つみのかじつは夢をみせる【編集版⑭】

 ライブ最高だった...何よりも声を出してよかったので思う存分叫べたのが良かった。かっこいいギターソロやベースソロを弾かれて声を出すなというほうが無理なのだ。ご時世的に仕方がないのだが。

 14回目。果てしない。今日は「NIPPON」。私の愛好家人生はこの曲から始まっているので絶対書かねばと取り組んだ。好きすぎて書かない選択肢もあったのだが椎名林檎をテーマに選んだならやはり取り組むべきと自分に言い聞かせた。

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ニッポンの応援歌~「NIPPON」~

 直接「頑張れ」とか「負けるな」とか、そういう人を鼓舞するような言葉をあまり使いたくないし聞きたくない。状況によっては使うけれど、何だかプレッシャーをかけてしまいそうな気がして、「楽しんでね」とかそういう言葉に置き換えて相手に伝えることの方が圧倒的に多い。だって物凄く頑張っている時に「頑張れー!」なんて言われたら「いや頑張ってるし」って思う時ありません?ゴールの前で「もうすぐだよ!」とか言ってくれた方が最期まで踏ん張れそうな気がする。そんなだからいわゆる応援歌、みたいなのが苦手だ。気後れしてしまう。応援歌が悪い、とは全く思わないしこれはあくまで個人的な話なのだが。
 それでも、これから何か自分にとって大きなことをやろうとしている時に応援されるのは嫌いではない。「私はここで決めてくるからちゃんと見ていてね。」くらいの、「そんな自信満々で大丈夫?転ばない?」などと思われてもおかしくないような心持ちでいることが多いからだ。とは言ってもこの年齢になると、何かやるときに直前まで誰かが隣に居てくれて応援してくれるなんてことの方が少ないので、一人音楽でも聴きつつ、バクバクする心臓を何とかなだめながら、ついでに自分の持てる語彙力をかき集めて心の中でひたすら褒めちぎることしかできない。その時に2曲ほどずっとループで聴く楽曲があるのだが、その内の1曲が4枚目のアルバム『日出処』の12番目に収録されている「NIPPON」だ。
 2014年にサッカーワールドカップのブラジル大会が開催された際、NHKでのサッカー関連の番組やニュースが放送される時に毎日繰り返し流れたのがこの楽曲である。サッカー日本代表への応援歌、としてユニフォームの色を想起させる〈青〉や試合中に聞こえてくるサポーターの声を想起させる〈鬨の声〉といった言葉が使われているが、「頑張れ」とか「負けるな」のような言葉が使われていないのが特徴だろう。サッカーだけではなく色々な場面にもピッタリな1曲である。
 しかしタイトルもそうだが、〈混じり気の無い〉とか〈ハレとケの往来に〉、それから〈不意に接近している淡い死の匂いで〉といった歌詞が、インターネット上で「純潔思想だ」とか「右翼的だ」とか「戦争を想起させる」のような声が上がり物議を醸した。リリース当時、私はまだ自分でインターネットを自由に閲覧することのできる環境を持っておらず、後にSNSを利用しはじめたり、『音楽家のカルテ』を読んだりするうちにそのナンセンスな声を知った。実際【日本】という単語そのものが連呼されているわけではなく、歌詞カードには記されていないが、アウトロでは〈Hurray! Hurray! The wind is up and blowing free on our native home. Cheers! Cheers! The sun is up and shining bright on our native home.〉と世界の公用語である英語を使った詞も歌われているのだ。そこにどんな偏った思想や政治的な意味があると言えるのだろうか。彼女は、この楽曲について、YouTubeの椎名林檎公式チャンネルにアップロードされているコメント映像の中で、「勝ちに行きたいという、サッカーだけじゃなくて、人生において時折訪れる厳しい勝負の時ですよね、そういうところで絶対勝ちに行くっていう、そして楽しみにいくっていう、そのすべてを込めるしかないなって、それくらい重要なミッションとして取り組ませていただきました。」と話しているように、この「NIPPON」という楽曲は、サッカー日本代表だけではなく我々日本人、それから世界中のあらゆる人々への応援歌でもあるのだ。
 それなのに先述した通りインターネット上で物議を醸した。そのことについて椎名は『音楽家のカルテ』の第六章「音楽家の逆襲」として掲載されている、雑誌「SWITCH」のインタビューで、「貧しいなあと。諸外国の方が、過去の不幸な出来事を踏まえてなんらか問うておいでなら、耳を傾けるべきお話もあるかもしれません。ただ、強い後ろ楯を持たない私のような者が、これほど大きな仕事を一任いただいてしまった。よく思わない方は少ない。揚げ足を取っていただいたのだと理解する他はちょっと。」と答えている。それ以上でもそれ以下でもないのだ。私がこれらのインターネット上の言葉をナンセンスだと思う理由は引用した彼女の言葉にある。
 この時よりも日本の生活は豊かになっていく一方で、日本人の心は貧しくなっていると感じる場面が多々ある。どちらか一方だけが正しい答えで、もう一方を実行すると恐ろしいくらいに鋭い言葉で批判される。ナンセンスな人が増えているのだ。もしそうではなければ「NIPPON」に対する批判的な言葉たちは少なくとも「物議を醸す」と言われるほど出てこなかったのではないかと、人生の様々な場面に寄り添いその時々を音として鳴らしてくれる彼女の楽曲を聴くと改めてそう思うのだ。

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 ちなみに文中の中のに出てくる2曲の内のもう1曲は星野源の「SUN」である。

知識をつけたり心を豊かにするために使います。家族に美味しいもの買って帰省するためにも使います。