複雑な和音をハモらせる

たとえば、CM7なんかはC E G Hが鳴るので、CとHがぶつかっている。こういう和音はどうハモらせればいいのか?

だいたいの和音はそんなに難しくない。冒頭のmaj7ならば、ドミソをまずハモらせてから、ミシ間の完全5度をハモらせれば完成である。

長9度はソレ間の完全5度をハモらせればよく、maj9ならばそれにさらにミシ間の完全5度をハモらせればいい。長6度はミラ間が完全4度なのでこれをハモらせる。

…そんなことできるの?

慣れればできます。そのためにはどのパートが自分とハモるのかをあらかじめ見ておく必要がある。ハモりが大事なのは和声で伸ばしている場所なので、そういう部分は自分のパートだけでなく、他のパートの音も見て、何のコードで、どのパートが第何音で、自分のパートはどのパートとハモらせると楽なのかを理解しておく必要がある。これは移動ド読みと、いわゆるIの和音・IIの和音といった知識が役に立つ。

ハモらせるのが楽なのは、ユニゾン(あるいはオクターブ、2オクターブ)、完全5度(あるいはその転回音程の完全4度)、長3度(同短6度)、短3度(同長6度)の順である。短3度は意外と難しい。長9度はノコギリ波なら合わせられると思うが、実際の演奏では無理だろう。増5度は長3度の重ね合わせで何とかなるが、減5度(増4度)・増1度(減2度など)はどうにもならない。

ハモらせる相手が分かったら、次にどちらが合わせるべきか、である。基本は根音の人に正確な音程を出してもらって、そこに向かって5度・3度をハモらせに行く。ドミソシならば、まずソの人がドに合わせ、この間にミが入り、その完全5度上にシをハメる感じである。ベースラインやメロディラインによっては根音ではない方がいい場合もあるので、この辺は臨機応変である。

実際の演奏ではハモらせる直前から、そのパートの音を「探し出して」耳で追いかける。和音に入った瞬間にハモらせに行く感じになる。もちろん音を出す前にイメージはしておくのだが、出した瞬間からハモるのは素人にとっては奇跡でしかない。

意外と難しいのが属七である。純正律長調でソシレファを演奏すると、レファ間が微妙なのである。これは五度圏ではなく、左右に5度、上下に3度を並べた図が分かりやすい(tonnetzというらしいが、英語版Wikipediaの絵は日本では一般的ではない)。https://soundquest.jp/quest/chord/chord-mv8/neo-riemannian-theory-1/2/あたりが分かりやすいかな。白黒のやつじゃなくてカラフルなやつ。

この絵は音名が英語で書いてあるので、とりあえずG B Dを探すと上向きの三角形になっている。Fはというと…あれ。近くにふたつある。ひとつはGの左側にひとつ飛んだところ、もうひとつはDの右下である。

左側はGから大全音下になる。大全音。久しぶりに出てきた。ということは右下のやつは小全音下である。下へ小さく動くので、右下の方がピッチは高い。純正律のファは左側のFに相当する。

属七はソシ間が長3度、ソレ間が完全5度、シレ間が短3度で、これを純正に取るのはいいとして、残るファと他の音の関係は、ソファ間が短7度、シファ間が減5度、レファ間が短3度である。このうちハモらせることができるのは短3度しかないので、どうも短3度をハモらせるのが正解らしい。この音は根音のGから見ると完全5度の+2セント+短3度の+16セントで、平均律の短7度と比べると18セント高い(まぁ小全音だからね)。

今紹介したtonnetz上では短3度は右下になるので、Dから右下のF、つまり、純正律長調には含まれない、小全音下の高いファの方がハモりやすい。このレファ間は短3度なので周波数比で5:6なのに対し、純正律に含まれる左側のFは27:32になってしまう。

このtonnetzでは完全5度の音が横に並んでいるので、横に7個拾うとピタゴラス音律になる。そう思って大全音下のFとDの関係を見ると横に一直線に並んでいる。つまり、これはピタゴラス短3度である。ハモらないはずである。このFは同様に計算すれば5度を2回分下がるので、-2-2で平均律の短7度に比べて4セント低い(大全音だからね)。

差は22セントであり、シントニックコンマに等しい。純正短3度とピタゴラス音律の同音程との差なので、当たり前と言えば当たり前である。

この他に自然短7度(第7倍音)を使う選択肢も考えられる。これならば属七の和音の周波数比は 4:5:6:7となって完璧なハモりになるが、この音は平均律に比べて31セントも低いので、普通は使われない。

結論: 属七は高めに歌え。

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