見出し画像

厚生労働省有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」とは何だったのか?~CBD製品への影響~

こんにちは

ワンインチの柴田です。

2021年1月13日から5月14日現在で計6回にわたって開催されている厚生労働省主導の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」がいよいよ佳境を迎えています。

14日、NHKで医療大麻解禁への報道がありました。報道という形で出されたということは、報道の内容通りでほぼ確定とみてよいでしょう。

また、同日付で使用罪についてのニュースも報道されています。

今回は、そもそもこの有識者会議の目的、具体的な議論の内容、最終的にどのような帰結をみたのか。
また、この決定によって日本の大麻を取り巻く状況はどうなるのか、特に市井のCBD製品にどのような影響があるのかについて書いていきます。

「大麻等の薬物対策のあり方検討会」開催の背景

ではそもそもなぜ、(しかも突然に)厚生労働省内でこのような有識者会議が行われたのか、その背景について考えていきたいと思います。
厚労省発表の資料では、開催趣旨が掲載されていますが、こちらをざっくりと要点だけをまとめました。興味がある人は、原文も一部のせていますので、そちらも参照してください。

要点
①医療側からの強い要請がある。
②社会での大麻使用(特に若年層)が増加している背景があり、問題ありと認識している。
③医薬品としての大麻使用については、世界的には認可される動きがある。
この3点が大きな背景としてあると思います。

我が国における薬物行政については、戦後制定された薬物4法を基本として、取締りをはじめとした各種施策が実施されてきたところであるが、このような取組の結果、違法薬物の生涯経験率は諸外国と比較して、著しく低くなっているなど、高い成果を挙げてきている。
一方で、大麻事犯が増加傾向にあり、特に、若年層における大麻乱用の急増や、再犯者率が増加しているとともに、大麻ワックスなど人体への影響が高い多様な製品の流通が拡大している。また、昨今、医療技術の進展等を踏まえ、諸外国においては、大麻を使用した医薬品が上市されているとともに、WHOやCNDにおいても、大麻の医療用途等への活用に向けた議論が進められているところである。
このような社会状況の変化や国際的な動向等も踏まえつつ、今後の薬物対策のあり方を議論するため、大麻等の薬物対策のあり方検討会を開催する。
https://www.mhlw.go.jp/content/000718282.pdf 「大麻等の薬物対策のあり方検討会 開催要綱」より抜粋

再度要点を書くと、
①医療側からの強い要請がある。
②社会での大麻使用(特に若年層)が増加している背景があり、問題があると認識している。
③医薬品としての大麻使用については、世界的には認可される動きがある。

②の大麻使用の増加については、恐らくマトリ(厚生労働省管轄、麻薬取締部)と警視庁・警察庁等からの要請があったのではないかと予想されます。
実際にコロナ禍において若年層(中学生~大学生程度)の大麻使用の報道が盛んに行われていた背景とデータがあります。

画像3

①と③の医療関連についてはセットだとは思いますが、WHOによるスケジュール変更や各国における非犯罪化や合法化のニュースがある中、日本でも厚生労働委員会において、難治性てんかんの治療薬としてエピディオレックス(CBD製剤)の使用が望まれていることが明らかになり、知見を沖縄赤十字病院で行う予定であることも発表されていました。
しかし、こちらは大麻取扱免許を医師が持っていないため状況が硬直しておりました。

これらを背景に今回の有識者会議が行われることとなったのだと推測されます。
今回の議論は、「厳罰化と医療大麻解禁」のトレードオフが、既定路線のである印象を受けざるを得ません。

現に使用罪創設のニュース(NHK)は、発表後、有識者会議に出席した委員から「そのような事実はない」というコメントが出されています。
しかしこれは、有識者会議とは関連のない状態で官僚側から恣意性(わざとらしさ)をもって情報がリークされた可能性があると思います。
つまり、わざと情報リークしておき、後に事実はないということによって、何らかの意図を世間に広めるという手法で、これは、今回に関わらず良くあることは周知の事実かと思います。(いわゆる「アドバルーン」や「観測気球」にも似ています。)

医療大麻について

画像4

次いで基礎情報となる「医療大麻についての種類」をここで押さえておきたいと思います。

私見となりますが「医療大麻」は大きく2種類に分類されると考えています。

①大麻成分の入った製剤を医薬品として利用すること
②大麻自体を医薬品として利用すること

以上の2つです。

画像5

今回の議論では、①の大麻成分を主とした医薬品の解禁に関する方針を示したもので、②の大麻自体を医薬品として利用するのでは無い事に注意が必要です。
上記①②が混同して語られるため、「医療大麻解禁=大麻を吸う」の構図で捉えられがちです。
大麻反対の動きは、このイメージで語られることが多いと思います。

