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【SS】 気がつけば #シロクマ文芸部

 逃げる夢を見る時は、現実から逃げ出したいという心理が働いているという。しかし、高校生の舞は毎日のように何かに追われる夢を見ている。ある時は、猛獣に追われて逃げ、またある時は幽霊に追われて逃げる。そんな夢を毎晩のように見るのである。そのせいか、顔色は寝不足で青白くなり、体重も五キロほど落ちてしまった。学校へはなんとか行ってはいるが、登校途中で貧血で倒れることもしばしば。その度に友達の肩を借りる始末。

「私の頭、どうかしちゃったのかな。毎日変な夢ばかり見るのは何故なのかしら。毎日毎日、夢の中で追いかけられて逃げ回ってヘトヘトになってるのよね。ねぇ、咲希。私ってなんかおかしくなっちゃったのかな」

「うーん。私も時々は逃げ回る夢だったり、飛びたいのに飛べない夢とかって見るけど、流石に毎日はないわね。まさか、何かに取り憑かれてるとか」

「やだー、怖い、怖い。夢の中でも幽霊に追いかけられると心臓が止まるかと思うくらい怖いんだから、そんな話しないでよ〜」

「あっちゃー、ごめんごめん。そうだったね。舞はこの手の話、苦手だったね」

「もう、ただでさえ、足元フラフラなのに〜」

 なんとかがんばって学校には行っていたものの、数ヶ月が経過するとベッドから体が起きあがれなくなってしまった。友達の咲希も見舞いに来てくれているが、ベッドから起き上がることすらできない。かろうじて会話はできている。

「舞。大丈夫。ひょっとしてまだ変な夢見続けてるの」

「あぁ、咲希。心配してくれてありがとう。そうなのよ。もう逃げ回る気力も体力もなくなってしまったの。学校へも行けなくなっちゃった」

 そういうと舞は涙を流しながら、咲希の手を握った。その手には全く力がなかった。咲希は痩せ細った舞を見舞って、冗談じゃなくて何かに取り憑かれているのかもしれないと真剣に思い始めてくれていた。

 その日の夜、咲希は幽霊に追いかけられて逃げ惑う夢を見た。あまりの怖さで夜中の二時ごろに目が覚めてしまった。「まさか、舞はこんな夢を毎日見てるってこと」と思い、心配すると同時に「何故こんな夢を見たのかしら」と思っていた。もう一度眠ると夢の続きを見てしまいそうで、余計に怖くなり眠れなくなってしまったが体は動かなかった。気がつけば朝日が昇り始めていた。カーテンの隙間から溢れる朝日が差し込み始めている。

 舞は夢から覚めていた。というより、夢を見なかった。久しぶりに逃げる夢を見なかったのだ。すっきりとして目覚めた舞は何となく違和感を感じていた。顔を洗いに洗面所に行って、ハタと気がついた。

「アレ、私って起き上がれないほど弱ってたはずよね。でも全然平気。なんで」

 顔を洗って、ふと鏡を見て自分の姿に愕然とした。一瞬、自分の身に何が起きているのかが把握できなかった。ちょうどその時、朝食の準備ができたのか、舞を呼ぶ母親の声が聞こえてきた。

「咲希〜。朝ごはん、できたわよ〜。早く食べないと遅刻するわよ。全く毎日ギリギリまで寝てるんだから。お父さんはもう出勤しちゃったわよ〜」

 目の前の鏡に写っていたのは、咲希の姿だった。


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