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サンタマッダレーナ

「どこの村なんだろう。スイスの山奥かな。」

通勤ラッシュの大阪駅。あぁ、今日も仕事か・・・。
仕事の日はいつも9,10番ホームの階段の上にある、桃源郷のような景色に想いを馳せていた。

それがフネス谷にあるサンタマッダレーナ村との出会いと日常だった。

秋に嫁さんと五歳の子供を連れてイタリアに行くことになった。
一人旅か子供と二人旅だったら間違いなくドイツに行くのだが、嫁さんの隣でICEを追っかけたり模型店巡りをする訳にもいかない。
五歳の子供もだいぶ山歩きが出来るようになってきたので、今回はドロミテに行ってみることにした。

オルティセイからロープウェイに乗って

旅行直前に嫁さんに持っていく服について聞かれ、ドロミテの気温について調べていると、ある村の写真が目にとまった。

「あれ?いつも大阪駅で見てる写真の村だ。」

ずっとスイスの山奥にあると思っていたその村は、どうやらドロミテにあるようだった。
サンタマッダレーナという名前の村らしい。
この景色を自分の目で見てみたい!

宿の予約リストを見ると、ドロミテ初日の宿だけキャンセルが可能で、
サンタマッダレーナ村の宿もかなり値は張るが一軒だけ空いていたので、予定を変更して行ってみることにした。

いよいよサンタマッダレーナ村に向かう日の朝、バスに乗ってヴェローナに向かうところ、どれだけ待ってもバスが来ない。
結局、ヴェローナ駅に到着した時は45分遅れて、予約していたOBBのミュンヘン行を逃してしまった。窓口に行ってもお金は戻ってこなかったし、正規のFSを買わされて高くついたけど仕方がない。

ヴェローナから素晴らしい景色が続く

ヴェローナからブレッサノーネまで列車で向かい、路線バスに乗り換える。
そしていよいよ、ずっと夢見ていたサンタマッダレーナ村へ。

バスを降りて宿に荷物を置きに行く道に、馬が何頭もいたり、遠くからカウベルの音色が聞こえたり、宿にはウサギ、猫がいたり、思い描いていた以上の光景だ。
ゆっくりしたいところではあるが予定より一時間も遅れているし、私は何よりあの景色が早く見たい。

ここだ。

これまで世界中を旅してきたけれど、こんなに調和のとれた景色を今まで見たことがない。

このアングルが一番きれいに、完璧な構図?で撮ることができる。

さて、憧れの景色を見ることができたことだし、宿に帰ってゆっくりしようかと坂を下っていると、さっきのビュースポットにどんどん人が集まってくる。どうやら夕日の写真を撮るようだ。
子供を連れた家族旅行だし、だいぶ曇ってきたので、今回はそういうのはいいかな。と思ったのだが、せっかくなので後で一緒に商店に行く約束だけして私だけ残ることにした。
これは本当に失敗だった。さらに人が増えてきて、もう少し待ったら良い写真が撮れるかもしれないと、その場を離れられなくなってしまった。

最後の写真

この村にレストランは無さそうだったし、さすがにそろそろ下りないと商店が閉まってしまう。子供も嫁さんもお腹を空かして待っていることだろう。最後に一枚だけ写真を撮って、宿に向かって全速で走った。
すると、さっきまで曇っていた空から太陽が顔を覗かせて、岩山が赤く染まって幻想的な景色になった。
やってしまった。
夕焼けの瞬間は晴れやすかったりするのかな?
しかも、急いで行った商店はグーグルの情報と違って閉店時間を過ぎていた。
嫁さんには怒られるし、食べるものもないし、夕焼けの写真は撮れないし、最悪の事態になってしまった。
この日、撮影に来ていたカメラマンや観光客にとっては最高の瞬間となっただろう。
後から知ったのだが、サンタマッダレーナ村で宿泊するなら夕焼けの写真を撮るのはイベントの一つらしい。バスが遅れなかったら早めに宿に帰って、そんなイベントに気付かずに幸せだったのかもしれない。
夕焼けに染まったサンタマッダレーナ村がどんな景色になるのか、私は知ることが出来なかった。

翌朝、岩山の近くをハイキング。午前中は逆光。

翌日は岩山の近くをハイキングすることにした。ドロミテの素晴らしい山々を前にしながらも、私は昨日のことが悔しくて頭から離れない。
帰国してしばらく経っても、日本の綺麗な秋の夕焼け空を見る度に、見ることが出来なかったサンタマッダレーナ村の景色を想像してしまう。
何でこんなにも悔しいんだろう。
いろいろ考えているうちに、写真を撮ってばかりの旅行に違和感を覚えるようになった。私は写真家ではないし、今回の夕焼けの写真を撮ることが出来ても、パソコンに保存してたまに見返す程度だろう。
例えば、前回の旅行で乗ったNight Jet の写真は200枚くらい、今回のサンタマッダレーナ村の写真も同じくらいある。
多すぎるよね。
0が理想ではあるが、数枚でも良いかもしれない。
もっと心から旅行を楽しみたい。
憧れだったサンタマッダレーナ村。
写真を撮ることにとらわれずに、子供と一緒にもっと動物と戯れて、嫁さんと綺麗な景色を眺めながら、色んなことを語り合っても良かったのかもしれない。

そんな事を思うようになって、パソコンに保存された写真を削除するようになった。何千枚、何万枚も。

来年、10日間くらいモロッコを旅行する予定がある。この時は鉄道以外の写真の数を70枚くらいに抑えてみたい。
そして何年後、何十年か後にまたサンタマッダレーナ村を訪れたときは、写真を撮ることに気を取られずに、心ゆくまでのんびりと過ごしたい。

どこまでも魅力的なサンタマッダレーナ村

ところでこのサンタマッダレーナ村、ドロミテの中でもダントツに綺麗だと思うのだが、
なんと!地球の歩き方「イタリア」「ミラノ ヴェネツィアと湖水地方」に載っていない!!

私にとっては、
ついに桃源郷を見つけてしまった!
ような感じだ。

あなたにとっての桃源郷はどこですか?

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