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新宿駅前のストリートミュージシャン

新宿駅西口前。ストリートミュージシャンがアコースティックギターを手に歌っていた。透き通るような歌声が夏の深夜に響き渡る。疲弊したサラリーマンたちは、ただ頷くように歌詞を追っている。

ずっと昔ブリュッセルの街角で出会った女性ミュージシャンによく似ている。彼女もこんな風にラフな格好をしていて、観客をじっと見つめるような顔つきで演奏を披露していた。束の間の出会いのストーリーを思い出す。
オランダの香り』より

彼女についつい見惚れてしまう。見事なパフォーマンスだ。「人生、好きなことをやればいい」と万人が口を揃えて言うが、そうたやすくはない。人は理想と現実の狭間で悩むもの。好きなことだけをして生きて行ける人はごく僅かであろう。

結局は覚悟が物を言うらしい。夢追いのリスクや、その行き着く果てなぞは百も承知であると。好きなことをやり尽くしたいという情熱が人を行動に駆り立てるのだと思う。彼女からは強くて折れない信念が伝わってくる。

この日、写真の女性アーティストの周囲には大勢の観客が集まっていた。まさに時代を反映するかのような光景だった。バブル期であれば理解は得られなかったであろう。夢追いは社会の脱落者の愚行であると。

あれもダメこれもダメと、そんな世知辛い世の中。苦難から逃れたくとも、自分一人の力でどうにかなるものではない。このアーティストはきっと苦しむサラリーマンたちの心を掴んだのだと思う。


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