大麻成分を用いた医薬品にはエピディオレックス(CBD製剤)とサティベックス(CBDとTHCの混合製剤)などがありますが、特にエピディオレックスについて海外での難治性てんかんの治療薬で用いられているため、解禁していこうという動きです。

画像6

THCを含んだ医薬品についてはもう一歩先にあり、覚醒剤指定されているような薬剤(モルヒネやコンサータなど)と同じような、輸入業者の指定、ロジの透明化と免許制などが整備されないと難しいという見解も示されました。

部位規制から成分規制へ

画像1

日本には大麻取締法があります。
今回こちらの法律を見直し、大麻成分であれ医薬品の場合には認めていく方針が指し示されています。

上記の『大麻取締法の規制の見直しについて(案)資料2』で示されていることは、非常に大きな転換点となりうるもので、従来の部位規制から成分規制へと動いていく可能性があるのです。

これまで大麻取締法では成熟した茎、または種子を除いた部位は違法とされておりました。

画像7

これはGHQによる法律で、戦後直後は日本には多くの麻文化があり、これが嗜好用大麻として喫煙に使われることを恐れ、神社のしめ縄や繊維に使う茎と、食品などに使う種は合法とし、それ以外の部位は違法としたのです。
他の覚醒剤は「麻薬及び向精神薬取締法」で一括されていますが、大麻のみこの法律とは分離され制定されました。

当時はCBDやTHCや他のカンナビノイドなどの成分に関することは未知の分野で、成分規制は行えませんでした。

その後、他国で研究が進み、大麻には多くの成分があることがわかりました。
多くの国(日本を除く)では成分規制が当たり前となっていきます。現代では最も依存性・毒性があると考えられるTHCについても医療分野から徐々に認められ、国の管理下で使用できる国や地域も増えてきているのです。

日本では大麻取締法制定後、ほとんど大きな改正があることがなく、また検討すらされないまま、これまで放置されていたという経緯があります。

今回、有識者会議の資料や議事録で盛んに言われていたのが、現行の部位規制では、グローバルスタンダードや日本を取り巻く大麻の現状を考えたときに、時代にそぐわない状況になりつつあることから「成分で規制するべき」という内容でした。

これまで「大麻、ダメゼッタイ」としていたものから「大麻成分THC、ダメゼッタイ」に変えようということです。
また、THCに関しても上記にあるように厳格な管理の下で流通網がコントロールされていれば、医薬品として承認される可能性も言及されました。これはかなり踏み込んでいると思います。
THCは決して悪者ではありません。しかし、カンナビノイドの中でも依存性中毒性、身体に対する影響は他カンナビノイドより遥かに高いことが分かっているので規制側の論調としては理解できます。
また将来的に医薬品として使えるようになるのであれば本当に必要な人には届きやすくなるのではないかと思います。

CBD事業者としては、これまでの部位規制というあやふやな基準は、製品の輸入取り扱いをする上で綱渡りのような危険をはらんでいました。先だってNOTEの記事にも繰り返し書いていた内容が、解決の方向に向かうことを非常に喜ばしく思います。

使用罪について

今回、医療としての大麻成分を認めていくということに加えて、一般の大麻使用罪についても厳罰化していこうという裏テーマがありました。
しかし、ここについては有識者からも異論が唱えられました。
ただ、先にも書いた通り、使用罪創設にむけて厚労省は動いていく可能性が高いため、ここについては「既定路線」であったとみています。

そもそも、これまでなぜ大麻は所持は違法で、使用は違法ではなかったのかについて簡単に説明します。

現時点の大麻取締法では、大麻栽培者は免許制です。日本でも大麻栽培をしている方は存在します。

画像8

画像9

しかし、収穫が許されているのは茎のみです。
他の部位に関しては綺麗に取り除き破棄することが法律上求められます。
大麻は常にカンナビノイドを成分として含んでいるため、栽培時、収穫時に吸引した農家の方や、周辺に住んでいる方が使用罪で逮捕されることを防ぐために使用罪は規定しなかったのです。

他方で一般人においては「所持しなければ基本的には使用できない」という解釈から、所持を逮捕の根拠としたのです。
しかし近年、この法律の解釈を逆手にとり「所持は他人で自分は使用のみ」という釈明をする人が出てきたことから捜査当局側が使用罪の適用を急いでいたという向きもあります。

今回、報道ベースで使用罪の創設に向けて動くとのことですが、実際に使用罪を適用しようとしても、基準の設定が大変難しいと思います。副流煙の問題を例にとると、「体内からの検出成分=使用」を立証することは、困難や混乱を招くことは容易に想像がつきます。

