ツミデミック
一穂ミチ 2023年
・あらすじ
第171回直木賞受賞作(2024年7月)
・感想
コロナ禍を描いた作品でした。とはいっても、一括りにできるような内容ではありません。感染症本体はもちろん、コロナが巻き起こした弊害とそれに伴う人々が感じる圧迫感や閉塞感についてもしっかりと描かれておりました。
失業して転職したり、これからどう生きていこうかと悩んでいる姿、借金をそこから借りて何とかしようと試みるものの、返せないうちにどんどん膨れ上がっていき、働き詰めた結果入院することになってしまった。娘が同級生と関係を持った結果、妊娠してしまった。自殺を考える者の話など、本当に現代のリアルな日本の姿といった感じでした。
実際に、コロナ禍を境に生活困窮者が増えたことや、メンタル的な問題を抱えている人が、増えたと聞いたことがあります。こういったところを、普段生きている私たちの視点から描きつつも、客観的に綴っているように感じます。
誰かと話している時、「社会の汚さ」ということがよく話題に上がりますよね。私はコロナ禍以前よりも、社会は汚くなってしまったのではないかと感じます。日々生きている中で、そう感じることが増えたように思います。不必要に誰かを蔑んだり、逆に蔑む側に回ってしまったり、自分が勝手に作ったイメージで、特定の誰かを見下したり、否定したり。コロナ禍を経て、そういった風潮が世の中全体に広がっているのではないかと感じるところです。だからと言って、私が変えられる問題ではないけれども、誰かと会ったとき、そういった否定的な態度は少なくとも取りたくないなと思うばかりです。
この作品が直木賞に選ばる理由も何となくわかった気がします。現代の汚いところを鮮明に描いているからだと、読みながら感じました。