つみのかじつは夢をみせる【編集版⑥】
気が付いたら朝6時だった。本をキリの良い所で閉じて、布団に入ってTwitterのスペース機能でお喋りしてたら外が明るくなっていて、YouTubeのショートアニメをBGMにして布団に潜り込んだ。こんなに夜更かしどころか一晩中起きてることなんてないのだが、星野源の「Nothing」という曲を思い出して「ああ、夜を看取るってこんな感じかな」などと思っていたらいつの間にか眠っていた。
昨日の続きである。テーマは「依存症」。読み返していて思ったけれど、生きるの向いてなさすぎる。今までよく生きてきたなと感心してしまった。
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何もかも疲れてしまった日の夜に~「依存症」~
椎名林檎のアルバムにも、彼女がボーカルを務める東京事変のアルバムにも、曲間が全くと言っていいほどない。私が好きな星野源とか大瀧詠一のアルバムにも曲間があるのに。1曲目が終わったと思ったら息を吐く間もなく2曲目に入る。その理由は彼女が以前、テレビ朝日制作の音楽番組「関ジャム 完全燃SHOW!」で語っていた。「女の子たちのツイートを見てると、朝出勤するときはすごくよかったのに上司がいきなりこんなこと言ってきて「生きるの嫌になっちゃった」くらいまで沈んだり、殿方のことは知ったこっちゃない。女の子の人生っていうのはすごく本当に変な心無い殿方たちの一言とか、失言で左右されちゃったりする。生理もあるし、自分の内な勝手なバイオリズム。コントロールできないししょうがない、それと合致しちゃって帰ってこれなくなって長引くとかざらだ。「よかったね、ジャーン」とはならない。それをリアリティーをもって描きたい」と。だから幸せだなって時も、もう嫌だ何もしたくないっていうときもそっと隣に来てくれるのが彼女の曲なのだ。
もうだいぶ前のことなので理由は何だか忘れてしまったが、ものすごく落ち込んでしまうことがあった。多分人に何か言われたのだと思う。ずっとポジティブシンキングで色々乗り切っていたのに、こればかりはどうしようもなかった。こういうときは早く寝てしまうのが精神的にもいいのかもしれないが、眠れなかった。これまで幾度も眠れない日はあったので、その時と同じように小さな音で音楽を流すことにした。彼女の曲なら寄り添ってくれるはずだ。選らんだのは『勝訴ストリップ』収録の「依存症」。
この曲は椎名本人がフリーペーパーRATで『勝訴ストリップ』の全曲解説で「何もかも疲れたって曲」と書いていたものだ。これを読んだ時、その言葉にひどく納得した。これと対称になる一曲目の「虚言症」は椎名曰く「歌詞の中の〈君〉は線路の上に寝っ転がって死んだ女の子のこと」なので、「依存症」は恐らくその女の子の心の中なのではないだろうか、と思ったからだ。このアルバムから彼女のアルバムも二〇〇四年から活動し始める東京事変のアルバムも全部シンメトリーになっているのだが、それはタイトルに限った話ではなく、CDについてくる歌詞カードも、楽曲の内容もそうである。「依存症が虚言症で歌われた〈君〉の歌ではないかと思った」のはそれが理由でもある。
歌詞の中に〈今朝の二時〉〈今朝の五時〉とあるようにこれは真夜中から明け方にかけての曲だ。暗い部屋に独り。孤独なのだ。その孤独をAメロBメロでは弱弱しく、それでもサビでは最後の力を振り絞るように力強く歌う。最後のサビが終わった後、AメロやBメロよりは幾分か声も震えている、そうやって〈翻弄されているということは状態として 美しいでしょうか いいえ 綺麗な花は枯れ醜い過程が嘲笑うのです ・・・何時の日も〉とまるでフェードアウトしていくかのように歌う。そのあとすぐに激しめのアウトロ。ああ、終わったんだな、と思う。聴き終わった後、目頭が熱くなった。涙腺がかなり前からバグってるから泣きはしなかったけれど、この曲が寄り添ってくれた、というか気持ちを代弁してくれた、というか……それらに似た様な気持ちになった。そうしたら胸の奥につかえていたものがだいぶなくなって気持ちもすっきりして、その日はちゃんと眠れたと思う。
落ち込んだ時、無理やり笑顔付けて、心はもうとっくにボロボロなのにそれでも誰にも頼ろうとしないで自力で立とうとする人が世の中には多い気がする。元気の出る曲聴いて、やけ食いして、大笑いして、何とか忘れて明日を生きていこうとする。
それでも別にいいとは思うけれど、私はそれじゃあまた何かの拍子ですぐに壊れてしまうんじゃないかと思う。だから落ち込んでいる時はとことん落ち込むのも一つの手ではないか。彼女の曲はどんな状況にも寄り添ってくれる。たとえ強がっていてもそんなのお見通しなのである。だからボロボロな心を「人生は夢だらけ」とか人生最高!みたいな曲を聴いて突貫工事で無理やり直すより、「依存症」みたいな曲を聴いて一度沈んでみるのもありかも知れないと思うのだ。追い込むことに飽きたらきっとそれが復活の合図だから、美味しいもの食べて、明日を迎えるのだ。
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やあ~~~何に落ち込んでたんだろう。人から何か言われたこと、までは覚えているけれど、嫌すぎて忘れたか、落ち込みまくってどん底に居たけれど救ってもらったか。多分後者だ。救ってもらって、気が付いたらもう覚えていなかったのだろう。それでいい。それがいい。自分を毒す言葉や行為は要らないのだから。