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第1話 満開の桜よりも綺麗なもの。

僕が、この時期に
あちらこちらで夢中になって
桜の写真を撮るのは

やっぱり、あの時に
魔法をかけられたからだと思う。


🌸 🌸 🌸


春に咲き誇る花は、
桜だけじゃない。

本当にたくさんある。

桃の花の可愛らしさと
そのボリュウーム感には
むしろ、潔い美しさを感じるし


菜の花畑の黄色い鮮やかさは
僕のハートを
ポカポカ陽気にさせてくれるし


芝桜に至っては

幼い女の子の可憐さと
そこから女性へと変化を遂げる
凛とした美しさが同居して

その立体感のある花柄の絨毯に
身をゆだねたくなる。


だから、
桜だけに惹かれて

他の花たちの何百倍もの
写真を撮りまくるのは

未だに謎だ。



だからこそ、
あれは、間違いなく、
魔法にかけられたんだと思う。

あの入学式。

生まれて初めて身に纏う
学ランの襟が苦しくて

何度も首を左右に振っては
据え直していたし

すぐ右隣の机には
ほんの数週間前まで
ズボンばかり履いていた

同級生だったハズの
女の子の制服のスカートが
やけに気になった。


別の小学校から来た
男子、野郎どもにとっては

その同級生の女子は
異性であっても
女性ではなかっただろう。


それでも、僕には
よその小学校の女子を

単なる異性ではなく
女性と感じていたのだ。


少なくとも、
僕にはそうだった。



制服という統一感が
むしろ、1人1人の
内なる輝きを引き立て

出身校以外の女の子が、
めちゃくちゃ眩しく見えたのだ。


このときめき・ドキドキが、
恋の始まりだなんて

あの入学式の日には
全く想像もできなかったけど

あれは
間違いなく魔法だ。


神様がこの日のために
用意周到に準備してくれた
魔法だ。



最前列窓際の僕の机から
右肩45度に振り向いて視界に入る

廊下側の席に座る
4、5人の女の子たちの輝きと

そのおしゃべりの華やかさは、
今でも鮮明に思い出される。


あの日の校庭に咲いていた
満開の桜を眺めるよりも

その輪の中に入って…
と思わせる

素晴らしい角度だった。
眺めだった。


だから、
それから僕が、

どの子たちも好きになったし
そのどの子も本命だったことも、

今、ここに記したい。




あぁ…

神様!
ありがとう。


あの日の校庭に咲く
満開の桜よりも

美しく輝かせる
人間のエネルギーを
僕に教えてくれた。


🌸 🌸 🌸



そして、それから、
なぜだか、

右肩45度で咲き誇る
女子たちとは別の女子も
好きになる。


神様のイタズラだろうか。
それとも必然だったのだろうか。


僕は毎朝、
小麦色に焼けた
彼女の顔から、こぼれ出る

白い歯の微笑みを眺めては
安心するのが日課となった。


来る日も、来る日も
眺めては、眺めては、眺めては、
安心する日が続いた。



そして、
ついに、その時が来た。


今がチャンスだぁ!


なんて思いもせずに
言葉が先走っていた…。




何で泣いてるの…?
何があったの…???





と、すれ違い様に
反射的に声をかけた。


同じクラスの女子と
階段の踊り場から

一緒に泣きながら
上がって来たからだ。


彼女は、
もう1人の女子を
抱えながら、涙も拭くこともなく


 大丈夫。大丈夫。




と、ろくに僕の顔を
見ることもなく
僕らの教室へと入って行った…。




涙の訳は...。』に続く... 

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