父の話。

父親に抱かれた記憶が無い。
手を繋いだ記憶もない。
赤ん坊の頃の写真で父は私を抱いているけれど、記憶の残っている限りでは覚えていない。

私の最初の記憶は強烈で、今でも鮮明に覚えてる。
3歳だかそのぐらいの頃。
何があったのか知らないけど、夜中にふと目が覚めて横を見ると、私の隣で寝ていた母親の首を、父親が馬乗りになって締めようとしていた。
母親は熟睡していた。
父は私が起きていることに気づいて部屋を出ていった。
あの時、父をそうさせた動機は何だったのか未だ知らない。

私が産まれた頃、父は某業界大手の本社勤務、課長だか部長だかの役職でバリバリ働いていた。
戸建ての家も買い、特別にレンガ職人に頼んだという塀と、立派な門がある家だった。
庭には砂場があって、犬とアヒルを飼っていた。
傍目には幸せな家族に見えただろう。

父は仕事が多忙で帰りも夜中で、あまり遊んで貰えなかった記憶がある。
一緒にご飯を食べた記憶もない。

母もまた、父の会社の系列でエステ店を営んでいて忙しく、私は赤ん坊の時から幼稚園に入るまで託児所に入っていた。
当時は父方の祖母がまだ健在で同居していたので、夜は祖母が作ったご飯を食べることが多かった。
ご飯の間、祖母は母の悪口を頻繁に私に聞かせた。

幼稚園に上がった頃だっただろうか、怖い男の人たちが夜中に大声を上げながら家の玄関を叩きに来るようになった。
玄関に殴り書きで張り紙もされていた。
その頃から父親と母親が激しく言い合いをする事が多くなり、私はいつも耳を塞いでいた。

父は自宅を抵当に入れて、莫大な借金をしていた。

気が向いたら続く

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