七変化

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- いい色髪の日

生活用品や健康用品、化粧品など幅広く手がける花王グループ。その販売部門の花王グループカスタマーマーケティング株式会社が制定。

日付は「いいい(1)ろ(6)」(いい色)と読む語呂合わせから。また、一年を通じてセルフヘアカラーを楽しんでもらいたいとの思いから毎月16日に。

自分で髪を自由に染められるセルフへアカラー。記念日を通して正しい使用方法などの情報発信を行い、その楽しさを伝えることで、市場のより一層の活性化を図ることが目的。記念日は2022年(令和4年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。

同社は東京都中央区日本橋小網町に本社を置き、生活者に「花王商品とその価値を届ける」役割を担う。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】七変化

「蛙田開発室長、髪染めの売り上げがいまいち伸びてないっていう報告が入りました。このままだと、開発費用の削減をしなければならなくなるという通達も一緒に来ています。どうしましょう」

「なんだとー。これまでの成功を棚に上げてなんということだ。今は、耐えなければならない時なのだということが経営陣にはわからないのか。腹が立つなぁ」

「蛙田開発室長、腹を立ててはいけませんよ。開発費を削られてはどうにも身動きが取れなくなるんですから」

「くそー、蛇縞常務の嫌がらせじゃないんだろうな。あいつは最初から反対していたからな。この髪染め開発室を作ることに」

「室長、それって十年くらい前の話なんでしょう。前にも室長から聞きましたけど。いくら何でもそれはないでしょう。蛇縞常務もそんなにしつこくないと思いますよ」

「いや、あいつはしつこい。なにしろ巳年生まれだからな。田西くん、君は助手になってまだ五年くらいだから、知らないだけだよ」

「いや、その話は耳にタコができるくらい飲み会の席で聞かされてますけど」

 髪染め開発室の予算は蛇縞常務の一言で決まる。蛇縞常務は効率重視の人で利益が出ない部門には間髪入れずメスを入れる人だった。今回も起死回生の施策が出てこなければ、髪染め開発室自体を解散させようと考えていた。現在開発室には十五人の社員がいる。その社員の処遇については、蛙田開発室長の責任において担当させようとも考えていたようだ。蛇縞常務は一切自分の手を汚さないことでも社内では有名な人だった。

 髪染め開発室の田西研究員は、実は密かに練っていたアイデアがあり、室長の蛙田には内緒で研究開発を進めていた。それは発想を大きく変えたものだった。田西の専門は電子工学だったのだが、なぜかケミカル部門の研究室に入社してしまっていたのだった。髪染めの研究を実施していても何とか専門技術が利用できないものかと日々模索していたようだ。そんなある日、田西研究員はテレビで放映されていたマジックショーを食い入るように見ていて閃いたのである。

「人はなぜ髪を染めたいと思うのか。それは自分ではない人から見て素敵な髪の色に見えればいいだけのことではないのだろうか。当然鏡を通して自分でも陶酔できれば問題ないだろう。であれば、物理的に髪の毛を染めなくても、見ている人が、髪の毛が黒かったり茶色だっりという自分が染めたい色であることを認識してくれさえすればいいじゃないか。このマジックのように」

 田西はまず白髪が周りの黒い髪と同じように黒く見えるような方法はないかと研究し始めた。つまり、白髪を黒く染めるのではなく、そのままで周りの人から見て黒く見えるだけにする技術の研究を始めたのである。目をつけたのはLEDの技術だった。髪の毛よりも小さなLEDを開発し、白髪に当たると反射で黒く見えるような組み合わせを探しまくったのである。髪の毛のような糸に微細なLEDを仕込んで、髪の毛の中で反射するような仕組みを試作した。電気を流して確認すると見事に白髪が黒い髪に見えるようになったのである。LEDが仕込まれた数本の糸を髪の毛の中に混ぜることで髪の毛全体の白髪が黒く見えるようになったのである。田西研究員は「これを商品化すればヒット間違いなしだ。そのあとはカラーリングまで開発できるかもしれない。そうすれば染めなくても七変化が楽しめるようになるかもしれない」と考え、企画書を作り、蛙田開発室長に内緒で、蛇縞常務に提案したのである。蛇縞常務は斬新なアイデアにすぐに飛びついてくれた。そして、髪色変化開発室を新規に創設し、田西を初代所長に任命した。その時、従来の髪染め開発室は解散が確定することとなった。

 部下に裏切られた形となった蛙田は面白くなかった。しかもその裏には蛇縞が絡んでいたと知り余計に悔しがった。実は、蛇縞と蛙田は同期入社だったのだ。要領のいい蛇縞は、あっという間に役員にまで上り詰めたが、研究好きな蛙田は髪染めの研究にしがみついてしまったが故に開発室長止まりだったのだ。蛙田は何とか一矢報いたいと思い、田西以外の開発室メンバーに声を掛けてみた。

「なぁ、みんな、この開発室は解散になることが決定してしまった。私は会社のやり方に賛成しかねるが、いくら抗議しても決定が覆ることはないだろう。田西にも裏切られて腹を立てている。だから私は考えたんだ。みんなと一緒に髪染め薬品の専門会社を立ち上げようと思うんだ。どうだ、私と一緒に新しい会社で働いてくれないか」

 蛙田は全員の賛同が得られると思っていた。しかし誰一人としてついて行きますと言ってくれるメンバーはいなかったのである。蛙田は信頼していたメンバーにまで裏切られるのかと肩を落とした。そんなことがあった夜、蛙田以外の開発室メンバーは近くの居酒屋に集まり新しい組織の立ち上げを祝う飲み会を開いていた。

「いやー、これでやっと蛙田さんの呪縛から解放されますね。まぁ、一番最初の頃は純粋に研究をしたかったんだと思いますけど、ここ数年は蛇縞常務への対抗心が凄かったからなぁ」

「本当にそうだったな。それでもそこで踏みとどまってくれていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのかなぁ。道を踏み外しちゃったよなぁ」

「でも、田西さんが面白い発見をしてくれたおかげで、新しい部門として仕事ができるので我々としてはラッキーでした。田西新室長、今後ともよろしくお願いします」

「いやー、そう言われると照れるなぁ。でも蛙田さんもあんなことをしなければここまで嫌われることはなかったと思うんだけどなぁ。よっぽど恨んでたんだろうなぁ」

「いやいや、完全に逆恨みですよ。開発室の経費の使い込みだけならまだしも、蛇縞常務の部屋にまで忍び込んで重要書類をシュレッダーにかけたんですから。本人は気づかれていないと思っていたようでしたが、綺麗に監視カメラに映像が残ってましたもんね」

「自業自得ってのは怖いですね。明日、言い渡されるらしいですよ。懲戒解雇が」

 歪んだ恨みは結局自分自身の人生をダメにしてしまったようだ。このあと、蛙田は愛していると思っていた奥様からも離婚を迫られ、今では住む場所もなく日雇いの仕事で日々を繋いでいるという噂だ。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿 記念日SSの電子書籍&ペーパーバック (Amazon kindleへのリンク集)


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは)
よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。