実際に法律に落とし込む際に実用が困難なため、非常に限定的な法運用となるのではないかとみています。

市場のCBD製品に影響はあるか

今回の有識者会議で大枠として決まったこと
・医療大麻(主にエピディオレックス)解禁
・使用罪の適用
から現在の一般用CBD製品にどのような影響があるのか考えてみます。

食薬区分について

画像2

まずはCBDが医薬品として指定されることで、一般用食品(または化粧品など他の物品全て)として使用が不可能になるのではないかという懸念です。

たしかに、基本的には医薬品に指定された成分は、他の一般用には転用できません。

しかしCBDは天然由来のものであり、いわゆるタウリンやカフェイン、EPAなどと同様に食薬区分が行政によって設けられる可能性が十分にあります。

これまで日本人は麻の実は日常的に摂取してきましたし、CBD市場も現時点で恐らく10億円を超える市場規模になっています。

またCBDについては劇薬や毒性の強い成分との認識は行政側にはないため、THCの基準を厳しく設けたうえで、CBD製品は市場に残り続けるのではないかと考えています。

そもそも、議事録や資料をみても市井のCBD製品についてはほとんど言及がなく、厚労省による「まとめ」の文章の書き方としても既存のCBD製品を排除しようとする動きは見られません。

弊社のロビーイング活動としてもこの辺りを中心に慎重かつ大胆に進めて行きたいと思います。

こちらに食薬区分についての見解を記します。

特定の成分本質を使用しただけで医薬品に該当するか否かについては、単にその成分本質が使用されている医薬品が存在するだけではなく、その成分本質が「専ら医薬品として使用される成分本質」に該当するかによって判断されます。(「専ら」の有無が重要になります)。
専ら医薬品として使用される成分本質であるか否かは使用実態、毒劇物に該当するか、麻薬様作用があるか、処方箋医薬品に相当する成分を含み医薬品として規制する必要があるかで判断されます。
この判断は少々あいまいな点はありますが、実態として医薬品にしか使用しないものであるかが重要になってきます。
なお、専ら医薬品として使用される成分本質であるか否かは厚労省に判断を求めることができ、専ら医薬品として使用される成分本質ではないと判断された場合には、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」に掲載されます。こちらに記載のあるカフェイン、EPA、DHAはいずれも当該リストに掲載されているため安心して医薬品に該当しないものとして取り扱われています。

物の成分本質(原材料)について 東京都福祉保健局

使用罪とCBD

使用罪が創設されたとしても先述のとおり、非常に限定的な法の運用になるのではないかと感じています。
それは、使用罪を単にTHC成分のみでみた場合、副流煙によるものや、CBD製品に混入する少量のTHCとの見分け・判断がつかないであろうと考えるからです。

先日も、ボクシングの井岡選手がCBDオイルを使用したと主張する中で、恐らくTHCがドーピングとして検出され、警察の捜査も入ったが捜査は終了し、ボクシング協会の判断待ちというニュースをお伝えしました。

このような事案が起こり得ることも踏まえて、使用罪にはとても慎重な運用が求められますし、実際の法律に落
とし込まれる際にもこの辺りの例外は勘案されると考えます。

また、他法案ではありますが、五輪開幕に向け、今国会で「医療用覚醒剤」法改正を議員立法で提出する予定とのニュースも出ました。

こちらは東京オリンピック・パラリンピックに出場予定の外国人選手のなかに、ADHDの治療薬として「アデラール」という医療用覚醒剤(日本では未承認の薬物)の使用が不可欠な人が十数人いると見込まれており、限定的に使えるようにしようという法案です。

こちらはADHDの薬ではありますが、こちらの議論にCBDも盛り込まないと、現時点では大麻は部位規制で成分規制を実質運用しているに過ぎないので、違法部位から取られたCBDを海外の選手が持ち込む可能性は十分に考えられます。

今回のメインのお話とは少しズレますが、オリ・パラにおけるCBDの使用についても予め政治家、官僚、捜査機関が共通認識として持つ必要があるように感じます。

まとめ

厚生労働省による有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」による議論において
・医療大麻解禁
・使用罪の検討
・部位規制から成分規制へ
という大きな枠組みが話されました。
その中では依存症になっている方やその家族の思い、医療の喫緊の課題として本当に必要としている方の話など意義深い内容が多々ありました。

厚労省にはこのような様々な意見を経へ短絡的に法を変更するのではなく、現実にみあった適切な改正に向けて検討を進めて欲しいと思います。

弊社としても引き続きロビーイング活動を行い、より良い市場形成に向けて前進していきます。

いいなと思ったら応援しよう!