つみのかじつは夢をみせる【編集版⑪】

 ご報告。

 大学卒業が確定しました、と同時に気になるのが提出した卒論の評価。私が通う大学は下から順に「不可・可・良・優・秀」で評価される。不可は単位取得ならず。

 で、私が書いた4万字超の大作は無事に「秀」の評価。週末一緒にライブに行く仲良しの大学の先生に「卒論秀とれたのでもう満足です!」とチケットを分配するときにそうメッセージを送った。あとは3月31日まで学割を使い倒すだけである。

https://note.com/ongakulover/n/nd5ae86d30d97

 卒業確定しても変わらず続く卒論編集版の公開。今日のテーマは「罪と罰」。順番的にもここが折り返し地点である。長い。

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散らかった部屋のまん中で~「罪と罰」~

 タイトルがまず衝撃的だった。読んだことはないのだけれど、ドストエフスキーによる超有名な小説とタイトルが同じなのだ。あと最近観はじめたアニメ「東京リベンジャーズ」のキャラクター・半間修二が左手と右手に一文字ずつ刺青を入れていた。「罪と罰」。この楽曲は曲順でシンメトリーを成しているアルバム『勝訴ストリップ』のど真ん中に収録されていて、椎名自身もフリーペーパー「電脳RAT」のアルバム全曲解説で「このアルバムのヘソですよね、ブランキ―の浅井さんにギターを頼んだ時点で(笑)」と述べている曲だ。ブランキ―の浅井、とは浅井健一のことで愛称はベンジー。椎名は彼のことを尊敬していて、彼女の名刺とも言え椎名林檎と言えば?と聞くと恐らく彼女の曲をあまり聞いたことのない人でも知っているであろう名曲「丸ノ内サディスティック」には、
〈そしたらベンジーあたしをグレッチで殴って〉
と歌詞の中に登場させており、この「罪と罰」で満を持してギターを彼が演奏したというわけだ。夢みたいな話である、自分が大好きで尊敬の念を抱いているギタリストに自分の曲でプレイしてもらっている。当時の彼女の心の中はどんな御祭騒ぎだっただろうか。想像したらちょっとニヤニヤしてしまった。
 という何だか浮かれてしまうような感じなのだがそんな曲ではない。ボロボロになって、狭い部屋の中で頭から毛布を被って膝を抱えて座りながら……みたいな曲である。
〈頬を刺す朝の山手通り 煙草の空き箱を捨てる 今日もまた足の踏み場は無い 小部屋が孤独を甘やかす〉
 え……?昨夜の私……?昨夜は同じように机に向かっていたのだけれど、バイトで何だか精神的に疲れてしまったのと、バイト以外であまり人に会わない生活の事を考えていたら自分が孤独な気がして、ペンを置き、部屋のありとあらゆるものを引っ張り出したりしたのだ。ちょっとだけ気が紛れたけれど、現状は変わらなかった。部屋は寝る場所どころか本当に足の踏み場もなくなったので、深夜一時過ぎまでかかってようやく片付けた。
〈「不穏な悲鳴を愛さないで 未来等見ないで 確信できる 現在だけ重ねて あたしの名前をちゃんと 呼んで身体を触って 必要なのは 是だけ 認めて」〉
 この1番のサビは歌声こそ力強いもののもう限界である。少なくとも深夜に自分で荒らした部屋を片付けていた昨夜の私とこの曲とを重ねた今の私にはそう聞こえる。強さの中に隠しきれない脆さ。
 『勝訴ストリップ』完成直後のインタビューで椎名は「椎名林檎をアルバム3枚で閉じる」というようなことを言っているのだが、インタビューを読み進めていくと、これはこのままやり続けたら純度が薄まってリアリティが無くなるのが嫌で「椎名林檎っていうコマーシャル、アイコンを脱いでも良いですか?」という意味でなされた発言であることがわかる。それがこの歌詞に繋がっているのではないだろうか。彼女は「幸福論」でデビューしてから「ここでキスして。」や「本能」で大ヒットし、その後は実際ソロ活動から離れて東京事変という名の日本一の音楽集団ともいわれるバンドでボーカルを務めたりそれ以外にも楽曲提供やリオオリンピックでの演出に関わるなど実に多才な面を持っており、今や日本で彼女の顔を知らない人はいないだろう。しかし彼女も仕事をしていない時は椎名林檎ではなくそのアイコンを脱いだ椎名裕美子なのである。歌手として芸能界で生きているだけなのに色眼鏡で見られてプライベートまでも消費されていく毎日。〈あたしの名前をちゃんと 呼んで〉というのはデビュー当時の彼女の精一杯の心の中の叫びだったのではないだろうか。私はこのコロナ禍で自らの手で命を落としてしまわれた方々のことを考えた。昨年は自殺者数が11年ぶりに増加したという。先の見えない毎日で、家の中に閉じこもり誰にも会えない。彼らにもこの歌詞と同じ、あるいは似たような心の中の叫び声があったのではないだろうかと思う。
〈歪んだ無常の遠き日も セヴンスターの香り 味わう如く季節を呼び起こす あたしが望んだこと自体 矛盾を優に超えて 一番愛しいあなたの声迄 掠れさせて居たのだろう〉
 この曲はずっと力強い声で歌われ続けるけれど、この2番のサビの歌詞は力強さとは真逆な感じの孤独さが出ている。この歌詞があるから最初の方に書いた「ボロボロになって狭い部屋の中で頭から毛布を被って膝を抱えて座りながら」というこの曲へのイメージが私の中でより一層強くなる。
 「罪と罰」と名付けられたこの曲は、発売された当時も今この時も、孤独の中で必死にもがいて生きている人たちに寄り添ってくれる楽曲なのではないだろうか。

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  部屋をひっかきまわしたあと片付けをしていたらこの文章の輪郭が描けた。から書いた。

 最近音楽番組に椎名の映像が出ると大体2015年の実演の「罪と罰」が流れる。なぜだろう。



  

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おじゃまたくし
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