つみのかじつは夢をみせる【編集版⑲】

　引っ越しが近い。4年間色々な感情と共に過ごしたこの6畳1間ユニットバスの部屋とも月曜の午後に鍵を返却してしまったらもう立ち入ることはない。なのでここ数日は掃除したりゴミを捨てたり意外と大忙し。「来た時よりも美しく」の精神を叩き込まれて何かと外泊の機会が多かった義務教育や高校時代を過ごしてから大学生になったので手が届く範囲の汚れを綺麗に落としていく。物が箱やかばんに収まっていくその様は少し寂しい。

　ちょっとしんみりしてても生活は続くし卒論の掲載も続く。今日入れてあと3回。今日は「ジユーダム」。

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1日が楽しくなるおまじない～「ジユーダム」～

　このコロナ禍が明けたら、去年の春からずっとできていない、本来ならばできているはずのことをたくさんやりたい。せっかくお酒を美味しく吞めるようになったから、すすきのに行ってお気に入りのお店を見つけたり、ネットで見つけた気になるお店を訪問したい。開催中止になって行けていなかったお祭りにも行きたい。花火もしたい。ライブに行って大きな声で叫びたい。図書館でゆっくり本を読みたい。ちょっと遠出をして行きたかった場所に行くのも良い。ワクチン接種が進んできた今、近いうちに個人での感染対策は変わらず続けていかなければならないだろうが、今より規制も緩くなって、皆がやりたいことを十分に楽しめる自由な日常が戻ってくるのではないだろうか。そう考えるとワクワクする。人生に「ワクワクする」とか「楽しい」というような感情はどんなに暗い世の中であっても失ってはならない。そんな、人生に必要不可欠な感情を歌っているのが『三毒史』に収録されている「ジユーダム」だ。この曲は2016年の閏年に集った、伊澤一葉、浮雲、亀田誠治、刄田綴色、そして椎名林檎の五人で結成されたバンド・東京事変によって演奏された一曲で、ＮＨＫ制作のバラエティー番組「ためしてガッテン」のテーマソングである。椎名自身はこの番組の愛好家で、2019年に同局制作の音楽番組「ＳＯＮＧＳ」内で、「忙しい世の中だからこそ、レシピにしろ健康にしろ、すごく合理的にやれる方法がもっとあるんじゃないかって、私たちの代わりに実験してくれる。泣けるくらい有難いおはなしが多い。有難くて大好き。」と語っているほどで、楽曲の歌詞にも、〈楽して得しよう〉とか〈支点力点作用点合点お金よりも頓知を〉というように番組への愛がふんだんに込められていたり、2018年の実演「(生)林檎博′18　不惑の余裕」で披露した際には、ステージ上のモニターに司会の立川志の輔氏と小野文恵アナを映し出すという演出があった。それ以外にも「ＳＯＮＧＳ」では番組のセットの中で歌唱したり、2021年6月には東京事変のメンバーとともに番組の特別編へ出演を果たしている。
　日常生活の様々なことをちょっとした知識や工夫で楽しめるヒントが詰まった番組が「ためしてガッテン」であるならば、そのテーマソングである「ジユーダム」は一日の始まりや人生そのものを彩ってくれる1曲だと思う。軽快な伊澤のピアノが奏でるイントロからしてもう最高の1日が幕うぃ開ける気がする。そして、
〈お早う　下ろしたてのときをどうしようか　一切合財全部からきし未定わーい　遊ぼう思い切り寝て食べて飲んで　たのしいおいしい頓知〉
〈落ち込んだら次回はみんな順番に笑おう〉
〈敵か味方か勝ちか負けかを決めた瞬間急に世界があーあ暗く狭まっていくの　見ていたでしょ？さあ還ろう自由へと〉
と楽曲のタイトル「ジユーダム」にふさわしい歌詞が続く。
　この楽曲と、『日出処』に収録されている「自由へ道連れ」、それから東京事変の最新アルバム『音楽』に収録されていて椎名が作詞を手掛けた「緑酒」にも当てはまるのだが、彼女は【自由】を歌うのがとても上手だと思う。【自由】とはどういうものであるか、それに対して私たちはどうあるべきなのかを、その時代や空気に合わせて言葉を丁寧に紡ぎ、世の中に出している。【自由】が制限されて、その意味を見失いそうに(もう見失っているのかもしれないけれど)なっている今、彼女のこういった楽曲に救われるリスナーも多いのではないだろうか。実際に私も、子の暗い世の中で生活していく中で、幾度となく「ジユーダム」をはじめとする【自由】をテーマに歌う楽曲に救われている。物凄く落ち込んでしまった後にはちゃんと心から笑えるようになったし、すべてが未定で宙ぶらりんになりそうな1日も以前ならゴロゴロして終わってしまうことも多かったのだが、そこで何をしようか、と普段なかなかできないことをしようと考えたりしてワクワクするようになった。一種のまじないみたいなものだとは思うけれど、彼女がかけてくれたこのまじないは、日々を生活していく私たちへの愛がたっぷり込められていて、この世の中を得しながら楽しくわたっていくためにも必要なのだ。

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　「自由」を歌う椎名や東京事変の楽曲はこれからも聴き続けられるべきだと私は思う。

　明日は本編最後。