大好きになったライブハウス
震災があった年の5月、私は高校2年生になっていた。余震や原発事故の不安は残るものの、授業や部活などが少しずつ再開し始めた。
そんなある日、同じ部活の友人から久しぶりにライブを観に来ないかと誘われた。彼らはバンドを組んでおり、部活が休みの日に何度かライブを観に行ったことがあった。
しかしながら、彼らのやっているジャンルはハードコアパンク。3人の轟音を煮詰めたようなサウンドと共にボーカルの叫び声が耳に叩きつけられる。ライブに行くたびに耳鳴りに悩まされていた。
とはいえ、震災後の自粛ムードにウンザリしていた私は、部活以外でも何か気持ちを発散できる場所を探していた。少し迷った末、行くことにした。今回はいつもと会場が違うらしい。
部活が唯一休みの月曜日。学校が終わるとすぐ仙台駅へ降りていった。東口へ抜けて少し歩き、アイリッシュパブの見える角を曲がると、そこにあった。
黄色いレンガの壁、年季の入った赤いベンチ、重くて黒い扉を開けると、オーナーの方が受付に座っていた。
短く刈り上げた髪、カーキ色のジャケットと何となく強面な印象だったが、他のお客さんやバンドメンバーが親しげに話しかけに集まってくる。どうやら悪い方ではないらしい。
内扉を開けると、赤いチェック柄の床の、学校の教室より1回りほど小さなホールが広がっていた。
私はふと、「CAVERNみたいだ」と思った。ビートルズがデビュー前によく出演していたライブハウスで、レンガ造りの「洞窟」のような作りをしている。そこから、世界に羽ばたくロックバンドが生まれたのだ。そのホールも、何とも言えないオーラをまとっていた。
友人たちのバンドがステージに上がると、弾き出される音はいつもより硬い音だった。耳に来るというよりは、体全体に響き渡るような不思議な感覚だった。震災によって抱えていたジメジメした思いもどこかに吹っ飛んでいき、汗びっしょりになってライブを楽しんでいた。
それからというものの、彼らのライブがあると、よくそのライブハウスに通うようになっていた。そして、私の心の中に「大学入ったら、バンド組んてここでライブしてみたい!」と思うようになった。
その夢を叶えたのはそれから3年後のことであった。