初めて手にする翼〜日米の初等練習機について
新年最初のヒコーキエッセイは基本に戻って練習機でいきたいと思います。自分も以前の仕事で携わったので思い出深いのです。
初等練習機は、飛行機乗りを目指す人たちにとって、最初に乗る機体で初めて空に上った緊張と感動とともに忘れられないものだと思います。
戦闘機乗りを目指す候補生たちは、エンジン出力の小さい初等練習機から始まって、中等練習機、高等練習機へとアップしながら訓練していく訳ですが、今は航空機の進歩や効率化に従い、初等からジェット化されたり、同一機種で訓練過程をこなせるようにどんどんと変化していきます。
しかし、どんな最新鋭のジェット戦闘機を操縦している凄腕ジェットファイターであっても、最初の頃は小さなエンジンを搭載した初等練習機からスタートするのは変わりません。今回は主に戦闘機用の日米の練習機について語ります。
■日本の初等練習機といえば富士重工製
日本の初等練習機はもう、富士重工業(SUBARU)というくらいに知られています。最近のニュースで航空自衛隊の次期練習機をT-6「テキサンII」に決定したそうですが、これは富士重工業のT-7の後継機になります。テキサンIIは現在、世界中で使用されている機体なんですが、初代のT-6テキサンとはなんの関係もないそうで。
さて、富士重工業製品の練習機は沢山あるのですが、その系統をたどると一つの機体に行き着きます。それは米国製のT-34メンターという飛行機。
1953年が初飛行という優秀な機体であり、この機体をベースにして、富士重工業が陸海空の仕様に合わせて改造・改良を続け、LM-1、KM-2、T-3、T-5、T-7などを開発してきました。70年近い長い歴史があるのです。分かりやすく系統図をちょっと作成してみましょう。
元を辿るとたった1機の飛行機ってスゴイですよね。このT-34も元はビーチクラフト ボナンザという軽飛行機で今も現役で長寿を誇っています。
空自では縦に二人乗り仕様で、海自では対潜哨戒機などの大型機の他座が多いので4人乗りにしてあります。
エンジンもレシプロエンジンからターボプロップエンジンにしたりして、何度も改修、改造を行いアップデートを繰り返しています。基本設計が優秀なんでしょうね。
■初等、中等、高等練習機の違い
さて、練習機の初等、中等、高等の違いですが、大雑把に言うとこんな感じ。
初等練習機:富士T-3、T-5、T-7など
主に基本的な飛行技術を学ぶ。操縦の基本や航空機の操作に慣れるように設計。
一般的に小型で、扱いやすい特性であること。
中等練習機:富士T-1、川崎T-4など
編隊飛行など、より高度な操縦技術や手順を学ぶための機体。複雑な操作や飛行条件に対応。
通常、より多くの機能や装置を備えていること。
高等練習機:T-33A、三菱T-2など
多様な飛行環境や特殊な技術(例:戦闘機の操縦など)を学ぶ。高速飛行や高高度飛行、さまざまな運動特性を持つ機体が多く、実践的な訓練が行われている。
■アメリカの練習機といえばT-6テキサン
さて、今回採用予定になるT-6A テキサンIIですが、初代テキサンが存在します。
1930年代から1960年代にかけて使用されたノースアメリカン社製のレシプロ高等練習機です。
第二次世界大戦後は、日本を含む多くの国で使われて、その生産機数は、なんと1万5千機あまり。零戦が1万機、P-51ムスタングが1万7千機あまりですから、すごい生産機数ですね。
日本では1955年から中等練習機として一時的に使用されましたが、尾輪式のT-6に対してジェット機のような前輪式T-34メンターの方が使い勝手がよかったみたいですね。
そのテキサンの初飛行は1935年。メッサーシュミットBf109などが開発された時代ですから、設計は古いと思います。
当初は基本戦闘練習機として採用されましたが、まもなく高等練習機に統合され、本機もAT-6となり、欧米諸国のパイロットの養成に大きな貢献をしました。
1970年公開の映画「トラ・トラ・トラ」で撮影用に零戦に改造されたことが有名です(^^)
■"トロイア人"の異名を持つT-28トロージャン
このT-6テキサンの後継機がT-28トロージャンです。ピストンエンジン式の初等練習機で1949年初飛行、1970年初頭まで運用されました。後継機はT-37トゥイートです。
ちなみにテキサンはテキサス人を意味し、このトロージャンはトロイア人を意味するそうです。トロイア人ってあの「トロイの木馬」で滅亡した人たち?
じゃあ、T-37トゥイートは?と思い、調べてみましたが、こちらは「さえずる鳥」という意味でした。もう、インディアンとか、ギリシャ人などの人名シリーズでいって欲しかったです(笑)
■日米共に初等練習機はT-6 テキサンIIへ
さて、初等練習機を中心にみてきましたが、日本の今後は現在アメリカが採用中のT-6 テキサンIIへとなりそうです。この機体の原型機はスイス社のピタラスPC-9というターボプロップ機。そしてこの機体もPC-7という機体が基本となっています。
こうしてみると、とある優秀な機体を時代時代に合わせて近代化したりエンジンを換装し直したりしているのですね。ゼロから設計するのではなく、とある機体を元にバージョンアップしつつ近代化をしているのが現代の主流のようです。
いずれにせよ初等練習機という存在は、パイロットたちにとっては初めて手にする翼なわけです。思い出深いものがありますよね。いつまでも安全な飛行を心がけて欲しいものです。