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原優二のコロナ奮闘記vol.6 雇用調整助成金の上限はなぜ上がらないのか? 30APR.

2020.04.30 12:10

先週の本稿で、いいニュースだと思い「政府が雇用調整助成金の上限8330円の引き上げの検討に入った。与党内からは上限を1万5000円まで引き上げるべきなどの声が出ている」と紹介した。しかし、補正予算の国会審議の中で、加藤勝信厚生労働相に、雇用保険という保険制度の中で運用しているので難しいとあっさり否定されてしまった。ぬか喜びだったが、何事もそんなに簡単にはいかない。きっと実現すると私は思っている。

それにしても、上限8330円があるから恩恵にあずかれるケースは少ないと野党が繰り返し訴えても、回答は助成率のことばかりであった。挙げ句は、緊急事態宣言による休業要請に応じたら助成率を10割にして全額助成するとまで説明されて、あたかも賃金が10割保証されるような印象までふりまかれてしまった。

どうして、こうも頑ななのだろうか。狙いは一体どこにあるのか。以下、計算して考えてみた。使用する数値は、平均年収は本来は18年度の雇用保険加入者全員の平均年収(18年度労働保険料等算定基礎賃金より計算)を300万、250万、200万円と3段階で想定し、所定労働日数は就業規則によって各社異なるが、週休2日祝祭日と年末年始を休日としているケースを想定し年160日、月20日とした。

①助成率が2/3(大企業は1/2、制度本来はこの数字)の場合 平均年収300万円÷12月÷20日(月の所定労働日数)×助成率2/3=8333円
②4~6月の3カ月の特例措置で助成率が4/5になれば、平均年収250万円÷12月÷20日(月の所定労働日数)×助成率4/5=8333円
③ 休業要請に応えて助成率10割なら平均年収200万円÷12月÷20日(月の所定労働日数)×助成率10割=8333円

すなわち、特例措置がない助成率2/3でも年収300万円、助成率4/5なら250万円、助成率10割なら年収200万円で上限に達する。しかも、この年収にはボーナスも含む。年収200万円とは、ボーナス除いて月収16万6666円である。つまり雇用調整助成金の上限8330円×20日(月の所定労働日数)=16万6600円とこれくらいの収入を想定している。もちろん、会社で補填して実質的に給料がなるべく減らないようにする努力もすべきで、100%国に保証してくれなどとは言わないが、政府が雇用を守るといって10割保証すると想定する労働者の給与とはこんなに低いのか。

また、月給16万6600円とは、週5日、実働7時間、時給1100円で月20日勤務の場合の15万4000円の給与とほぼ同じである。緊急事態宣言で休業要請をしているが協力金は払えても休業補償は絶対にできない。その代わり、雇用調整助成金の助成率を10割に上げて、従業員の賃金を保証することで、何とか休業要請を受けてもらいたいということが狙いということになろう。居酒屋やレストランで働く人たちの低賃金は、月給16万6600円程度と想定しているということか。

いまは緊急事態宣言を実のある結果にするのが喫緊の課題だということは理解できるし協力もしている。しかし、雇用調整助成金は、本来は雇用を守るためのものであって休業補償のためではない。

そもそも、雇用保険制度の中で運用しているというが、雇用調整助成金は、通常は直近3カ月の売り上げが前年同期比10%低下していることが申請の条件になっている。すなわち、この制度は売り上げが10%以上落ちた場合に社員の何人かを輪番で休業させることを想定している。だから年間100日あれば足りると設計されている。

月の所定労働日20の内、5日ほどの休日で済むくらいの仕事があって、売り上げが10~30%減くらいの状況なら、これでも雇用維持の制度として十分機能するが、いまは私たち旅行会社は100%減、つまり全く仕事がない。そもそもこんな状況はこの保険制度は想定していない。だとしたら、政府が特別に金を入れて保険制度そのものを支えなければ雇用を守ることは不可能である。もちろん、旅行産業だけではないから相当の額になるだろう。新しい制度を作る時間はない。即実行してほしい。

上限8330円の1万5000円への引き上げとクーリング期間撤廃を前提とした3年300日の実現。さらには家賃半額補助。この3点が生き延びられるか否かの条件である。これが実現すれば2年は生き延びられる。

火曜日にハローワークに行ったら郵送で休業計画、支給申請ができるようになっていた。ハローワークも進化している。現場はどこも大変だ。職員の皆さんに感謝のエールを送りたい。

原 優二
風の旅行社代表取締役社長。1956年生まれ。東京都職員、アクロス・トラベラーズ・ビューローなどを経て、91年に風の旅行社を設立し現職。2012年からJATA理事、16年から旅行産業経営塾塾長を務める


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